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第44話 ただしマナは尻から出る

『管理者権限のコマンドを実行。魔法障壁管理者の体を依り代にして魔法障壁からマナを循環させます』


 え、え、ちょっとまって、まだそこまではお願いしてないよね!?

 準備、その、心の準備させて!


 どぶばっ!!


『魔法障壁と管理者の間にマナラインを確立する事に成功しました』


 ぐぐぐ、なんか……背中から、大量の何かが体の中に入り込んでくる感覚。

 こ、これがマナなのか?

 ホースの先端を口にくわえて蛇口をひねった時のあの暴力的な感じ!


「勇者? さっきから黙ってどうしたの? お腹痛い?」


 チーフが俺の顔を覗き込んでくる。


 お腹とか……そういうレベルじゃなくて、やばい……。

 体の中に……何かが溜まって膨らんで破裂しそう、いや、吐きそう……。


「うごぼばぁぁぁぁ!」


 出た。

 激しい爆発音と共に出た。


「きゃっ、な、なに? この生暖かいの、それになにか、臭う」


 突然のことに部屋の中にいた女性職員が驚き戸惑う。

 だが、俺はそれどころでは無い。


「ぼあぁぁぁぁぁぁ」


 なぜなら俺は、口から、鼻から、尻から、耳から……。

 体中の穴という穴から何かを噴出しているからだ。

 幸いなのはそれは個体でも液体でもなく気体だったことだ。


「あれ? 計算機が動いてる?」


「本当か? 急にどうして……。あのおっさんの仕業か?」


 おっさんとか失礼じゃないか男性職員君よ……とか思う余裕は無い。

 おれは絶え間なく注がれるマナを吐き出す機械……。


 うごごごご、これいつまで続くんだ……。


『現在魔法力充填領域マナセグメント内のマナ充填率は1%です。

 充填完了まであと4分41秒です。

 セーフモードで実行中のため、魔法障壁管理者の負担は通常の10分の1です。

 充填完了後マナセグメントの維持にはセーフモードは使えません』


 だ、大事な情報だ。

 開始から30秒も経っていない。

 だが俺の体はもう悲鳴を上げている。主に穴が。

 そしてあと5分もしないうちに負担が10倍になる。


 何とかして完了までに……充填時間内に金貨150枚を金庫から出して欲しい。

 そう伝えようにも、口からは気体が吐き出されて、しゃべろうにも口を動かすことが出来ない。


「解ったわ勇者! 今のうちに何とかしろってことね。まかせて!」


 さすが経理部の優秀なチーフだ。

 今の俺のどこのどの状態を見て解ったのかは不明だけど、よろしく頼みます……。


 ダムから放流される大量の水のようにとどまる事を知らないマナ。

 俺の体の惨状からそんなイメージを受ける。

 これだけ大量のマナが平時から魔法障壁内には循環しているのか……。 


「ミカさん、急いで処理を。3分よ!」

「え、ええー、3分なんて無理ですよ」

「無駄口を叩いている暇があれば手を動かす。あなたなら2分で出来るわ」


 ど……どうやら任せてもいいようだ……。

 俺は5分間意識を失わないようにしないと……。


 絶え間なく気体が噴き出すため喉はカラカラ、尻は……もう考えたくない。

 

「チーフ出金処理終わりました。金庫開けれます!」

「わかったわ。金庫は私が開けます。ついていらっしゃい」


 チーフとぱっつんちゃんの姿を横目で見ながら、俺は体勢を維持できずに床に膝をつく。 

 それでも耐えきれずに、両手も床についた。


 あと少し……もう少しで金庫を開けてくれる。

 

『マナ充填率95%です。あと10秒で維持モードに移行します』


 維持モードがどんな物か分からないけど、今の10倍辛いってことだろ。

 チーフさん、急いで!


『5、4、3、2、1、マナ充填率100%。これより管理者を維持モードに移行します』


「はぎゅっ!」


 最後に一際大きな何かが入って来て、それがすべて尻から放出されたところで俺の意識は途絶えた。


 ・

 ・

 ・


 意識を取り戻した俺は床の上に寝転がっていた。

 俺が気絶した後、予想通りマナセグメントは消え去り、計算機器は動かなくなったらしい。

 処理が出来たのも束の間のこと。

 経理部では沢山の処理すべき事案が溜まっており、結局は紙で計算をしないといけなくなり職員たちは慌ただしく働き、俺はしばらく放置され、床の上に至る。


 俺は起き上がると肩をまわしたり首を回したり、体の不具合が無いことを確認した。

 あれだけ体が悲鳴を上げていたのだ。健康チェックは欠かせない。

 

 特に問題ない事を確認し、慌ただしく働く職員の中からチーフを探し出し約束の金貨150枚を入手したのだ。


 そんなこんなで金貨150枚をゲットだぜ!

 

 ・

 ・

 ・

 ・


「ベルーナただいまー」


 金貨150枚が入った袋を持って意気揚々と帰還した俺。

 苔むした螺旋階段を下り、地下のフロアへとたどり着いた所だ。


 ベルーナには褒めて褒めて褒めまくってもらえる案件であり、俺のテンションも上がりに上がっている。


「ベルーナ?」


 いつもなら俺の元にパタパタと駆けてきてくれるのだが、パタパタどころか返事も聞こえない。

 まあ入口からなので部屋の中にまで俺の声が届いてない可能性もある。


 俺は事務室(祭壇の間)へと歩を進める。

 

「ベルーナただいま!」


 事務室の扉を開けて中に入る。

 そして長らく離れ離れになっていたベルーナの姿を見つけたのだ。


「あ……ヒロさん。おかえりなさい」


 ようやく俺に気づいてくれたベルーナ。

 いつものとおり俺に笑顔を向けてくれる。


 ……いつもどおりの笑顔を?


 いつもの笑顔と雰囲気が違う。

 なんかこう、生気が無いというか?


 ベルーナは席から立ち上がると、俺の元にやってくる。


「すみませんお帰りに気づかずに……。そちらはどうでしたか?

 領域統制中核機マナボックスをお持ちじゃないということは壊れてはいませんでした?」

 

 マナボックス?

 マナボックス、マナボックス……

 

「ああーっ! 忘れた。置き忘れてきた!」


 しまった。マナボックスを載せた台車は経理部に置いたままだ。

 金貨をゲットした喜びで舞い上がって忘れてきたぞ。


「ふふ、ヒロさんったら……。じゃあ一緒に取りに行きましょう」


「ごめんベルーナ。ついうっかり」


 さあ行きましょうと、俺の横をベルーナが通り過ぎようとしたそのときだった。


「ベルーナ!」


 突然ふらついたベルーナ。

 俺は咄嗟に彼女の体を抱き留めた。

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