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 それから数日、2人は城下にある国立の図書館へ行ったり、買い物を口実に市場などの賑わう場所へ出向いていろいろな話を見聞きしたりしたが、強き心を得る方法は一向に分からなかった。


 「はぁ……。カエルさんは元に戻らないし、新種は見つからないし…あとは一体どうしたらいいのかしら…」


 今夜のカエル新種探しも空振りに終わり、寝巻き姿に戻ったラナは意気消沈でベッドにうずもる。


 隣の枕を陣取るイベリスは、半眼でラナを見据えた。


 「新種に関しては、別に今に始まった事じゃないだろうが」


 「一度ぬか喜びをしてしまったから余計に辛いの!」


 「ああ、そうかよ。……しかし、なぜお前はそこまで新種探しにこだわるんだ?」


 「え…?そ、それはっ、カエル研究の発展のためにっ…………」


 いろいろ熱弁しようとしたラナは、しかしながら繕った笑顔をやめた。


 「……あの……本当言うとね?…私が新種を探すのは、皆に認めてほしいからなの」


 「認める?…何をだ?」


 「私の…存在価値」


 「存在価値…?」


 イベリスは、どういう事かと首を傾げた。


 「…この国には、王女が5人いる。それはどうしてだか分かる?」


 「さぁな。子供がそんなに欲しかったのか?」


 「いいえ、違う。産んでも産んでも、男の子が生まれなかったからよ」


 「!……」


 王妃が子供を授かった時、王は大層喜んだ。


 『男であれば良いな』


 国を受け継ぐ者は、やはり直系の男子が望ましい。


 しかし生まれたのは女の子。


 けれど待望の一人目であったから、皆からそれはそれは素晴らしい祝福を受けた。


 そして二人目を授かった。


 『次こそ男であれば良いな』


 しかし次も女の子。


 まだ二人目だからと、この子も素晴らしい祝福を受けた。


 だが……。


 三人目、四人目と一向に男の子が生まれる気配がない。


 表向きは新しい命の誕生に喜んでいたが、裏では皆がっかりしていた。


 そして、王妃の体の負担を考えるとこれが最後のチャンスと五人目を授かる。


 王だけではなく、皆が男子を求めた。


 「……けれど、生まれたのは女である私だった」


 「…………」


 ラナは、キュッと枕を抱きしめた。


 「きっと…皆とてもがっかりしたんだと思うわ」


 母である王妃はそんな事はないと言ってくれたが、自分を見つめる皆の目には、幼い自分でも分かる程に落胆の色が見えていた。


 中でも王は、とりわけその色が濃かった。


 「私は…この城で、この国で、全く必要のない存在……」


 だから、後世に名が残る程の功績を挙げて、少しでもその価値を上げたかった。


 「……なるほどな。それが『新種の発見』というわけか」


 「うん…」


 「だがなぜそこで『カエル』なんだ?新種を見つけるなら、他の生物でも構わんだろう」


 「あのね?私の名前の『ラナ』って、遠い国の言葉で『カエル』って意味があるんですって。それを知った時、なんだか運命を感じちゃったの」


 ラナはふふっと笑顔を見せた。


 運命を感じてからは、それはそれは夢中で文献や資料を読み漁った。


 それこそ頭にすりこむ程に。


 「それでこんな変人ができあがったのか」


 「もう!ちゃんと自覚はあるんだから、改めて口に出して言わないで!」


 「変人」


 「んもう!!」


 「んぶっ!」


 ラナは持っていた枕をカエルに投げつけた。


 そしてベッドを降りて机の方へと向かい、鍵付きの引き出しを開けた。


 「今日はもう寝ましょう?明日も頑張らなきゃ」


 小さな瓶を取り出し、中に入っている薬を2粒飲んだ。


 「いつも思うが、お前が毎晩飲んでるそれは何だ?睡眠薬か何かか?」


 「これはトリィ特製の回復薬よ」


 1粒飲めば5時間、2粒飲めば3時間、3粒飲めば1時間の休息で体の疲れが消えるという素晴らしい薬だった。


 元々は城で働く兵士や夜通し作業をする職人達のために作られた薬だが、夜な夜な出歩いたせいで寝不足でフラフラしていたら、森で出会ったトリィが見かねてラナにも処方してくれたのだった。


 「すごくよく効くのよ?もうこれなしでは生きていけないわ」


 「その発言はやめておいた方がいいと思うぞ…」


 「え?どうして?」


 「いや、分からんがなんとなく…。だがそれでようやく謎が解けた。大して寝ていないはずのお前があんなにも元気だったのは、その薬のおかげだったんだな」


 「ええ、そうよ。でももうそろそろなくなりそうだわ。明日トリィの所へもらいに行かなくちゃ」


 ラナは薬の瓶をしまい、ベッドへと潜り込んだ。

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