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おまけ

 それは、王子が国へ帰り、再び平穏を取り戻してから数日後の事。


 トリトマが新しい薬を作ろうと準備をしていると、コンコンと誰かが家の扉を叩いた。


 先の事もあり、警戒を強めながら来訪者に問いかけると、若い男の声が返ってきた。


 「……誰だ」


 「俺です!あの…以前、レッド王国の使いとして来た……」


 「っ!?」


 驚くままに慌てて扉を開けると、あの時の憎き青年が立っていた。



 ──あなたの薬の効き目に、王子も大層お喜びです!


 ──昔と変わらずとても良い薬だと言っておりました!



 蘇る記憶に瞬時に怒りが沸き起こり、トリトマは男の胸ぐらを掴んだ。


 「ええ?!あのっ…」


 「お前のでたらめのせいで私はぁっっ!!」


 ギリギリと手の力を強め、自分より背の高い男を鋭く睨み付ける。


 ……しかし、男から何も返答がない事に違和感を感じた。


 「………………」


 「……?…な、なんだ…?」


 男はトリトマをまじまじと見つめていた。


 そして。


 「美しい…」


 「は?」


 意味不明な発言に呆けたのもつかの間、男はトリトマの手をガシッと握り返してきた。


 「なっ?!」


 「やっと…!やっと目を合わせてくれたっ!!」


 「はぁ?!」


 「夜闇を溶かし込んだようなどこまでも純粋な黒の瞳!ああ…吸い込まれてしまいそうだ」


 「っ!!」


 なんだこいつ?!気持ち悪いっ!!


 トリトマは慌てて男の手を振りほどき、家の奥へと後ずさった。


 「お、お前っ…何なんだ?!」


 「ここを離れる前に一言別れをと思ったのに…やっぱり無理だ。あの瞳に他の男が映る日が来るなんて絶対に嫌だ…」


 「は…?何を一人でしゃべって──」


 「深森の魔女殿!」


 「っ!な、なんだ?!」


 「今日はお詫びをしに参りました」


 「お、お詫び?」


 「はい。先日の失言、誠に申し訳ございませんでした!」


 「!…」


 「どうしてもあなたに自信を持って頂きたくて、堂々と顔をあげてほしくて……しかしこんな下っぱ兵士の私の言葉では、あなたの心には届くはずもないと思い、それで…あのような嘘を……。まさかそれが、あんな結果を招く事になろうとは夢にも思わず…本当に申し訳ございませんでした」


 「…………」


 あれは……私のため…?


 「つきましてはっ!」


 「っ?!」


 ガバリと上げられた頭に、トリトマの肩がビクッと跳ねる。


 「その償いをするべく、私をここに置いて頂けないでしょうか!」


 「はぁ?!」


 「雑用でも何でも、お申し付け頂ければ喜んでやらせていただきます!下っぱとはいえ、城で武術の鍛練もしておりました。ご用命とあらば用心棒としてもお役に立ってみせましょう!ぜひとも──」


 「いらん!そんなもの私には必要ない!それにお前は城に仕えているのだから、私の所に来る暇など…」


 「あ、兵士はクビになりました」


 「何ぃ?!」


 そういえば、彼はいつもの鎧を纏った姿ではなく、そこら辺の町人まちびとと変わらぬ格好をしていた。


 「勝手に王子の口を借り事件を誘発させた罪は重いと、王子から直々に言い渡されました」


 「…………」


 あの阿呆ガエル…。どうせなら処刑しておいてくれ。


 「ぜひに!どうか私を!ここに!」


 「いらん!そして近い!!寄るなっ!」


 「どうか!!」


 「いらんっ!!」


 すると、男はピタリと動きを止め、シュンと眉を下げた。


 「そ、そうですよね…。罪人である私など、いても迷惑ですよね。生きているのもおこがましいですよね」


 「い、いや、何もそこまでは…」


 「ならば今ここでこの命をもって償いをさせていただきます!!」


 「なっっ?!」


 言いながら元兵士はナイフを取り出し自らの喉元に向けた。


 「やっやめろ!そんなことをしても償いにはならん!第一ここで死なれたら迷惑だ!!」


 「ならばあの山に登り崖から身を投じて──」


 「ならんっ!」


 「では重りをつけ海の底深くへ──」


 「ならんと言っているだろう!なぜ死ぬ事しか考えないんだ?!」


 「貴女さまのお傍にいられないのなら、生きていても意味がありません!」


 「っ!」


 全身全霊の心情の吐露と共に熱い眼差しがトリトマへと注がれた。


 「くっ…」


 しばし睨み返していたが、熱量の多さに負け、トリトマはがっくりと肩を落とした。


 「もう…好きにしろ…」


 「え…こ、ここに置いていただけるのですか?!」


 「ああ。気の済むまでいるがいい。だが、私の指示には全て従ってもらう。良いな?」


 「はいっ!!」


 かくして深森の魔女は気苦労の絶えぬ同居生活を送る事となったのだった。それが、どの類いの苦労であるのか分からぬままに。

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