表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

 次の日。


 ラナとイベリスは、会話がしやすいようにと人払いをして朝食をとっていた。


 ラナがベーコンエッグを食べやすい大きさに切り分けながら、イベリスに話しかける。


 「あなたが得られる強き心って、一体なんなのかしら……?ねぇ、何かやり遂げたい事はある?」


 「ああ。俺は今ベーコンエッグを腹いっぱい食べたい」


 カエルの目は、大きな皿に2つ並んだベーコンエッグに釘付けになっていた。


 「んもう!ちゃんと話を聞いてちょうだい!」


 「話なら聞いている!だから早くそれを食わせろ!」


 「はぁ…分かったわよ。はい、どうぞ」


 イベリスは持っていたフォークを槍のようにベーコンエッグに突き刺すと、器用に口へ運んで食べ出した。


 うーまーいーっ!


 やはり出来立ては格別だ!


 「…ふふっ。これが気高き王子だなんて、信じられないわ」


 カエルの至福顔に思わず苦笑しながら、ラナも朝食を食べ始めた。



  †††



 その日は一日図書室にこもって、強き心を持っているであろう人々について調べた。


 学者、職人、芸術家……。


 一流を極めた彼らが、どのようにして夢をつかんだのか。


 それから恋愛、慈愛、更には自己愛まで、それらが生まれる仕組みも見てみた。


 だがいくら本をめくっても、欲しい答えには辿り着かなかった。


 「う~ん、どれも今ひとつね…。やっぱりそんな簡単には分かる訳ないわよね」


 ぱたんと本を閉じ、ラナはため息をついた。


 肝心のイベリスはというと、なんとラナの膝の上で眠りこけていた。


 文字ばかりで頭が痛くなったと言って、勝手に膝を借りて昼寝を始めたのだった。


 起きる気配のないカエルをチョンチョンとつつく。


 …………起きない。


 「全くもう……」


 あなたのために調べてるのに…。本当に元に戻る気があるのかしら。



  †††



 合間にしばし休憩。


 モナルダの淹れてくれた紅茶で一息つき、クッキーを一つつまむ。


 「ありがとうモナルダ。今日もとても美味しいわ」


 「お褒めいただき光栄にございます」


 「このクッキーもすごく美味しいってパティシエにも伝えてね」


 「かしこまりました」


 「……なぜだ?」


 ティータイムは好きではないとラナの肩に乗ったままのイベリスが、モナルダに聞こえないほどの声で話しかけた。


 「昨日から見ていて思ったが、お前はなぜそんなにも従者達に礼を言うのだ?あいつらはお前の世話をするのが仕事なんだ。尽くすのは当然だろう。礼など必要ないはずだ」


 「あら、そんな事はないわ。彼らは確かに雇われてここにいるけれど、みんな私のためを思ってしてくれているのよ?その証拠に、このクッキーだって紅茶だって、私の好みに合わせていろいろ工夫をしてくれているんだから。私は、私の事を考えてくれた事に感謝しているの。だからお礼は必要よ。それに『ありがとう』って言葉は、言った方も言われた方も嬉しい気持ちにさせてくれるしね」


 「ふーん…そんなものなのか」


 「そうよ」


 「…………」


 イベリスは周りに控える従者達を見回した。


 『考えてくれた事に感謝』……そんなの、考えた事もなかったな……。



  †††



 夜になり、いつものようにラナは寝室の隠し扉を開けた。


 「おい、今日も森へ行くのか?」


 「もちろんよ!だって、せっかく捕まえたと思ったものが偽物だったのよ?次こそ本物の新種を見つけなくっちゃ」


 「偽物で悪かったな」


 「本当、がっかりだわ」


 「……俺はお前で良かったがな」


 「え?何か言った?」


 「別に。お前みたいな変人が王女でこの国は可哀想だと言ったんだ」


 「ひどい!それを言うならあなたの国だって可哀想じゃない!」


 「なんだと?!」


 その後もくだらない言い合いをしながら、2人は城下へと出ていった。



  †††



 揺れるポケットの中で、イベリスは今日の事を考えていた。


 『考えてくれた事に感謝』


 その言葉が、なぜかずっと心に残っていた。


 そして休憩を終え再び図書室で本を開き出した彼女を見て、気付いたのだ。


 彼女は、今日どころか森で出会ってからずっと、自分の事を考えてくれていた。


 見返りに報酬をもらえる訳でもないのに。


 むしろ悪口や文句ばかりを言われて、何も良い事がないのに。


 そしてふと思った。


 もしも、自分を捕まえたのが彼女ではなく他の誰かだったとしたら、こうして何事もなく一日を終えられていたのだろうか。


 元の姿に戻る希望を、見出だせていたのだろうか。


 「……………………」


 答えは…否。


 ポケットの中から、チラリと彼女の顔を見上げる。


 …………『ありがとう』…か。


 もしも人間に戻る事ができたなら、彼女にだったら言ってみてもいいかも知れない。


 言える日は……いつか来るだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ