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第3話 衛兵さんいらっしゃーい

「俺? 怪しいものじゃないよ。

 俺の名前は大阪ヒロ。異世界転生初心者さ」


 よーし、自己紹介は完璧だ。

 さっきの功績で怪しい男というイメージも払拭だぜ。


「オオサカヒロ様?」


 俺の名前をオウム返しする少女。

 なんか引っかかるのか?

 もしかして名字があるのがめずらしいとか?

 それとも、どこで切ったらいいのかわからないのかも。


「ああ、名前はヒロだ」


 オオサカは名字だよ。


「ヒロ様」


「えっ、いや、さま付けはいいよ。呼び捨てでいいよ、ヒロって」


「そ、そういわれましても。で、ではヒロ、さん、で」


 なんかもじもじしてる。

 小動物的な可愛さを感じる。

 小柄な身長と声や様子から判断すると、年は15、6歳くらいかな。

 

 そうだ、肝心なことを忘れていた。


「君の名前は?」


 そう、これこれ。

 いつまでも少女と呼ぶんじゃ恋仲にも発展しない。


 え、年の差がありすぎる?

 いいんだよ、俺は異世界ハーレムを目指すんだ。


 チートスキルはないけど、俺の会話テクでなんとかしてやるぜ!


 って、そもそもその会話テクがあれば前世でも彼女の一人は二人いただろう……。

 すいません、調子に乗りました。コミュ障手前のおっさんでした。


「私の名前はベルーナ=アシャンティと言います」


「ありがとうベルーナ、助けてくれて。死ぬかと思ったよ」


「い、いえ、助けていただいたのはこちらのほうです。

 ヒロさま、い、いえヒロさんがいなければ、今頃どうなっていたことか。

 ぜひお礼をさせてください」


 おっと、お礼キターッ!

 これが勝ち組の展開。ここから上り調子で絶好調!


「おい、お前ら、こんな場所で何をやっている。どこの所属だ」


 俺とベルーナの二人の空間に、しゃがれた男の声が響き渡る。


 なんだよ、今いいところなのに。

 だれだ、この展開に水を差すのは。って。


 槍を持った男が二人。

 おそろいの甲冑を着こなしている。


 これって、あれでしょ、衛兵さん!


「え、ええと……」


 ああ、きょどっちまった。

 俺ってテンパるとだめなタイプなんだな。

 いや、知ってたけどね。


「わ、私は魔法障壁管理部所属のベルーナです。こちらはヒロさん」


 あぁ、ベルーナちゃん。

 ありがとう、きょどった俺の分まで紹介してくれて。


「身分証を見せてみろ、身分証が無いと投獄する」


 おおーい、疑い深い衛兵さんたちだな。

 こんないたいけな少女を疑うなんて。

 って、おれが胡散臭いおっさんなだけなんだが。


「これです」


 ベルーナが身分証を取り出し衛兵に渡す。

 俺が想像していたカード状のものではなく、想像より小さな金属の板のようなものだ。

 そんな小さな所に情報が書いてあるの?


「ふーむ」


 衛兵がそれに触れるとそれから光が発せられ、ベルーナの身分情報を空中に映し出した。

 中に情報が詰まっていたのか。

 小さなプロジェクタのようなものかな。


「確かに。間違いはないな」


 ほら、だからさっきから言っているだろ。

 俺たちは怪しい者じゃないって。


「おい、そっちの男、身分証を出してもらおう」


「えっ?」


 えっ、えっ、俺?

 さっきのでOKなんじゃないの?

 いやいや、俺身分証なんか持ってないよ。さっき異世界転生してきたところなんだから。

 持っているのは一切れのパンだけだからね!?


「ヒロさん、身分証ですよ身分証。お城に入るときにもらいましたよね」


 ベルーナにせっつかれる。


 え、何、身分証って入るときにもらうの?

 ていうか、おれは転生してきたときから城の中にいたからね。


 いや、まてよ。

 もしかして持っているのかもしれない。


 おれは服をごそごそしながら身分証とやらを探してみる。


 何度頑張って探しても一切れのパンしか見つからなかった……。


「す、すいません。なくしてしまったようで。ど、どうしましょう?」


 どうしましょう、って言われても衛兵さんも困るよな……。

 やばいよ。おれもう涙目だよ。

 せっかくさっきベルーナにかっこいいところを見せたのに、またかっこ悪いしょぼくれたおっさんに逆戻りだよ。


「おのれ、怪しいやつ!

 おい、変な動きをするなよ、動いたら容赦なく刺すからな」


「え、えっと、ちょっと、待って刺さないで。ほんと、ごめんなさい」


 俺はとっさに両手を上げる。

 敵意は無いよ、降参だよ。


「お、おい、動くなといっただろ、なんだその怪しげな動きは」


 言いがかりだ!

 確かに腰は引けている、遠くからみたら怪しげな動きかもしれないが、言いがかりだ。


「待ってください、この方は高名な魔法障壁管理者なんです。

 さっきも城に侵入した賊を撃退してくれたんです」


 あ、ありがとうベルーナ。きみは天使だよ。


「賊だと? 嘘をつけ。

 それになんだ? 魔法障壁管理者なんて知らないな。

 おい、男。おまえは投獄だ」


 あれよあれよという間に、俺は手枷をされて兵士二人に連れていかれた。


 ああ、ベルーナ、君だけでも無事でいてくれ。

 俺は次の世界ではチートハーレムを必ず……。


 ・

 ・

 ・


「ほら、入れ」


 背中を押されて牢に放り込まれる。

 バランスを崩した俺は牢屋の床に倒れこんだ。


「ううっ、あんまりだ」


 右も左もわからない異世界で、いきなり命を狙われて、なんとか生き残ったと思ったら不審者として牢獄行き。

 短い異世界人生だった。


「おい、おとなしくしてろよ。

 お前の処分は明日にでも言い渡される。

 最後の夜になるかもしれんから十分に神に祈っておくんだな」


 さ、最後の夜って、そういうことだよね。

 明日処刑ってことだよね!?


「まってください。何も悪いことはしてません。信じてください」


「それを判断するのは俺じゃない。黙っておとなしくしてろ」


 がちゃりと鉄格子の鍵を閉められた。

 そして兵士は牢屋の前から去り見えなくなった。


 牢獄、牢獄。

 絵に描いたような牢獄だ。

 ここは地下だ。牢獄内に窓などはなく、外の様子を窺うことはできない。

 鉄格子は金属製らしく、もちろん俺の力では曲げるどころか傷一つつけられないだろう。

 そもそも、簡単に逃げられるような造りにはなってないはずだ。

 まあ、逃げ出す気はないけど。


 すいません、強気なこと言いました。逃げられないと諦めています。


 でもさっきの兵士、判断するのは自分じゃ無いって言ってたな。

 つまり、誰かが処遇を判断するはずだ。

 もしかして裁判的なものがあるのかもしれない。

 だったら、その場で怪しくないことを証明すればいい。


 だけどもう一つ気になることも言ってたな。

 処分は明日言い渡される、って。

 もしかして俺の言い分無しに即死刑宣告ありうるってこと?


 考えても仕方ないんだが、考えてしまう。

 そりゃ命がかかってるんだから仕方ない。


 そんなこんなしているうちにいつの間にか眠ってしまったようだが、頭の中で何度も同じシーンを再現してうなされていた。

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