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第16話 師匠ノート

 西城壁の上部魔法障壁を後にした俺とベルーナは魔法障壁管理部の部屋まで戻ってきた。

 帰ってくるなりベルーナは、今まで鍵がかかっていて入れなかった部屋の一つに俺を案内した。


 その部屋はこじんまりとしており、四方を本棚に囲まれている。

 本棚にも本が沢山並んでいるが、床から積み上げられている本の量も多い。

 誰かの書斎だろうか。話の流れからしてベルーナの師匠の部屋だと思うが。

 

 本棚に隣接するように机が置かれている。

 机の上も本がぎっしりと積み上げられている。これでは机の上で本を読むことはできないだろう。

 ベルーナはその机の上をごそごそし始めた。 


「これです」

 そう言って取り出したのは一冊の古ぼけた本。

 見たところそれなりの年代物のようだが。


「これが師匠ノート?」

「はい。師匠の研究成果が詰まっていると言ってました」

 なるほど。前任者の業務マニュアルみたいなものか。

 それにしても分厚い。太さ10cmくらいかな。見るだけで大量の情報が書き記されていると判るぞ。


「これを見るのは初めてなので、なにぶん時間がかかるかと思います」


 そう言って本をめくり始める。


「何書いてあるか全く読めない。これこの世界の言葉?」

 そうだ。俺はこの世界の言葉は習っていないけど、読めるししゃべれる。

 でも、先ほどのベルーナの詠唱の言葉やこの本のように、わからない言語や文字も存在する。


「そうですね、これは共通語とは異なる言語ですね。魔法障壁管理者が使う特別な言葉です」


 もしかして、C言語とか、Rubyみたいなプログラミング時に使う言葉なのかな。

 俺は前世ではエセサーバ管理者だったから、プログラミングなんかしたことないので名前しか聞いたことないけど。


「ベルーナは読めるの?」

「はい。私は言語学は得意なんですよ。例えばこれは魔法障壁って書いてます」

 一つの単語を指さして説明してくれるベルーナ。


 おや、なんか読めるようになったぞ。

 今説明を受けた部分だけが、脳内で変換されているのか、魔法障壁って書いてあるのが読める。


「それじゃあこれは?」

「それは精霊様って書いてますね」


 おお、精霊様、って脳内で変換されるようになった。

 同じページの中にも精霊様っていう単語があったのか、それも読めるようになった。


「おおー。ちょっとだけ読めるようになった。また今度時間があるときに教えて欲しい。今はホールを塞ぐ方法を探さないとね」


「わかりました。その時はベルーナ先生に任せてください」

 自分の胸を握りこぶしでトンと叩く仕草をするベルーナ。


「それでは探して行きますね」

 本を読み進めていくベルーナ。


 しばらくして。


「ありました。ここに書いてますね」

 どうやらその記載を発見したようだ。


「読んでみますね。魔法障壁には時間の経過と共にホールが発生することは周知の事実である。発生したホールにはすでに知られている方法で塞ぐことが可能なものと、今までにはない全く違った内容のホールが発生する場合がある。新しいホールについては各魔法障壁管理者で対応することは難しいため選りすぐられた魔法障壁管理者が集う世界魔法障壁管理者協会で解析を行いマナブロックを作成している。各魔法障壁管理者はそのマナブロックを入手し自らが管理する魔法障壁のホールを塞ぐこととなる」


 ベルーナの音読がそこで止まる。


「ということのようです。つまりは世界魔法障壁管理者協会でマナブロックを作ってくれてるから、それをもらってあそこのホールを塞げばいいんだよ。ということですね」


 かいつまんで解説までしてくれた。


「なるほど、じゃあその世界魔法障壁管理者協会っていうところにもらいに行けばいいんだな」


「それはそうなんですが、問題があって」

「問題?」

「はい。世界魔法障壁管理協会は海を越えた向こうの大陸にあるんです……」

「え、本当に? ちょっとまって、そんなに遠いんだったら師匠さんはどうやって入手してたの?」

「そ、そうですよね。何か別の方法があるのかも。師匠ノートの続きを読んでみますね」


「世界魔法障壁管理者協会本部で作成されたマナブロックは、各地にある支部に送られ、支部で……。ここからは虫に食われてて読めません……」


 確かにベルーナが読んでいるページは虫食いが多く、後半については文字を読むこともできない。


「大丈夫だよベルーナ。ほら、支部に送られってあるだろ。ということは支部に行けばいいんだよ。安心して」


「そうですね。さすがヒロさんです」

「支部の場所は知ってる?」

「昔師匠に聞いたことがあります。ここから最寄りの支部は乗合馬車で丸一日くらいの距離にあるミラーの街にあると」


「よし、早速出発しよう」

 目的地がわかれば早速行動だ。なんせホールを放っておくのは危険だ。この前みたいにアサシンがそこから侵入するかもしれない。


「あ、ヒロさん。それがですね」

「どうしたの? 何か問題でもあるの?」

「はい。二人一緒には行けないと思います」

「え、そうなの? ああ、ここの魔法障壁を管理する人がいなくなるからだね」

 二人で出張に行けないのは残念だけど仕方ない。

 インフラを管理する者の宿命よな!


「いえ、それもありますけど、もっと大切なことです」

「大切なこと?」

「はい。魔法障壁管理部にはお金がありません!!」

「えっ、使える予算が無いってこと?」

「そのとおりです。毎年魔法障壁管理部への予算の配分はとても少ないのです。なのでヒロさんが赴任してきても新しい机を用意することもできませんでした」


「そうなのか。人もいない予算も無いなんて……」

 ちょっと不遇過ぎない?

 それに知名度も無いよね。


「その、怒っています? こんな状況なのを黙っていたこと」

 申し訳なさそうにこちらを見ているベルーナ。


「怒る? なんで? ベルーナが悪いわけじゃないよ。それに俺が来たことで余計に費用がかかってるならそれこそ申し訳ない」


「そ、そんなことないですよ。ヒロさんは優しいですね」

「俺が目指すのは紳士ジェントルマンだからね。さてさて、それじゃあどうしたものか」


 打開策を練らねば。

 お金が無いからと言って放っておくわけにはいかない。


「そうですね、経理部に頼み込みに行けばあるいは。旅費の申請も経理部ですし」


「なるほど経理部か。わかった俺が交渉してくる。ベルーナは待っててくれ」

「えっ、一緒に行きますよ」

「大丈夫大丈夫」

「そうですか、そこまで言うなら……」

 どうやら一緒に行きたかったようだ。

 なんとなくしゅんとしている。


 ごめんねベルーナ。一人で行くって言ったのには訳があるんだ。

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