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第46話 ポーションを何本かキメておきました

「ふぁぁぁぁ!」


 俺は大きなあくびをする。

 良く寝た。なんか変な夢を見た気がするけど、どんな夢だったのかは思い出せない。


「で、ここはどこだ?」


 俺は今ベッドの上で寝ている。

 もちろん慣れ親しんだ魔法障壁管理部の宿直室ではない。

 宿直室は畳の上に布団を敷いて寝るタイプだからな。


「病院?」


 柔らかな布団から意を決して体を起こして様子を確認する。

 清潔感漂う部屋の中。俺の寝ているベッドが一つ。

 薄いカーテンのかかった窓は少し開けられており、そこから爽やかな風が吹き込んでいる。

 俺のほかには誰もいない。どうやら個室のようだ。


 そういえば出張から帰ってきた(救出された)時にお世話になった時もこんな部屋だったな。


「あら勇者。気が付きましたか」


 白いローブを身に着けた女性が部屋に入ってくる。

 医療部の看護師さんだ。

 この国では足元まである白いローブを着るのが一般的な看護師さんの姿らしい。

 動きやすいようにか、肘と腰のところでキュッと締まった感じのデザインは、これはこれでいいと思う。


「あの、俺は一体?」


「過労ですね。

 あなたは地下で倒れているところを朝出勤してきた同僚の女性に発見されてここに運び込まれました。

 それから4時間ほど寝っぱなしでしたよ。

 治療で体力回復薬ポーションを何本か投与しキメておきましたので、もう大丈夫だと思います」


 やっぱり倒れてたのか。

 ベルーナに無理するなと言った手前恥ずかしいな。


 そういえばベルーナは……。

 部屋の中にはいない。

 トイレか何かで席を外してるんだろうか。


「お連れの方ですか?

 しばらく病室に居られたようですが、その後仕事に戻られましたよ」


 そっか、ベルーナ居ないのか。

 べ、別に寂しくなんか無いぞ。仕事は大切だ。


「そういえば伝言を預かっていました。

 仕事は代わりにしておきますので、しばらくゆっくりしてください。

 と言っておられましたね。

 確か金貨が沢山入った袋を手に持って、その後意気込んで出ていかれました」


 なるほど、ベルーナは俺の代わりにマナボックスを買いに行ってくれてるのか。

 俺一人じゃどれを買ったらいいかも分からなかっただろうし、本当に助かる。


 でも本音を言うと、ベルーナとキャッキャウフフしたかった気持ちもある。

 昼夜も休日も区別がない仕事を続けていると、たまには纏まった休日が欲しくなる。

 なかなか買い物にも行けないし、一人で行ってもこの世界の文化にもまだ疎いし、となるとやっぱり気心の知れた人と買い物したいんだよ。

 そう、別にキャッキャウフフが目的じゃないんだ。

 生きる過程でキャッキャウフフという心の癒しが発生するだけなんだ!

 

「体調はいかがですか? どこかおかしい所はありますか?」


 とと、妄想にトリップしすぎてた。

 ただでさえオッサンなんだ。不審なアクションは控えたほうがいい。

 

 俺は自分の調子を確認してみる。

 痛みなどは感じないし、体が動かないという事もない。

 疲労もスッキリ消えてしまったようだ。

 これがポーションをキメるってやつか。

 何本か、って言ってたけど適量だよね? 副作用とか無いんだよね……?


 その後、脈拍の確認などの簡単な検診が行われる。

 どうやらこの世界には脈拍を測定する魔法機器は無いようだ。

 指で腕の血管を抑えられて脈拍をカウントされている。

 にしても、医療行為とは言え若い女性に触れられているのはドキドキするな。


「特に問題は無いようですね。直ぐにでも退院できますが、どうされますか?」


 ベルーナも頑張ってるんだ。

 体調も問題ないようだし、俺もいつまでもゆっくりしているわけには行かないな。


 すぐに退院したい意図を伝えると、看護師さんは退院の手続きのため病室を後にした。


 入れ替わるように病室の中に大勢の老人達が押し寄せてきた。

 寝間着のようなものを着ているところを見ると入院中の人たちだろう。

 ありがたや、ありがたや。勇者よ我に祝福を、などと呟きながら俺に詰め寄る老人達。

 どうやら俺が入院しているという噂を聞きつけてやってきたらしいが、俺に病気を治したりする力なんか無いよ?


 そんなわちゃわちゃしている病室に看護師さんが戻って来て、


「それっぽい素振りをしていただけますか?

 おじいさん達には生きる活力となる出来事も必要なんです」


 と耳元でささやかれたため、俺は手から何かのパワーを出している振りをしながら老人達の願いを叶えていった。

 騙しているようで気が引けるが、まあ涙を流しながら喜んでいるからそれでいいとしよう。


 そんなこんなで俺は退院した。

 お世話になりました。

 またお世話になると思うけど、その時もよろしくね!


 ・

 ・

 ・


 医療棟は事務棟と隣接するように存在している。

 本来はお城の職員の福利厚生のための施設だったが、王族の医療もこちらに一本化し、それに加えて高度な医療を国民に提供するという意味で広く開放されている。

 老人たちが入院していたのもそういう理由からだ。


 そんな医療棟から慣れ親しんだ俺の職場、魔法障壁管理部に戻る所だ。

 

 時刻はもう昼に差し掛かっている。

 俺は昼ご飯をどうしようかと考えながらぼーっと歩いていたところ、見知ったおさげがぴょこぴょこと揺れているのが目に入った。


「おーい、ベルーナー!」


 俺は手を振りながら大声で少女に呼び掛ける。

 

 俺の姿に気づいた少女がパタパタと小走りで俺の元に駆けてくる。


「ヒロさん、退院されたんですね。大事が無くてよかったです!」


 満面の笑顔を俺に向けてくれるベルーナ。

 大き目の眼鏡を通して見えるつぶらな瞳が可愛らしい。


「ああベルーナ、心配かけたね。もう大丈夫だ」


 俺は健康をアピールするために飛び跳ねて見せる。

 体はいつも以上に軽い。

 というか、オッサンがするアクションじゃないぞ。

 ポーションでハイになってるんじゃないのかこれ。


「もう……心配しましたよ。本当に。

 朝出勤したらヒロさん廊下で倒れてるんですから。

 私に健康が一番って教えてくれて、私の事を気遣ってくださって……。

 でも、その分ヒロさんに負担がかかってしまったと思うと申し訳なくて、悲しくて……」


 あ、だめだ、泣かせちゃう。ベルーナの目にちょっと涙が溜まってる。

 俺は大丈夫だからそんなに悲しい顔しないで!

 ハンカチ、ハンカチ、って、ポケットに入ってない!

 宿直室に忘れてきた。

 これじゃあトイレ行ったときに手を拭けないぞ。

 ってそうじゃない。


「べ、ベルーナ、それについては反省してる、……っ!?」


 俺はベルーナへの謝罪を口にしたところで、信じられないものを目の当たりにした。


 ベルーナの背後に大男が3人。

 俺も身長の高さは少しだけ自慢なのだが、いずれの男も俺より背が高い。

 いや、それだけなら俺もセリフの途中にどもったりはしない。


 真に突っ込むべきところは、彼ら、パンツ一丁なんだよ!!

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