第18話 番外編 上司たちの喫茶店デート1
このお話は番外編です。現在の本編から少し進んだ時点でのお話となります。
特に気にしなくても読めるようになっていますので、お楽しみください。
【この話にたどりつくまでのお話】
ひょんなことから異世界転生した大阪ヒロ(35歳・男)は勇者の職業を見極める儀式の中で魔術士長エンリ(??歳・女)と出会う。
魔法障壁管理者として城に雇われることになったものの、儀式の最後でエンリの手の甲に口づけする破廉恥な行為に及びその場にいた兵士達(男)の恨みを買うこととなる。
エンリの部下であるハイネ(1?歳・女)は仕事の都合上、ヒロと接点を持つが、初対面で泣き言を言われるなどヒロのダメさ加減を目の当たりにすることになった。
ある日、ヒロとその部下ベルーナ(1?歳・女)は仕事で魔術士部の部屋へと訪れた。
ハイネがその対応に当たり、二人の仕事が終わった後上司であるエンリの確認が必要となったのだが、先ほどまでそこにいたエンリの姿が見当たらない。
部屋の隅の方に隠れてこちらの様子をうかがっているエンリ。
ハイネは隠れているエンリに仕事内容の確認をしてもらおうとするが、いつものキビキビとした対応ではなく、代わりにやっておいてくれという歯切れの悪い返事をもらった。
しかたなくその場はハイネが確認して収めたが、この事件がハイネの乙女心センサーに引っかかる事になる。
若くして魔術士長に上り詰め、人柄もよく部下からの人望も厚いエンリだったが、色恋沙汰の話は全くと言っていいほど聞こえてこなかった。
先の態度から、エンリはヒロに対して気があると確信したハイネはおくてな上司に代わって一肌脱ぐ事を決意したのだった。
そして用事があると言って、エンリとヒロ、それぞれを喫茶店に呼び出すことに成功したのであった。
ここは喫茶店イモータル。城下町にある若い女性に人気のおしゃれな喫茶店だ。
この喫茶店の前に、いかにもこの場には似つかわしくない人物がいた。
その男は一張羅であろうダサい布の服に身を包み、店の前できょろきょろと辺りを見回していた。
「喫茶店イモータル。ここでいいんだよな? こんなおしゃれな所、俺には場違いだぞ」
不審者丸出しのその男は最近城で噂の勇者だ。
「ハイネちゃん、用事があるからっていきなり俺をこんなところに呼び出して……。これ、中に入らないとだめなのかな」
挙動不審の男が入口の前を塞いでいるため、後から来た若い女性の二人組は店に入ることが出来ず、男に不審な目を向けている。
女性達の好奇の目に気づいた男は平謝りしながら入口の前からどくのであった。
そこに、向こう側から気品あふれる佇まいの女性が現れた。
落ち着いた色の服装は年相応の美しさを引き立たせている。
城内で人気の高い魔術士長エンリである。
「喫茶店イモータル、喫茶店イモータル。確かこの辺りだと思うのだけど……」
エンリは部下であるハイネから用事があると言って呼び出されている。
「あったわ、あそこね」
ほどなくしてエンリは待ち合わせ場所を発見する。
「あら、あれは……!!!???」
だが、喫茶店の前の不審な男の姿を見たかと思うと、急に向きを変えて路地に入り建物の陰に隠れてしまった。
「どうしてあの方がこんなところにいるのかしら」
建物の陰からそっと顔を出して喫茶店の前を見てみる。
目の錯覚なのかもう一度よく確認しているのだろうが、彼はエンリが言う「あの方」で間違いなかった。
「どうしましょう、このままでは喫茶店に入れません。でもハイネとの約束の時間に遅れるわけにもいきませんし」
エンリは建物の陰から顔を出したり引っ込めたりしている。
はたから見たら怪しいが、そこは美しい女性。何をやっても絵になるというものだ。
「あっ、ちょっと、エンリ様、そこです、そこですよ、ああ、隠れないで」
喫茶店の入口を広く見渡せる位置。そこに黒い眼鏡とマスクをした女の子が陣取って、怪しい動きをする二人の様子をうかがっていた。
二人を呼び出した張本人のハイネである。
「それにしても、ヒロの恰好もう少し何とかならなかったのかしら。エンリ様に会うとは伝えてないけど、美少女である私と会うことになってるのに」
モテないおっさんの服のコーディネートに憤りを感じているようだ。
確かにヒロの恰好は美少女に会うには不釣り合いだが、彼がハイネを異性判定していない可能性もある。
「エンリ様はさすがね。私服のお姿も気品に満ちあふれてますね。これならあのダメ男もイチコロね」
「ああっ、ヒロさん、あんなおしゃれな喫茶店に何の用なのかな。もしかしてデート?」
こちらは別の女の子。ワンピースのローブを着た三つ編みで眼鏡の女の子が挙動不審の男を見ながらそう呟いている。
「相手はどんな人なんだろう。ヒロさんが女性に骨抜きにされて仕事に支障がでたら困りますからね。うん、そう。決して私が寂しいとかそういうことじゃないんですよ」
ローブのフードを深めにかぶっており、ちらちらと喫茶店の前を見る姿は、先ほどのハイネと同じく怪しい。
どうやら上司が休日に出かける様子を目撃した部下のようだ。
「ん?」
「あれ?」
喫茶店の入り口を眺めていた不審者同士がお互いの存在に気づく。
「あなた、この前仕事で会った、確か、ベルーナさん?」
「えっ、そういう怪しいあなたはハイネさん? どうしてここに?」
お互い先日の仕事で顔見知りである。
「私はね重要な使命でここにいるの。あなたは?」
「私は、ヒロさんを心配して様子を見ているのですけど」
「ふーむ、あなた恋バナは好きかしら?」
「えっ? まあ好きですけど」
「いいでしょう。そしたらあなたも重要な使命に加えてあげます」
「重要な使命ですか?」
「そうよ。エンリ様とダメ男をいい仲にしちゃおう作戦よ!」
「??」
話しについていけない様子のベルーナ。
「何それっていう顔をしているわね。仕方がないわ説明してあげる」
ハイネは事情を話し出す。
「えっ、えっ!? だ、だめですよ。ヒロさんに恋人なんて、い、いや、エンリ様が可哀そうです、ヒロさんじゃ釣り合わないと思いますよ!」
二人がきゃいきゃいと言っているうちに喫茶店の入口で動きがあった。
「あれ? エンリさん? エンリさんじゃないですか?」
不自然に顔を背けながら歩いて来た女性に目ざとくヒロが気づいたようだ。
「!!」
顔をそむけたまま無言で踵を返すエンリ。
だが少し進んだところで、またくるっと向きを変えて喫茶店の入り口の方に戻ってきた。
「あ、あら、勇者ではありませんか。奇遇ですね」
正体がばれたので、思考をフル回転してセリフを捻りだしたようだ。少しぎこちない。
「あ、はい。こんにちはエンリさん」
謎の行動を目にしたヒロだが、深くは詮索しないことにしたようだ。
「ここの喫茶店にはよく来るんですか?」
「い、いえ、今日はハイネから、あ、部下からここに来るようにいわれたのですが」
もじもじとしながら回答するエンリ。
視線はヒロと合わないように外している。
「あれ、そうなんですか。俺もハイネちゃんから用事があるからここに来るように言われたんですよ。でもおしゃれな喫茶店で入っていいものかどうか思案してたところなんです。よかったら一緒に入っていただけませんか?」
「え、ええ、私でよろしければ」
美人をエスコートしての来店だ。誰も不審には思うまい。彼の服装はともかくとして。
そうして二人は喫茶店の中へと消えていった。
「あ、ハイネさん、二人が喫茶店の中に入ってしまいましたよ」
「しまった、ベルーナさん、急いで後を追うわよ」
慌てた様子で、部下たち2名も喫茶店へと突入した。




