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 「…………ん…」


 暗闇の中、ラナは目を覚ました。


 嗅がされた薬のせいで、まだ若干頭がクラクラする。


 少し動いてみると、腕は後ろ手に縛られ自由がきかなくなっていた。


 なんとか起き上がり周りを見回す。


 冷たい石の床、じめじめと湿った空気。


 恐らくどこかの地下室だろうが、暗くてよく分からなかった。


 「……ここは、どこ…?」


 するとラナの後ろの方から声が聞こえた。


 「…その声…ラナか?」


 「っ!、トリィ?!」


 よくよく目を凝らすと、奥に人影があるのを見つけた。


 動きにくいままなんとか近付く。


 「ラナ……なぜここに…」


 「あぁ、良かった!無事だったのね!」


 抱きつきたいけど、腕が動かないんだった。


 「これで無事と言えるかは甚だ疑問だがな。まさかお前も捕まったのか?」


 「そうみたい。あなたの家の前で薬を嗅がされて、気付いたらここにいたの」


 「薬…………。すまない…私のせいだ…」


 「え?…どういう事?」


 「その薬は恐らく、私が作ったものだ」


 トリトマの家に一人の男が訪ねてきた。


 男は猟師で、矢に仕込む眠り薬が欲しいと言ってきた。


 そのような注文はたまに受けるので大して疑問に思わず薬を渡すと、なんと男はトリトマに向かってその薬を振りかけたのだった。


 「獣用の強力で即効性のあるものだったからな。抵抗する間もなかった」


 「それはトリィのせいなんかじゃないわ!悪用したその人が悪いのよ」


 トリィの薬をこんな事に使うなんて許せないわ!


 「その人に見覚えはあるの?」


 「いいや、初めて見る顔だった」


 「じゃあ…こんな風にされる心当たりは?」


 「腐るほどあるな」


 「ええっ!?」


 「私の薬は万能ではない。その効き目に不満を持つ者は、少なからずいるだろうさ」


 「それだってあなたのせいじゃないじゃない!」


 「皆が皆、お前のように聞き分けが良い訳ではないという事だ。……だが、今回はそれとも少し違う気がする」


 「…え?」


 「男は私の魔法を封じるすべを知っていた」


 「そうなの?!トリィ、一体何をされたの?!」


 「目隠しをされた。おかげで何も見えん」


 「そういう事は早く言って!!」


 ラナは慌てて立ち上がり、縛られている手でトリトマの顔の辺りを探った。


 何やら金属製の鎖がぐるぐると巻かれている。


 「ひどい…なによこれ!」


 急いでそれを剥ぎ取った。


 「大丈夫?トリィ」


 「ああ。ありがとう、ラナ」


 「どうして鎖なんか…」


 「それは恐らく銀製の鎖だ。…魔法を扱う者は銀に弱いのだ」


 「え?銀に弱いのって、確か悪魔じゃなかった?」


 「魔法はその悪魔に通じる力なのだ。彼らのように肌を焼かれるほどではないが、触れると力を奪われる」


 「そうだったの」


 「…だがそれはあまり知られていない事だ。加えて、私が目で見ただけで魔法をかけられる事も知っていた。それで目隠しをしたのだろうからな」


 「じゃあ…私達を捕まえたのって…」


 「同じく魔法を扱う者か、もしくは相当に深い知識を持った者…という事だな。いずれにせよ、ただ者ではない」


 「…………」


 そんな人間が相手だなんて……。


 このまま捕まっていて無事で済むはずがないではないか。


 「トリィ、今すぐここを出ましょう」


 「出るって、どうやって…」


 「実は今履いている靴にナイフが仕込んであるの。それで縄を切りましょう!」


 「………お前、本当に王女だよな…?」


 「だって暗い森の中を一人で歩いているのよ?自分の身は自分で守れるようにしておかなくちゃ!」


 「………………そうだな…」


 「でしょ?」


 「だが残念な知らせが一つある」


 「え?なに?」


 「私は腕にも鎖が巻かれている。ナイフを使えるほど力が入るか分からん」


 「ええ!?っもう!だからそういう事は早く言って!!」


 とその時、天井の戸が開いて2人の元にランタンの光が射し込んだ。


 「…出ろ。ローレル様が会いたがっている」



  †††



 進んでも、進んでも、目的の場所は全く見えてこない。


 「はぁっ…はぁっ……!」


 どこだ?!どこなんだっ?!


 木々の間から途切れ途切れに射し込む月明かりを頼りに懸命に目を凝らし、地面に残る足跡を辿る。


 幸いにも、この足跡の主は徒歩で移動をしていた。


 木の根が入り組む森の中では、馬は使えなかったようだ。


 人間一人を担いでいてはそんなに速く進めないだろうと踏んではいるが、このちっぽけな体では、それにすら追いつけているのかどうかも分からない。


 「…っ、のわっ?!」


 気力だけで前に進んでいたら、足がもつれてべしゃりと派手に転んだ。


 「くっ……」


 泥まみれの体、重たい足、終わりの見えない道のり……。


 心が折れそうになり、イベリスはそれまで動かし続けていた足を止めた。


 もういやだ!なぜ、王子である俺がこんな……。


 「………………」


 ……そういえば…あいつに捕まった時も、こうして森を歩き続けていたな……。


 イベリスは、ラナと最初に出会った時を思い出した。


 彼女はキラキラ輝く瞳で自分を見つめていた。


 一瞬…女神のようだと思った。


 あの時の出会えた喜びは、今でも忘れない。


 …………その瞳の輝きが、今何者かによって消されようとしている。


 …そんな事……あってたまるかっ!!


 「く…っそぉお!!」


 おのれを無理矢理奮い起たせ、イベリスは再び歩み始めた。

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