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第20話 番外編 上司たちの喫茶店デート3

 ハンカチでヒロの服にこぼれた紅茶をふき取っていたエンリだったが、ある程度拭き終わったところで、ミルクをその上から流し込んだのだ。


「ちょっとー、ハイネさん、あれがいつものエンリ様なんですか? 錯乱してますよ? 紅茶のシミが付いてしまったからミルクで白く染め上げようっていう思考ですよね?」


「違うのよ、違うの、あれはいつものエンリ様じゃないわ」

「そうですか? 見た感じポンコツじゃないですか」

「な、なんですって? エンリ様がポンコツですって? そんなことを言うならヒロだって情けなくてだらしなくておっさんじゃないの」

「むっ、確かにヒロさんは情けなくてだらしなくておっさんですけど、優しくて頼りになって包容力のある男性なんですよ」


「あ、えっと、ベルーナさん、もしかしてヒロのこと、好きなの?」

「はへっ? え、なんでそうなるんですか、そんなこと無いですよ、ちっとも」




「ようようよう、にーちゃんたち見せつけてくれるじゃねーかよ!」

 突如、黒い詰襟を着込んだ二人組がヒロ達のテーブルに現れた。

 背の高い金髪のモヒカンの男と、背の低い小太りの男のコンビだ。

 どちらもサングラスにマスクをしており、いかにも怪しい。




「ちょっとハイネさん、それどころじゃないですよ。お二人が不良みたいな人たちに絡まれてますよ」

「なんていう展開。ヒロ、ここが腕の見せ所よ、きっちりとエンリ様を守ってメロメロにするのよ」




「さっきから見てたらイチャイチャしやがって、迷惑なんだよ。家に帰って続きをやんな」


「な、なんだお前ら、や、やろうってのか」

 ヒロは立ち上がり一歩前に出て不良とエンリの間に入る。

 一応相手の目を見てしゃべっているが、若干足が震えている。




「ヒロさん、いいですよ、その調子です」

「うーん、確かに及第点なんだけど、セリフがね」




「なんやおっさん、びびってんのか、笑えるのう。ようよう、ねーちゃん、こんなおっさん放っておいて、わしらと遊ぼうやないか」

 小太りの男がヒロに絡んでくる。

 ヒロの身長は二人組のどちらよりも高い。

 そのため、小太りの男は見上げるようにしてヒロにガンを飛ばしている。


「私はそのように不良のようなしゃべり方をする人は好きではありません。この方は普段はおどけていますが芯は心の強い優しい方です」

 それまで黙っていたエンリが、物静かに不良達に語り掛ける。


「な、なんですって、エンリ様!? まさかこの男のこと」

 予想だにしない反論だったのか、不良の一人が上ずった声を上げる。

「ばっ、ばか。おまえ」

 慌ててそのセリフを遮るもう一人。




「エンリ様、って言った? んんん? あれ、あいつ、髪型をモヒカンにしてるから気づかなかったけど、同じ職場のやつじゃない。あのやろー、この計画を邪魔する気だな。許せない、抹殺よ」

 ハイネの後ろにどす黒いオーラが見える。


――どごっ

 ハイネは椅子に座ったまま、男の膝裏を足で蹴りつけた。


「いってー、なんだこのやろー!?」

 不良役の魔術士部の男が振り返る。


「げっ、ハイネ……」

 見下ろした先に職場の見知った仲間を見つけた男。


 椅子に座ったままのハイネ。

 サングラスをずらして、鋭い目つきで男を睨みつけている。

 相手が自分に気づいたことを確認すると、親指で首を切るサインをし、その後店の外を指差した。


 男の顔が恐怖に引きつる。

 足ががくがくと震えている。よほど職場で辛い目に会わされているのだろう。


「お、おい、何を震えてるんだ?」

 相棒の様子を不振がる小太りの男。

 ほどなくしてこの男もハイネの存在に気づく。


「わ、悪かったな、ハンサムなお兄様にいつも美しいお姉様。し、失礼しまーす!」

 そう言い残すと、二人は慌てて店の外へ飛び出していった。

 食い逃げだー、という店員の声が聞こえた。



 ひと悶着終えて席に着くヒロとエンリ。

 テーブルの上にこぼれた紅茶はすでに綺麗に掃除されている。


「あの、ありがとうございました。守って頂きまして」

「い、いや、男として当然のことをしたまでですよ、あっはっは」

 たなぼたの結果に過ぎないので、乾いた笑いが含まれている。


「わたくし、男らしい殿方は素敵だと思います」

「え、いや、あはは、俺はそんなに男らしくは無いですよ、現に今も向こうが勝手に逃げていっただけで」




「ちょっとヒロさん、なんで自分を落とすんですか。自虐ネタはだめだとあれほど言ってきたじゃないですか。この恥ずかしがり屋さん!」

 ベルーナが頬を膨らませている。

 上司は今までモテたことが無いため、褒められるとそれを否定する性格なのをよく知っているのだ。




「あーあー、そうだ、ハイネ、ハイネはまだかなー。人を呼び出しておいて遅刻はよくないですよねー」

 明後日の方向を見ながら上擦った声でしゃべるヒロ。


「ハイネと言えば、この前とても困っているときにハイネが銀貨2枚貸してくれましてね。天使か女神に見えたんですよ」




「あのアホ勇者。デート中の女性の前で他の女の話なんてするんじゃない!」

「さすがの私もドン引きです……」

 残念な上司の姿にベルーナはそう呟いた。

「このままじゃいけないわね」

「何か策があるんですか、ハイネさん」

「ええ、任せて」

 ハイネはさっと手を上げる。もちろん店員を呼ぶためだ。


「何かご用でしょうか?」

 ハイネとベルーナのテーブルに店員がやって来る。

「あなた、恋バナは好きかしら?」

 唐突に切り出すハイネ。

「はい、好きですが、それが何か……」

「頼みがあるんだけど、耳かしてくれる?」


――ごにょごにょごにょ

 ハイネが店員の耳元で何かを呟いている。


 一通り話し終えた後、店員は親指を立てて去っていった。


「何を伝えたんですか?」

「まあ見てなさい、あのアホ勇者から私の名前が出てこないようにする最高の作戦よ!」



 すると、先ほどの店員が上司たちのテーブルに向かっていった。


「あの、失礼ですが、エンリ様とヒロ様でしょうか」

「そうだけど」

「先ほど、ハイネ様から伝言があり、今日は急に法事になったので来れないとの事でしたのでお伝えいたしますね」

 それを伝えると店員は去っていった。




「さすがハイネさん。これで二人はハイネさんの陰に怯えることなくイチャラブできますね」

「そうでしょ、そうでしょベルーナさん。あのさりげない理由がミソよ。ほら、もっと褒めてもいいのよ」


 部下二人がなんやかんや言ってるうちに店員がまた上司たちのテーブルへと向かっていく。


「あれ? 店員の出番はもう終わったはずだけど。注文かな?」

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