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第43話 体でなんとかすればいい

「そしたらせめて500、いや450で!」


 これが手から茨を出す老人から学んだ交渉術だ!

 ちょっとずつ下げて行って、折り合いをつけるのだ。


「……」


 あれ? 乗って来てくれないぞ。

 何故か無言のチーフ。

 漫画だったらここで数字の合戦が始まるのに……。


「……あのね勇者、金額が高すぎるから断っているのではなくてね。

 金貨100枚を超える物を買う時はね、事前にこういうものを買いたいっていう条件を文章にしたものを複数の商人に連絡して見積もりを取ってね、その中の一番安い商人から買わないといけないの」


 え、この国でもそうなの?

 仕様書書いて見積もり合わせして、面倒くさい手続きを踏まなくてはいけないの?


 ああ、仕様書というものは買いたい機器に必要な機能、つまりは性能がどのくらいで、どういう機能がついていること、というのを文字にしたものだ。

 例えば、ワープロソフトが入っていて、インターネットと繋げることができて、ケースはプラスチック製で、等々。


 そしてその仕様書を見て業者(この世界で言う商人か)はその条件に合った機器をいくらで売りますという見積書を出してくるわけだ。


 重要な点はメーカーや型番を仕様に書けないことだ。

 書いてしまうとそのメーカー以外の製品での競争が行われずに値段が下がりにくくなる可能性があるためだ。


 そのため、このメーカーのこのPCが欲しいと思っても、同じ機能の別メーカーのPCが安ければそちらを買うことになってしまう。


 チーフ曰く、金貨100枚を超える場合はこのような購入方法をしなくてはならないという訳だ。


 でもその方法じゃ時間がかかりすぎる。

 領域統制中核機マナボックスは今すぐにでも必要だ。

 今ここで現金を貰って、その足で買いに行くくらいのスピードが必要だ。


「物は相談よ勇者」


 え……チーフの目が鋭くなった。

 まるで獲物を狙う蛇の様な……。


 俺は有利に交渉を進めていたと思っていたが、それは俺の独りよがりだったのかもしれない。


「あ、あの、相談とは一体……」


 すでに相手に雰囲気にのまれているヘタレの俺。

 俺は仲間ですよねチーフ、勇者ですよね!?


「1台分、金貨150枚は即金で出しましょう。

 その代わり、その1台でうちの、経理部の機器としてこの状況を解決して欲しいの」


 チーフ!?

 と目で訴えているぱっつんちゃん。

 いいのよ、と目で諭すチーフ。

 

 本当にそう言っているのか分からないが、二人の間ではまた何かしらの会話が目で行われている。


 でも願っても無い申し出だ。

 どのみち女子更衣室を含めた4台は直さなくてはならない。

 そのうちの1台でも新品が買えるのならこの上ない結果だ。


「いや、チーフ! いいのよ、じゃなくてですね!

 今機器が動かないから仕事ができないんですよ?

 計算はもとより、金庫すら開きません。

 だからチーフがOKしたとしても、そんなこと到底不可能なんです!」


 前髪ぱっつんちゃんが声を上げる。

 どうやら目の会話をあきらめたようだ。

 

「確かに、ミカさんの言う通りね。

 現金を保管する大金庫は通常時ですら無理矢理マナを込めて開けようとするとマナを吸い取られて死に至るわ。

 数年前侵入した賊が金庫の前で干からびて死んでいる事件があったわね」


 雲行きが怪しくなってきた。

 このままじゃあ手に出来そうだった金貨150枚が泡となって消えてしまう。

 なんとかいい方法が思いつかないか……。


 人がマナを込めて開けようとすればマナを吸い取られて死んでしまう。

 それだけ大量のマナを必要とするわけだ。

 だから高濃度のマナが満ちた魔法力充填領域マナセグメントが必要なわけだ。


 まてまて、無理矢理開けようとするから大量のマナが必要なだけで、正しい開け方をすればいいはずだけど、正しい開け方をするにもマナセグメントが必要で……。


 んー、そもそもマナセグメントは、魔法障壁を循環するマナをマナボックスが引き込んでマナセグメント内に満たす仕組みで………。

 

 俺はベルーナから教わった知識を振り返る。


 つまりは、何らかの方法で魔法障壁から無理やりマナを供給出来れば!!

 そうでしょ、魔法障壁さん!


 …………。


 お返事は無い。

 おかしいな、魔法障壁さん?

 急に話を振ったからついてこれてない?


『ログインにはIDとパスワードが必要です』


 魔法障壁さん!

 よかった応えてくれた。


 どうもまだ魔法障壁さんとのコンタクトの仕方がわからないんだよね。

 ベルーナは魔法障壁さんにアクセスするのに10分程度の詠唱を必要とするし、そもそも魔法障壁さんと会話は出来ないみたいだし。


 それと違って俺は、IDとパスワードを入力するだけでアクセスできる。もちろん魔法障壁さんと会話も出来る。

 会話……だよね?

 プログラムされた応答じゃないよね?


 これってつまり、他の人には真似出来ない特別な力!

 すなわち、チートだよね!

 あの髭の神が俺を見かねて与えてくれた俺だけのチートに違いない!


 もっと他にもチート能力があるのかもしれない。

 結構心当たりがある。あの時とかあの時とか……。


 どれが普通のことでどれがチートなのか。

 またあとでベルーナに聞いてみよっと。

 

 さてさて、いつまでも妄想してると不審に思われてしまう。

 IDパスワードを入力、と。


『IDとパスワードを確認しました。Hello, World!』


 よしよし、無事にログインできた。

 魔法障壁さん、ここにマナを満たしたいんだけど。


『マナボックスの反応がありません。必要機材を準備の上、再度コマンドを実行してください』


 ああ、そうじゃなくて、マナボックスが無くても何とかならないかな?


『その質問に対する答えは存在します。

 Q&A1298、マナボックスがぶっこわれたんだけど?

 を確認しますか?』

 

 Q&Aとかあるのか。確認するする。

 しかしそのタイトル、いったい誰が作ったQ&Aなんだよ。


『Q:マナボックスがぶっ壊れてしまいました。代わりの機器を用意するお金もありません。どうしたらいいでしょうか。

 A:魔法障壁管理部は不遇ですよね。お金もないし、わかります。でも大丈夫、あなたは魔法障壁管理者。お金が無いなら体でなんとかすればいい』


 んんん?

 体で何とかする!?

 も、し、か、し、て……。


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