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第23話 ターバンと眼帯と(理系の人です)

「うっへえ、気持ち悪い……。地面が揺れてるぜ……」


 ミラーの街に到着した直後の俺。

 確かにスレイプニル便は速かった。


 でも、帰りは普通の馬車にしよう……。

 のんびりとした馬車旅がいい。

 いや、今まで馬車旅とかしたこと無いけどね。

 俺は生粋の地球っ子でジャパニーズだったし。


 けど、スレイプニル便に乗ったおかげで予定よりも早くに着くことができた。

 当初は夜間に到着して一晩泊まって、翌日に魔法障壁管理協会の支部に行く予定だったが、まだ夕方。

 余裕で支部に行く時間はある。

 となるとだ、先に用事を済ませて出張を満喫するぜ!


 ・

 ・

 ・


 初めて来た場所ってのは、なんでこうワクワクするんだろうな。

 なんていうか、どこまで行っても見たことのない景色や街並みが広がるってやつ?


 観光気分でミラーの街をうろつく。

 街の造り自体は石造りでファルナジーンと変わらないんだけど、そもそも俺は転生して日も浅いため、石造りの街並みをゆっくり眺める機会は無かったからな。

 そういう意味で、この街は新鮮。


 とと、観光している場合じゃなかった。

 早く出張の目的地を探さないと。

 魔法障壁管理協会の支部っていうんだから秘密結社みたいなものなんだろ。

 きっと場所を見つけにくいんだろうな。


 などと思っていたが、普通に街の案内板にも乗っており、思ったよりもすぐに見つかった。


「ここか」


 俺は案内板が示していた建物の前に来ている。


【ようこそ、魔法障壁管理協会ミラー支部へ☆】


 JKが使うような、やたら可愛い文字で書かれた看板が俺の目に飛び込んできた。

 文字だけではない。色もカラフルで、最早いかがわしい店と勘違いしても仕方がないレベル。

 

 なーんか、思ってたのとは違うな……。

 まあ分かりやすくオープンにして就職希望者を増やすという狙いなのかもしれない。

 ファルナジーンでもそうだけど、不遇職なんだよね魔法障壁管理者って。

 なんていうの? 他の人からすると何をやっているのか良く分からない職で、そのくせ空気のようにいつもあると思ってるから使えなかったりすると理不尽に怒られると言う。

 あ、これは元の世界のIT部署の話なんだけどね。


 そういう意味ではこの看板はいいと思うよ。

 まさに中に可愛い子が待っているかもしれないという希望を抱かせてくれる。


 どんな子がお出迎えしてくれるのかな?

 受付嬢がすごく美人かもしれないな。

 よしよしそれじゃあ突入だ。


 期待を大にして俺は看板横の入り口をくぐった。


 建物の中に入ってみると……なんか薄暗い。

 夕方とはいえ、まだ日が差し込む時間だ。

 どうやら日光を取り込むはずの窓はわずかに開かれているだけで、意図的に光の侵入を妨げているようだ。


 少しの隙間から差し込む光の筋が、舞っている埃をキラキラと映し出している。

 つまり、埃っぽい。掃除してるのかここ。

 そもそも人が出入りしているのか?

 隅っこに置かれた乾燥に強そうな観葉植物が枯れてるぞ?


 しっかし、先ほどの看板の雰囲気とは大違いだ。

 来訪者の対応を行うのであろうカウンターがあるものの、美人受付嬢はおろか人の気配さえ無かった。

 順番待ちの人が待ち時間に座るための椅子が置いてあるが、誰もいないその光景がまた物悲しい。


「すみませーん」


 俺はカウンターの前まで行き、そこから呼び掛ける。

 カウンターの先には建物の奥へと続く通路がある。

 薄暗くてよく見えないがその先に人がいるかもしれない。


「誰かいませんかー」


 何の反応も無いが、めげずに声をかけてみる。

 もしかして今日の営業は終了か?

 役所みたいに早めに閉まるのかもしれないな。


 最後にもう一声だけかけて今日は帰るとするか、と思った矢先、奥からゆっくりと一人の男がその場に現れた。


「何か用か?」


 ドスの利いた声で一言だけ。


 現れたその男は頭にターバンを巻いており、左目に眼帯をしている。

 この威圧感……ただのオシャレ眼帯じゃない。

 男の姿を見る限りやばそうな雰囲気だ。

 今は手にしていないが、曲刀とか振り回してそうな、そんな感じの男。


「あ、あの、ここは世界魔法者管理協会の支部でしょうか……」


「あん?」


 ぎろりと片目でにらまれた。

 怖いぞ。挫けそう。もう家に、ベルーナの元に帰りたい……。


「い、いや、用があってですね」


「何の用だ」


「その……魔法障壁のホールをふさぐためのマナブロックをこちらで配布していると伺いまして……」


「てめえ! 誰からそれを聞いた。内容によっては生かして返さんぞ」


 急に声を荒らげる男。

 ちょ、ちょっと待って、何で?

 そんな怒られるようなこと言ったの!?


 男がカウンターから身を乗り出す。

 隙あればいつでも俺に飛びかかれる、という体勢だ。

 いや俺には隙しか無いので、いつでも飛びかかってこれるわけだ。


「おい、聞いてるのか? さっさと話せ。お前の命のカウントダウンが始まるぜ」


「す、すいませんでしたー!」


 俺は言うと同時に踵を返し、一目散に出口に向かって駆け出す。

 急に体勢を変えたのでずっこけそうになった。


 カウンターから出口まで、距離にして20歩ほどのわずかな距離だ。


 だが、出口にたどり着こうとしたその時、上からシャッターが降りてきて唯一の脱出口だった出口が完全に閉まり、逃げ道を塞がれてしまった。


「だから逃がさねえって言っただろ。ほらこっちこい」


 塞がれた出口の前で呆然している俺の後ろから男の声がする。

 恐ろしくて振り向けない。

 これは絶体絶命だ。逃げようとしたやつに慈悲が下るはずがない。


「いいか? もう一度だけ言う。こっちに、こい」


 はい死亡。お怒りを買ったようです。

 重い声のトーンがそれを物語っています。

 これ以上はどうにもならないので言う通りにして、沙汰を待ちます。


 俺は恐る恐る振り返ると、苦笑いというか、薄ら笑いというか、恐怖から引きつった表情をしながらゆっくりと男の元へと向かった。

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