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第29話 俺の名前は大阪ヒロ。自他ともに認めるナイスガイだ!

 ちょっと待って……なんかぞろぞろと憲兵さんが集まって来てる。

 この感じ、なんかやばくない?

 絶対俺も仲間だと思われてるよ?


「おいお前ら、大人しくしろ。この不正アクセス者共め!」


 ふ、不正アクセス者?

 もしかして、この魔法障壁は……


『そのとおりだぴょん。私はこの街の魔法障壁だぴょん』


 だぴょん、って言われてもさ。

 そんなに簡単に不正アクセスされないで。


『でもでも不正アクセスじゃないぴょん。

 IDとパスワードでアクセスする正規アクセスだぴょん』


 今ログインしているIDが俺用のだったらいいんだけど……違うんだろうなぁ、あの憲兵さん達の様子から察すると。


 魔法障壁に直接書かれてあったIDとパスワード。

 職場でパソコンに張り付けられた付箋にIDとパスワードが書いてあって、それを盗み見てパソコンにログインしたのと同じことになるのかな。


 そういうことなら十中八九、俺がログインしたIDとパスワードは誰かのもので、勝手に使ってログインしたのがばれてしまったという訳だ。


 魔法障壁さんの側からすると、IDとパスワードを入力しているから正規アクセスと言えば正規アクセスには違いないけど……。


 ……とりあえず逃げないと。


 管理者IDでログインしているということは、この街の魔法障壁の情報は筒抜けなわけで、最高位の軍事機密とも言えるその情報を知った俺が生かして返されるとは到底思えない。


 実際俺はそんな情報は見ていないんだが、俺がそんな事はしていない説明したところで信じてもらえるわけがない。

 拷問されて自白させられるか、そもそも拷問もされずに即首チョンパかどちらかだ。


『お待ちくださいご主人様だぴょん』


 え、なに?

 魔法障壁からこちらにしゃべりかけてくることってあるんだ。

 あの、急いでるから手短に頼むよ。


『利用を終了する場合はログアウトをしてくださいだぴょん』


 って、終了時のお知らせかよ。

 わかったわかった、ログアウトする。

 するから。俺は逃げるぞ。


『魔法障壁からログアウトしました。

 ご利用ありがとうございました』


 あれ、ぴょんって言わなくなったぞ?

 そんな、声まで変わって……。

 このネタ分かる人がどれくらいいるのか。


 とと、それどころじゃない。

 ダッシュで逃げるぜ。


 今俺がいるのはアサシンから逃げる際に滑り込んだ狭い通路。

 そして憲兵たちがいるのは、俺が全力ダッシュしたのにアサシンに追いつかれて腹に膝蹴りを食らったという、地獄の鬼ごっこをした裏通り。


 元々来た大通りは憲兵たちが立ちふさがるその向こうだ。

 というわけで今この状況での逃げ場は憲兵達とは逆方向、つまりこの狭い通路の奥にしか無い。


「おい、待て!」


 路地に十二分に人数が集まった憲兵たち。

 逃げる俺に、お約束の言葉をかけてくる。

 ばーかばーか、待てと言われて待つやつがいるわけない。

 押すなよ、押すなよ、と言われて押さない芸人ほど見たこと無いぜ!


 走り抜ける横でアサシンが拘束を外していけだのなんだの言ってるのが聞こえた。


 アサシンは置いていく。

 元々敵同士だ。命も狙われたし助けてやる義理も無い。

 それに口車に乗って拘束を外した瞬間に、俺も憲兵たちも彼女に皆殺しにされるかもしれない。

 捕まって正しく罪を償ってくれ。アディオス!


「その女は捕縛しておけ。それ以外はあいつを追うぞ」


 何人かが俺を追ってきた。そりゃそうだ。

 全員が拘束された女に掛かりきりになるはずがないか。


 ここで問題が発生するわけなんだが、俺には地の利が無い。

 知らない街の路地裏の細道とか、ダンジョンよりも厄介だろう。

 いや、ダンジョンに入ったことなんかないけど。


 とりあえずアサシンから逃げてた時と同じく人通りの多い通りに逃げ込むぞ。

 人ごみに紛れればなんとかなるに違いない。


 が……それにはどこをどう進めばいいんだ?

 方向的にだんだん離れていることは分かる。

 自慢じゃないが方向感覚はいいほうだ。

 幼いころからゲームで鍛えたからな。


 後方から俺を追う憲兵たちの声が聞こえる。


 とりあえず必死に走る。

 暗い路地の先の先、別の道と交差する地点に憲兵の姿が見えたので、そいつに気づかれる前にわき道に入った。


 …………入り組んだ路地に入ってしまった。

 曲がりくねって先は見えにくく、それでいていくつかの分岐がある。

 逃げるのには好都合なんだが、行き止まりを引いたらそこでゲームオーバーだぞ。


 って、言ってるそばから行き止まりを引いてしまった!


 あっちだ、などと後ろから聞こえる。

 憲兵たちは確実に俺を追ってきている。

 やばい、行き止まりだとしても進むしかない。

 忍者屋敷みたいに壁が回転して難を逃ることができるかもしれない!

 

 少しでも憲兵たちと距離を取るために俺は壁まで走る。


 え、ちょ……


 いきなり目の前で民家の扉が開いたぞ。

 ぶつかるし!


 ぐわっ! なんだ?


 扉にぶつかると思った瞬間、暗闇の中から生えた腕に扉の中へと連れ込まれた。


「は、放せ!」


 勢いよく扉が閉められると、そこは光の無い家の中。

 俺は、やったら力強いムキムキの腕に囚われている。

 腕の主の姿をうかがい知ることは出来ないが、この腕の硬さと太さは男だ。


「死にたくなかったら静かにしろ」


 ひい、ごつごつの手で口をふさがれた。

 今ここで死ぬか後で死ぬかの違いしかない。

 でもここで死ぬよりは、まだ後の方がいい。

 とりあえずは大人しくして黙っていよう……。


「おい、いたか? そっちを探せ!」


 どかどかと家の前を憲兵が通り過ぎていく音が聞こえる。

 なんとか憲兵はやり過ごせたか……。


 それで今の状況なんだが。

 真っ暗な家の中に連れ込まれている。

 分かっているのは俺を拘束しているのはムキムキの腕で毛が生えている。

 毛が生えている情報は必要無いかもしれない。


「ふう、行ったか」


 俺を拘束している男の声。

 ……なんかこの声聞いたことあるぞ。


 口を押さえていた手もどけられて、改めてその相手と対峙する。


「ダイスンさん!?」


 闇の中、少しずつ目が慣れてきた俺の目に映ったのは、威圧感のある眼帯とターバンの男。

 先程、支部にてお世話になったダイスン、その人だ。


「おうよ。手荒な真似をしてすまなかったな。

 それよりお前、いったい何をしたんだ?

 あいつらは警備兵じゃない。魔法障壁管理兵だぞ」


「いや、それが……」


 俺はダイスンさんと別れた後のいきさつを話す。

 本当、大冒険だったんだ。女難的に……。


「お前、この街の魔法障壁に不正アクセスしたのか!?

 なんてことしてるんだ!」


「い、いや、不正アクセスというか、アクセスできてしまっただけで、意図的にしたわけじゃないんですよ……」


「まあ、理由は何でもいい。

 とにかくすぐにでもこの街から離れるんだ。

 この街の魔法障壁管理者のオズルーンは執念深く陰湿な男だ。

 奴は権力に物を言わせて、罪もない街の女たちを捕まえては地下で暴行を加えたり性的な調教を行ったりしている。

 男のお前なんか、無残な姿で最期を迎えるぞ」


 ひぃぃ、そんな奴に目をつけられたのか。

 いや、まだ俺の正体まではバレてないよね。

 

 それよりも、


「今……女たちって言いました?」


 ふと俺はアサシン嬢を置いてきたのを思い出した。


「ああそうだ。奴は支配欲や所有欲が強い。

 地下にはわんさかとそんな状況の女がいるが、誰一人手放そうとはしない。

 部下にすら触らせようとはしないらしい。

 それに魔法障壁もそうだ。

 奴は、管理者をサポートするはずの操作権限者にも絶対に魔法障壁を触らせたりはしない。

 そしてこの街の魔法障壁は好き勝手に奴一人にいじられている。

 奴が管理者である以上、俺たちも、この街の領主も手出しはできない」


 部下にすら触らせないって極度のNTR嫌いってことだよね。

 もしかして……俺が魔法障壁に管理者権限でアクセスしたのって、その判定で言えばNTRになるんじゃないですか?

 ノーッ! もしかして少しでも俺がアクセスしたというログが残ってたら…………。


 いや、でも俺の事はいい。このまま何とか逃げ出せばいいのだ。

 だけど彼女……アサシン嬢はもう捕まってしまった。

 この後彼女はどうなってしまうんだろうか。

 もしかして、捕まってもそいつに気に入られないかもしれない。

 だが、高確率でそうはならないだろう。

 あの煽情的な姿のまま捕まったら、確実に性拷問行きだ。


 命を狙われた相手の心配をするなんておかしいのかもしれない。

 ここで彼女が奴に囚われ続ければ、俺は二度と命を狙われることはないだろう。


 でも、それは別の話だ。

 俺は正しく彼女が裁かれるのを望んだのだ。

 一人の権力者の歪んだ情愛に取り込まれてボロボロにされてしまうのを望んだわけではない。


 俺のせいでそんなことになる人がいるなんて、そんな思いを残したまま自分だけ逃げるだなんて、人としておとことして間違ってる。


 そう、勇気を出すんだ大阪ヒロ!

 お前は以前までのやる気もなく生きていたへたれのおっさんじゃない!

 皆が勇者と呼んでくれるナイスガイだ。

 ナイスガイは女性を助けて感謝されてあわよくば良い関係になるという義務がある。いや責務と言ってもいい!


 俺は目を閉じて集中する。


「お、おい、何をする気だ!」

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