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第41話 インフラあるある

「困るんだよねチミぃ、分かる? 

 ワシは大臣なんじゃぞ。

 そのわしが仕事出来なかったら困るじゃろ。な?

 チミみたいなド平民が一人いるのと、ワシのような高貴な大臣が一人いるのとでは重さが全然違うんじゃよ。で? 

 なんだったか、そのランチパック? 

 早く直して来るんじゃ。分かる? 

 こうやってチミと話してるだけで金貨が1枚ずつ減っていくんじゃよ。

 それだけ国にとって大きな損失なんじゃよ。

 そのランチパック?」


 はい、俺は今1か所目の大臣部に来ています。

 早速良く解らないお叱りを受けているところです。


 まるまると太ったいかにも金持ちで頭のてっぺんはきらりと光る中年。

 このお方はこの国の大臣。


 俺の説明に対し、理解はしていないけどとりあえず文句を言っておこうという意図が読み取れる。


 この国の行政機構は各部署、例えば魔術士部とか、のトップに大臣が君臨している。

 大臣はもちろん貴族様で、選挙などの民主主義的な物で選ばれるわけではなく権力とコネによるものだ。

 そんな厄介な大臣たちの個別の執務室が集まっているフロアの領域統制中核機マナボックスに警報がでているという訳だ。


「大臣。別に大臣のお仕事はそのマナボックスとやらが壊れていても影響はありません。

 言い訳をなさらずにしっかり働いてください。この税金泥棒」


「え、そうなの? しかも今最後何か酷い事言った?」


 俺への援護、かどうかは分からないが今のは大臣付きの秘書さんだ。

 魔術士部秘書課から配属されるらしい。

 無能な大臣たち(言い過ぎ)を働かせるために配属される彼女たちは優秀で、いわば魔術士部のエリートと言ってもいい。

 もちろん容姿にも秀でていて、例にたがわず彼女も美人さんだ。


 え、そんな事ばかり調べてないで、魔法障壁管理者の仕事を覚えろって?

 別に調べたわけじゃないぞ。さっきベルーナが教えてくれたことの受け売りだ。

 敵地の情報があるのと無いのとでは雲泥の差だからな。

 

「そういうわけですので、しばらく魔法機器は使えませんので……」


 お叱りを早々に切り上げて早く次に行きたい俺。

 一応伝えたからな、とそそくさと退室しようとする。


「おい、チミぃ、待ちたまえ。話は終わっとらんぞ。

 どこのド平民だ。ワシを誰だと思ってるんだ。ワシは」


「はい、大臣。今ので休憩時間は終了です。

 さあ仕事に戻りましょうね。

 大臣は豚のように書類にハンコを押せばいいんです。

 あ、今日の分終わらなければ夕食は食べれませんので」


「え、ちょっと待って!?

 今のは仕事のうちじゃろ。だって下々のミスを叱っておったんじゃぞ?

 ノーカン、休憩じゃ無いよね。お願いじゃ!」


 哀れ大臣。

 優秀な秘書さんにうまくコントロールされているようだ。

 こうやって国はきちんと回ってるのね。


 俺は国の裏側を垣間見たという、もやっとした気持ちを抑えつつ、そっとその場を後にした。


 ・

 ・

 ・


「で、直るのにどれくらいかかるわけ?

 この子が病気になったらどう責任を取るんだ?

 あんたも知ってるだろこの子。

 我が城のマスコット、ジュポパルト=ワググナグ」


 そして2か所目に来ています。

 例のごとく苦情を受けているところです。


 ここは広報部。

 お城の情報を国民に発信したり、他国へファルナジーンがいかに素晴らしい国であるかアピールしたりする、そういう宣伝を行う部署だ。


 そしてその広報活動の一環を担うのが、俺の目の前にいる生き物。

 巨大な檻の中でなにやらぐったりと横たわっているこの生き物は彼曰く、マスコットだという。

 ちなみに、口から鋭い牙が2本伸びていたり、手には何でも切り裂けそうな太い爪がキラリと光っている。

 シロクマに似たこの巨大な生物は、確かに愛嬌がある姿をしていると言われればそんな気もするが、この国は大丈夫か?


「いいか? ジュポパルトは暑さに弱いんだ。

 俺達人間が快適だと思う温度でもジュポパルトにとっては体調を崩すほどに暑い。

 つまり、あんたの言うマナボックス? が壊れたから魔法冷却装置クーラーが動かなくなったというなら、それは困るわけだよ。

 困るどころか、殺ジュポに発展するんだよ。分かる?」


 殺ジュポってなんだ……。

 そもそも、俺達が平温だと思う気温でも瀕死になるような生物をなぜマスコットに使おうと思った……。


「ご不便おかけして申し訳ありません。目下全力で対応中ですので……」


「そんな言葉を聞きたいんじゃないんだよ。殺ジュポだよ、殺ジュポ?

 あんた責任とれるの?」


「そう言われましても、我々としても全力で」


「同じことはもういいよ。とにかく早く直してくれ。

 じゃないと最後の力を振り絞ったジュポパルトがお前を襲いに行くかもしれない。

 俺達もそんなジュポパルトは見たくない」


 いやいや、人を襲うとかもうそれマスコットじゃないよね。

 大丈夫なのかこの国。


 という、理不尽な苦情と脅しを受けて2か所目は終了した。


 ・

 ・

 ・


「おいぃぃぃ、仕事にならないんだよ。仕事に。分かる?

 給料の計算できないんだよ。つまり給料が支払われないっての。

 そうなったら給料がもらえなくて暴動がおこるぞ。

 給料をもらえない俺たちが暴動を起こすんだ!!

 いいか、俺たちはこの城で働いている膨大な人数一人一人に毎月きちんと給料を払うために1か月の間ずっとその計算をしているんだよ。

 あんたらが定時で帰る日も夜遅くまで働いて、それでも処理が終わらなければ休日返上で働いて。

 それだけ辛い仕事をしてあんたらに正しい給料を払っているんだ。

 俺達はそれだけ辛い仕事をしててもあんたら一般の職員と同じ給料しか出ないんだぞ!

 その上、給料が出ないとなったら暴動だぞ、辛部署の呪いを思い知れ!」


 3か所目では呪詛を吐かれました。

 大分うっぷんが溜まっているようだった。

 とりあえず頭を下げながら長時間にわたる苦情をこなしてきたところだ。

 

 俺はゴロゴロと台車をおしながら回収したマナボックスを運んでいく。


 3か所ともマナボックスが煙を吹く直前だったので急いで停止したのだ。

 そのため、そこで魔法機器を動かしていた魔法力充填領域マナセグメントは消失し、どこもかしこも仕事にならないという有様となった。


 普段当たり前に動いているものが使えなくなった事に対する風当たりは相当に強い。

 インフラは使えて当然だという意識が根強いからだ。

 これはインフラあるある。

 どこの世界でも同じなんだな。


 ベルーナを連れてこなくて正解だった。

 嫌な予感したんだよね。

 天使の様に純真なベルーナがこんな悪意を向けられて悲しむのは耐えられない。

 こういう苦情処理こそ上司が大活躍するべき案件だ。


 さてさてこれからどうするか。

 機器の様子を見に来ただけだったのに、すべての機器が壊れかけという展開。

 ベルーナが古い機器を使えるようにしてくれているはずだけど、明らかに数が足りない。


 3か所どこの機器も大切で、早く直してあげないといけないのは分かるが、機器が足りないことにはどうしようもない。

 とりあえず大臣部は最後に回すとしても。

 うん、大臣部はいいかな。なんか腹立つし。


 とにかく、これが最後とも考えにくい。

 ベルーナの所に戻ったら、また別の場所のマナボックスの警報が鳴っているかもしれない。

 となるとやはり何とか代替機を準備しないといけない。

 それには金が必要だ。


 そうだ、金の無心だ!

 いや、必要な金だ。要求だ。我々は要求する!

 ここはがっつりと金を確保してベルーナに俺の上司力をアピールするところだ。


 さすがはヒロさんです!

 と言って褒めてくれるベルーナの姿が目に浮かぶぞ。


 こうしちゃいられない、経理部へレッツゴーだ!

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