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第48話 ベルーナ、どいて、それ壊すから!

「ベルーナすぐにそのマナボックス止めて!」


「は、はい!」


 俺が指示を出すとベルーナはマナボックスに駆け寄り、スイッチをガチャガチャと押下する。


「だ、だめです電源を切れません!」


――ギャララァァァ、ギャララァァァ


 警報の音が一段とけたたましいものとなる。


<<第二防御壁を突破されました。魔法障壁管理者は速やかに対処を行ってください。繰り返します。第二防御壁を突破されました。魔法障壁管理者は速やかに対処を行ってください>>


 げげっ、第二防御壁まで真っ赤に染まってしまった。

 残るは最終防御壁だけだ。


「ベルーナ、どいて、それ壊すから!」


 止められないなら壊すしかない。

 たかが機械だ、衝撃を与えたら内部の機械が壊れるに違いない。


 やれるもんならやってみろと言わんばかりのマナボックスを、思いっきり拳で叩いてみた。

 だが少しも停止する様子はない。手が痛い。


 それならばと、俺は近くにあった木製の椅子を振り上げてマナボックスに叩き下ろした。


「ひ、ヒロさん、もう最終防御壁も持ちません」


 俺の渾身の一撃も金属製のマナボックスには効果が無かったようで、モニタの赤色はずんずんと黒色を侵食していく。


「そ、そうだ、水、スムージーは!」


 俺は部屋を見渡すが、そうそう都合よくスムージーが置いてあるわけもない。


――ギャララァァァ、ギャララァァァ


 警報の音が慌てる俺の心に拍車をかける。


「あわわわわ、スムージー、買ってきます!」


 ま、待ってベルーナ、今から買いに行っても間に合わないよ!

 それよりも、液体、液体。水糊か木工用ボンドか。


――ギゃら……ぁ


<<最終防御壁を突破されました。管理者権限を奪われました>>


 淡々と結果を伝える機会音声さん。

 俺たちの必死の抵抗もむなしく、管理者権限を奪われてしまった……。


 がくりと床に膝をつく俺。

 ベルーナは……スムージーを買いに行こうとした体勢で固まっている。


 こんな箱に管理者権限を奪われるなんて……。

 俺は勇者失格だよ、ダメな上司でごめんねベルーナ。

 いくら俺が魔法障壁に簡単にアクセスできるスーパーな力を持ってても、使いこなせなければただのおっさんだよ。

 スーパーな力で魔術士部のデータを盗み見ようとしてバレそうになったり、身分証にアタックして壊したこともあったなぁ……。

 ああ、それはどっちも魔法障壁さんが勝手にやったんだけど。


 クビになるかもしれない事態に、これまでの短い城勤めの内容が走馬燈のように頭の中に浮かび上がってくる。


 …………。


 身分証にアタック……。

 もしかして、魔法障壁さんを使えば……。

 いや……どうしてそれに気づかなかった?


 俺は顔を上げる。

 俺の想いに応えてくれたのか、IDとパスワードを入力してくださいという画面が空中に表示されている。

 俺だけが見える魔法障壁さん。

 

 ありがとう魔法障壁さん。

 簡単に侵入を許した不甲斐ない俺に力を貸してくれるんだね。


 俺は一度折れかけた心を奮い立たせ、IDとパスワードを入力する。


『IDとパスワードを確認しました。管理者権限を実行できます。どうしますか?』


 よし、やっぱりだ。

 管理者権限を奪われたとはいえ、俺の能力が損なわれたわけじゃない。

 簡単に言うと、管理者権限というのは一つだけ存在するものじゃなくて、たくさんの人が同時に持つことができるものだ。

 つまり、不正アクセスしたこのマナボックスは自分で自分に新たに管理者権限を付けただけだということだ。


 まだ、やれるんだ、やれるんだね魔法障壁さん!


『そのようなコマンドは実装されていません。正しいコマンドを選択してください』


 俺の荒ぶる想いがコマンド扱いされてしまった。

 未だに意思疎通を図るのは難しいけど……いつもの魔法障壁さんだ。

 よーし、反撃開始だっ!

  

 魔法障壁さん、敵からの魔法障壁に対するアクセスを防いで!


『管理者権限のコマンドを実行します。ユーザーコード3584167を今後敵と呼称し、アクセスを遮断します』


 よっし、いいぞ。

 魔法障壁さん頑張って!


『敵からのアクセスの遮断に成功しました。

 敵からのアクセス要求は尚も継続中です』


 やった、これで何とかなる。

 防戦一方から攻勢に移るぞ!


『報告。敵からの管理者権限のコマンドにより、アクセスを遮断したコマンドが無効化されました。敵からのアクセスが再開します』


 なっ……やっぱりだめか。

 奪われた管理者権限とはいえ、管理者権限には違いない。

 敵は俺と同じ能力を持ってて同じことが出来るのだ。


 そんな強敵の攻撃をどうやって防げばいいのか……。


「あの、ヒロさん?」


 ふと、ベルーナが俺に声をかけてくる。


 そうだ……俺は今無言。

 頭の中で魔法障壁さんと対話していた。

 多分表情には出てたから、はたから見たら挙動不審の変なおっさんだよ!


「魔法障壁さん、音声を外部に。それと中央モニターに情報を出して」


『管理者権限のコマンドを実行します。これより音声を外部出力します。現在の情報は中央モニタをご覧ください』


「ヒロさん、諦めずに戦ってくれていたんですね。さすがヒロさんです!」


 これでよしだ。

 ベルーナの声援も受けてこのまま一気に行くぞ!


「ヒロさん! こ、これ、魔法障壁の機密情報がコピーされています!」


 中央モニターを食い入るように見ていたベルーナが、それを指さしながら俺に訴えかけてくる。


「こいつ、そんなことを。魔法障壁さん、何か方法は!」


『質問から適切と思われるQ&Aを表示します。

 Q:魔法障壁につないだ機器がおかしくなって管理者権限を実行しはじめたよ。ピンチ!

 A:どうしてそんなことになった。無能な魔法障壁管理者はあとで罰するとして、とりあえずはその機械を黙らせましょう。ああ、無能だからその方法が分からないか。機器情報完全抹消ジェノサイドイレースすればいい。』


 ちょっと、この情報ベルーナにも聞こえてるんだぞ。

 俺が無能なのが白日の下にさらされてしまったじゃないか。

 薄っぺらなプライドだけど、ベルーナにはカッコいい所を見せたい。


「お、おほん。魔法障壁さん、機器情報完全抹消ジェノサイドイレース実行だ!」


『管理者権限のコマンドを実行します。敵に対して機器情報完全抹消ジェノサイドイレースを実行』


 よしよし、なんとか恰好が保った形だ。

 ベルーナの方をちらりと見る。

 俺の大活躍が映し出されているモニターにくぎ付けの様だ。


 モニターには先ほどの三層の防御壁の図と変わって、黒色の画面の中央に赤色円がある図が映し出されている。

 おそらく敵のイメージ図だろう。

 赤色円が敵の本体ということだな。


『敵の防御壁を突破しました』


 早っ!


 魔法障壁さんの声と共に、モニターに表示されていた赤色円がすっと消え、真っ白な空白の円に変わる。

 先ほど敵からアクセスされていた時のようにじわじわと赤を侵食していったのではない。

 本当に一瞬の出来事だ。


 これが機器情報完全抹消ジェノサイドイレース……。


機器情報完全抹消ジェノサイドイレースが完了しました。

 敵は完全に沈黙しました。

 今回行われた敵の行為は魔法障壁に対する不敬な行為でしたので、ついでに自爆コマンドも送っておきます」


 えっ!?


 聞き間違えたかと思った瞬間、小規模な爆発音と共に敵、すなわちマナボックスが爆ぜた。

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