第10話 俺の職場は地下の30畳で二人きり!?
このお城、ファルナジーン城は、中心に王族の居住する本城があり、その周囲を囲んで水が張られた堀がある。
その堀の外側ぐるりを役人達(つまり俺のように城勤めの人たち)が仕事をする事務棟があり、さらにその周囲を城壁兼兵士詰め所が囲んでいる。
ここまでが通常お城と呼ばれている。
城壁の先には城下町があり、城下町の外側も外敵の侵入を防ぐために城壁に囲まれている。
ベルーナに聞いたところによると城の構造は大体そのような感じだ。
つまり俺たちは事務棟に向かっているってことだよね。
ね、ベルーナ。さっき通り過ぎたのが事務棟だよね?
「ベルーナ、俺たちはどこに向かってるの? 魔法障壁管理部に行くんだよね?」
「はい、そうですよ」
「あのさっき通り過ぎたのが事務棟じゃないの?」
「そうですよ。さすがヒロさん。飲み込みが早いですね」
「いやぁ、それほどでも、って。事務棟に行くんじゃないの?」
「違いますよ。魔法障壁管理部の部屋は事務棟じゃないんです。お城の守りを固める重要な部署ですからね」
えっへんと胸を張るベルーナ。
「なるほど、重要な部署ね」
ふーむ。つまりはもっと守りの堅い堅牢な建物っていうことね。
「さあ着きましたよ。ここです」
ベルーナが、バスガイドさんの様に右手に見えますのは、のアクションをした先には、想像していたものとは大いに異なるものがあった。
「こ、これが……」
建物というか、なにやら電話ボックスみたいな大きさ。
石造りには違いないが、これ、人が複数入るのって無理な大きさだぞ。一人でも立って入るのが精一杯だよ。
「はい、魔法障壁管理部の入り口です」
「入り口?」
「入り口です」
そ、そうだよね。これが建物のわけないよね。
奥行きもないし……。
「じゃあ、ご案な~い」
嬉しそうにに案内するベルーナ。同僚が増えたのがうれしいのかな?
閉ざされた電話ボックス(仮)の扉を開けると、そこには地下への階段があった。
明らかに年代物だと感じるほど古ぼけたその階段を下りる。
所々にクモの巣が張っていたりして、手入れをされている感じではない。
こんな所で仕事をしているなんて、魔法障壁管理部の皆さんの健康面が心配だが。
「く、くもの巣が」
頭に引っかかった。背が高いとよくあるんだよね、こういうこと。
「あ、大丈夫ですかヒロさん。ヒロさん背が高いですからね。私は低いほうなのでうらやましいです」
「大丈夫だけどさ、本当にここで仕事してるの?」
「あれ、ヒロさん地下はお嫌いですか?」
「いや、地下がどうのこうのということじゃなくて」
螺旋になっている階段を2階分ほど降りたところで、直線の廊下に出る。
ああ、中はちゃんと広いんだ。
階段は人と人がすれ違うくらいがやっとの狭さだったが、この廊下は台車をすれ違わせることができるくらいの広さがある。
廊下の奥行きは結構あって、そこに面した部屋が幾つかあるようだ。
結構大きめの部署ってことか。守りを固める重要な部署だもんな。
「さあここですよ」
その中の一つの部屋に通される。
部屋の中もそれなりに広く、畳30畳ほどの広さだ。旅館で宴会とかやる部屋くらいかな。
部屋の奥には台座のようなものがある。何に使うのかはわからないが、それが部屋の半分ほどのスペースを取っている。
「ようこそ魔法障壁管理部へ。歓迎しますよ、ヒロさん」
「あ、ああ。ありがとう。ここが魔法障壁管理部……」
いや、部屋の広さに不満はないんだが。
こう、年代物の壁とかが。
それに。
「どうかしましたか?」
俺を覗き込んでくるベルーナ。
「いや、独特の部屋だなーと思って」
「そうですね。事務棟のように新しいものではないですが、良い所ですよ」
新しいものでは無いって言っても、これ数百年前くらいの歴史の面持ちを感じるんだけど。
ま、まあ、職場の良さは新しさだけじゃないよね。どれだけ快適かだよね。そうそう。
新しくても節電のためにクーラー点けてもらえない部屋がどんなに暑くて辛いか……。
「そ、そうだ。他の部屋にも案内してくれよ。他の人にも挨拶しないとな」
「他の部屋ですか?」
「ああ、廊下に幾つか扉があったじゃないか。違う部屋で仕事してる人もいるんだろ?」
その言葉を聴いて、ベルーナは首をふるふると横に振った。
も、もしかして。
「いませんよ。他の人は。この魔法障壁管理部は、私と、そして今日からはヒロさんとの二人です」
な、なんだってー!?
そんな人数でやっていける仕事なの? 魔法障壁管理って。
「そ、そうなんだ」
逆に考えろ。そうだこれはいいことなんだ。
二人しかいないということは、俺とベルーナしかいないわけで。
い、いかん。これは悶々するぞ。
だめだ。ベルーナは天使。それにオフィスラブはだめだ。
「そうなんです。これからよろしくお願いしますね」
この閉ざされた空間で二人きりなんて、前世では彼女いない歴=年齢だった俺に耐えられるのか? 眩暈がしそう。
でも俺も節度のある社会人だ。オンオフはしっかりしないとな。
オンオフオンオフ!
こんな感じで職場紹介が行われたのだった。