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第28話 アサシンの黒スーツ(ぴっちり)

 ……その手……?

 この手のこと……?


 目の前のアサシンに向かって手を伸ばす。


 死ぬ前に……おっぱい触りたかった……。

 動けなくして……じっくりと……。


『管理者権限のコマンドを受け付けたぴょん。

 魔法障壁を展開するぴょん』


「な、なんだこれは、動けん! おい、やめろ、貴様!」


 アサシンがけたたましい声でなんか言ってる……。

 が、俺はもうここまでだ……………。


 ・

 ・

 ・

 ・


 ……って、はっ!?

 意識を失ってた!?


 体中が痛い。

 痛みを感じるってことはまだ生きているてことか。


「おい、貴様、起きろ、おい!」


 アサシンが何かをがなり立てている。

 起き抜けの頭にその甲高い声が響く。


 地面の冷たさを感じている顔をゆっくりと声のする方へと向ける。


「おい貴様、いいかげんにしろ」


 どういうことだ?

 アサシンの手足が拘束されているぞ。

 

 俺の視線の先には先程まで俺を嬲っていたアサシンの姿が見えるが、どうやら先ほどまでとは訳が違う様だ。

 アサシンの姿は両手を斜め上に、両足を開いている体勢。

 つまり大の字のポーズだ。


 両手の拳と両足の先は半透明な黄土色のもので覆われた様になっており、それがガッチリとアサシンを拘束してるようだ。


 その黄土色に見えるモノは、物理的な物ではなく空間が歪んで出来ているように見える。

 あれは、魔法障壁か?

 質感が今朝実際にベルーナに見せてもらった魔法障壁と似ている。


『魔法障壁を部分的に展開中だぴょん』


 だぴょん?

 魔法障壁さん、いつの間にそんなキャラになったんだぴょん?


『その質問に対する答えは用意されていないぴょん』


 ふむ。いつも通りの答えだ。語尾以外は。


 つまりだ、俺は朦朧とする意識の中で魔法障壁を展開し、アサシンを拘束したってことだ。


 さすがは俺。異世界転生者、つまりは勇者ってことだ。

 神に与えられた幸運が俺に味方したってわけだ。

 いや……あの髭のおっさんの神からはそんなもの頂いてないんだが……。


 大逆転をしたのならいつまでも地面のひんやり感を味わっているのももったいない。


 痛みをおして体を起こす。


 ……ちょっと寝たからなのか?

 死にそうなほど痛かった痛みが幾分かましになっている。

 痛いのは痛いが、体を動かすには問題なさそうだ。


 俺は起き上がると拘束したアサシンの姿を観察する。


 全身を黒いぴっちりスーツで覆っている彼女。

 顔は目だけを出した、こちらも黒色のマスクをしており、僅かに露出している肌と目が光を湛えているかようだ。

 短く整えられた黒い髪の毛。闇夜に紛れるアサシンには最適のものだと言える。

 必死だった先ほどまでは気づかなかったが、よく見ると体の起伏がスーツの上からでも分かる。確かに女性で間違いない。


「おい、何を見てるんだ。はやく離せ」


 などと申しておるが、離すバカはいないぞ。

 それよりも、だ。

 アサシンの姿だ。

 アサシンは今、大の字で拘束されている。

 いや、俺がしたんだから拘束している、だ。


 先ほど言ったとおり、彼女はつま先から顔まで一体となったぴっちりスーツを身に着けている。


 一つ気になるのは……汗だ。

 両脇と股間とが汗でびっちょりと濡れている。

 まるでコップの水をこぼしたかのように、その周囲の広い範囲が深い闇色に染まっている。

 汗をかきやすい体質だとしても、拘束されているだけではとてもこうはならないだろう。


 俺は僅かに感じる痛みを横にやって、アサシンに近づいていく。


「お、おい、こっちに来るな。ばか!」


 口の悪い子。

 だけど口は拘束せずに残しておいてもいいだろう。

 これからじっくり話も聞きたいし。


 口が自由になるとはいえ、まあマスクしてるし唾を吐きかけられたりはしないだろう。

 含み針とか警戒しないといけないかな?

 いや、そんなことはどうでもいいんだ。そんなことは。


 俺はアサシンの目の前に立つと、人差し指でその太ももを軽く突いてみる。


「んいっ、や、やめろ、触るな」


 なんか可愛らしい声が出た。

 今度はつんつんと二回突いてみる。


「はひゃっ、やめ、やめろ、寄るな触るな近寄るな」


 明らかに過剰な反応が返ってくる。

 これは何かあるな。それも俺に有利な何かが。


「やめてほしかったら話してもらおうか」


 俺は両手の人差し指をアサシンに向け、言わなければ秘孔を突くぞと脅しをかける。


「わかった。わかったから。話す。何でも話す」


 ちょろい……。

 おいー、アサシンなんだろ?

 そんなに口が軽くていいのか?


 しかしだ。

 話すと言っているが許さん。

 よくも散々いたぶってくれたな?


 いたぶっていいのはいたぶられる覚悟のあるやつだけなんだぞ?

 そんなあっさりと降参されても俺の悲しみと痛みは治まらないのだ。


 俺はゆっくりと指を伸ばす。


「や、やめろ。許して。悪かった。

 このスーツは通常の数倍の能力を引き出す代わりに感覚が100倍鋭くなるんだ。

 だからちょっと触られただけでも感じすぎるんだ。

 な? わかってくれるな?」


 ほー。そういう理屈だったのか。

 おかしいと思ったんだよね。

 そんなにホイホイと人間の動きを超えられるアイテムがあるわけ無いよね。

 はかいのつるぎやふこうのかぶとみたいに何らかのデメリットがあってしかるべき。

 え、そんな武具しらないって?

 おっさんだから古いゲームの知識に偏ってるんだよ。察してくれ。


 しかしだ、その腋と股間ににじみ出てる水分は……。

 腋は分かる。分かるよ。汗でしょ。敏感だから冷や汗かいてるんだよね。

 汗(断定)が黒いぴっちりスーツをじっとりと濡らし、その漆黒をさらに深めている。

 よく見ると、腋ほどではないが腕も腹も顔もしっとりと湿っているようだ。


 だけど股間はね。

 その、言っちゃあなんだが、漏らしたようにしか見えない。

 うーん、でも、大人がね、それも鍛え上げられたアサシンなんだ。まさか外で、命のやり取りの場でね?

 

 ……汗ね、汗。そう汗。

 これ以上は深く詮索せずに、そういうことにしておこう。


 さてさて、汗(断定)の話はそこまでにしておいて、この女の処遇だ。

 あちらさんの事情なんか知ったこっちゃない。

 俺は死ぬところだったんだぞ。


「痛かったなぁ、ボコボコにされたからな。

 そんな口の利き方や態度で許されると思ってるのかなぁ」


「本当にすみませんでした。

 陛下から暗殺失敗の罰ゲームのようにこのスーツを着用するように命じられて、それ以来この感覚を受け続けるという屈辱を味わっているんだ。

 だからお前、いや、あなた様を見つけたときは小躍りした。

 あなた様を倒して汚名を返上すればこの感覚地獄から解放されると思って」


「ふーん。それが俺を襲った理由か。

 計画性の無い行きずりの犯行じゃないか」


「そ、そうだ。

 別に機密情報を奪おうなんてことを考えちゃいないんだ。

 だから許してくれ!」


「それはちょっと虫がよすぎないか?

 俺は殺されかけたんだぞ」


「わかった、じゃあ一思いに殺してくれ!

 もうこの感覚地獄は耐えられない。

 お前にまた負けた以上、陛下がお許しになるわけはない。

 戻ればこれ以上の責め苦を受けるに違いない。

 だったらいっそのこと殺してくれ」


 あ、潔くなった。

 そう言われると、責めにくいな。

 俺の痛みと恐怖の矛先はどこに向ければいいんだ。


「くっ、殺せ。辱めを受けるぐらいなら死を選ぶ!」


 そのセリフは一番最初に言ってこそ価値があるんだぞ。

 あんたはアサシンで、騎士でもないし。

 それに辱める気も無いよ。

 無い……無いんだからねっ!


 と……冷静になれ俺、クールクール。 

 ……しかたない、この街の憲兵にでも引き渡すか。

 彼女に正しい裁きをしてくれるだろう。


「おいこっちだ。いたぞ」


 人気のない路地裏に都合よく憲兵が現れる。

 もう少し、もう少し早く来てくれれば俺がボコボコのボロボロにされずに済んだのに!


「おーい、憲兵さん。この人アサシンです。捕まえてください」


 俺は大きく手を振って憲兵さんに呼びかける。

 いたたた、やっぱりまだ体が痛む。

 全く……とんだ災難だったよ。


「二人組だ。増援をよこせ」


 ん? 二人組?

 いや、おれは違うよ? アサシンじゃないからね?

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