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第27話 タスケテ、なんだぴょん

 問題は、どうして後ろにいたはずのあいつが俺の目の前に現れたのかだ。

 何か、何か俺に理解できないことをしている?

 この世界のスキルか?

 魔法とかそういう類の話かもしれないし。


 もしかしたら……見えている場所に移動する能力なのかもしれない。

 だとしたら直線に走っていても、さっきと同じで回り込まれてしまう。


 俺は丁度あった路地の隙間に滑り込む。

 家と家の隙間。人が一人通れるかどうかの、そもそも通り道ではない隙間に。


「ざ、ん、ね、ん。そこもアウトだ」


 あごの下に痛みを感じる。


「ぐうっ」


 正面からあごに一撃を食らったようだ。

 その衝撃で後ろに倒れこむ俺。

 不意の一撃で受け身など取れるはずもなく、後頭部を地面に打ち付けた。


 畜生、またあごかよ!

 同じところばかり痛いっちゅうの。

 いや、別の場所でも痛い事には変わりないんだが。


 だけど……いったいどういうカラクリなんだ?

 どうして俺の前に先回りができるんだ。

 見えない位置にもワープできるのか?

 そんな高等なスキル、ほいほい使えるもんなのか?


 天を仰いだままそんなことを考えていた。

 ダメだ、そんなことを考えていないで逃げないと。


 体を起こそうとした瞬間、顔の上から足が降ってくるのが見えた。


 顔面を踏まれる俺。

 ぐりぐり、ぐりぐりとアサシンの靴が俺の顔面のそこら中を圧迫する。


 だけど先ほどまでに受けた刺すような痛烈な痛みではない。

 これは命を取るような類の痛みではなく……つまりは遊ばれているのだ。


「や、やめろ……」


 口や頬をまんべんなく足裏で踏みにじられる中、かろうじて声を出すことが出来た。


「喋ってるんじゃないよ!

 お前はただ無様におびえた表情をして私を楽しませればいいんだよ!」


「あぐぐぐ」


 アサシンの怒りを買ったようで、俺を踏みつける足の圧力が上がった。

 堅い地面とアサシンの足とが生み出す痛みに声が漏れる。


「ほら、ほら、這いずり回れよ。地面を」


 黒いストッキングと言うか、ぴっちりスーツというか、まったく肌色の見えない黒く光を通さない素材を纏ったすらりと長い脚。

 美しささえも感じるその足に俺は足蹴にされ続ける。


 顔だけではない、胸、腹、腕、足。

 俺の体のいたる所を狙ってアサシンの足が振り下ろされる。

 俺は何とか体をよじると丸くなり、アサシンに背を向ける形で急所を守る。


 もうなすがままだ。ここで死ぬんだろうか……。

 そうだろうな。なんたってアサシンだもんな。

 対する俺は一般人。力の差なんか歴然だ。


 今も遊ばれているとはいえ打ち身だけで済むわけはない。

 暗殺者の蹴りだ、骨が折れていてもおかしくは無い。


「なんで……ひとおもいに……ころさないんだ」


 体中に痛みが走る中、何とか言葉をひねり出す。


 別に殺してほしいわけじゃない。

 何か生き残るためのヒントがあるかもしれないと思っただけだ。


「くははは、お前ごとき、気づかれる前に殺すのなど造作もないこと。

 だけどな、それじゃあ私の気が晴れないんだよ。わかるか?」


 髪の毛をつかまれ、頭を起こされる。

 その細い腕のどこにこんな力があるんだ。

 鍛え上げた男でもこうはいかないだろう。


 アサシンはそのまま軽々と俺の頭を持ち上げ、俺はだらりと力を失った状態で彼女の腕に吊り下げられている状態。

 さすがの彼女も俺よりは身長が低い。

 そのため俺の膝は力なく地面に接している。


「くははは、間抜けな面してるな。

 いいぞ、それでこそこの気持ちも晴れるっていうものよ。

 あの日、お前に受けた屈辱を忘れようもない」


 ボコボコに蹴りつけられた痛みで意識が朦朧としてきた。

 すぐ目の前にアサシンの顔がある。

 眼だけが出ている黒いマスクをしており、どのような顔かはわからない。

 そういう場合は、脳がイメージを補完するのだ。

 それも自分の都合のいいイメージに。

 そういう意味でこのアサシンは美人だ。


「ほら、泣けよ、わめけよ、そうしたら気がかわって生き残れるかもしれんぞっ!」


 宙にぶら下げられたサンドバック状態の顔を殴られた。

 一発、二発、三発……。

 

 そしてサンドバックに飽きたのかアサシンは掴んでいた俺の髪の毛から手を離した。

 俺の顔は再び地面とご対面する。


「なんだもうお終いか。つまらん。

 冥途の土産に教えてやるよ。

 今の私はこの前の私と同じではない。

 陛下から賜ったこのスーツが身体能力を数倍に高めているのだ。

 もともとの能力に加えてこのスーツの性能だ。

 貴様程度の力で逃げ出せる訳はない。

 もっとも、魔法障壁の使えないお前など、赤子の手をひねるよりも簡単だがな」


 魔法障壁…………。

 魔法障壁の無い俺なんか、赤子以下か。


 魔法障壁さん……。


『タスケテ……』


 そうそう、こんな風に頭に声が聞こえるんだ。

 助けてとか言われても、こっちが助けて欲しいよ。

 ああでも、最後が聞き取れなかっただけで、助けてあげる、ってことかな。

 そろそろ俺もやばいのかもしれない。

 都合のいい幻聴が聞こえるものだ。


『IDとパスワードを入力してください』


 そうそう、これこれ。魔法障壁さんはいつもこれだ。

 などと走馬燈に思いを馳せる俺。


 いつもならここでIDとパスワードを探して入力するんだ。

 ああ、見える。妄想かな。


 IDとパスワードは覚えていない。結構複雑で文字数も多い。

 だからその場で見つけたものをいつも入力しているんだ。

 そうそう、こんな風にね。


『IDとパスワードの入力を確認したぴょん。

 ようこそ管理者さま。

 ご命令をどうぞだぴょん』


「おい貴様! 何をやってる。その手を動かすな!」

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