喫茶店のマスターは切ない瞳で見ている。
今回は特別編のような形でマスターは何時になく
おセンチで沈んでいます。
ギャグやコメディー要素はほぼ皆無で進んでいきます。
カランコロン・・・。
本日のマスターは少しばかり憂鬱な気持ちで
溜息を洩らしながら自身の亡くなった元奥さんの
写真を大事に古びれたケースに入れてポケットに
入れてあったものを取りだして複雑な顔をしていた。
そんな時のセンチメンタルさが通じる一日だったのか・・・。
ケース.6
30代の男女のカップルらしき2人組が来店。
「ご注文は何になさいますか~?」
女子店員が何時もの様にメニューを聞きに行く。
「あ・・・。私は、ミルクセーキで・・・。」
「僕はアイスオーレで・・・。」
「かしこまりました~・・・。」
パタパタと注文の確認を取る女子店員。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・何・・・?話したいなら話してよ・・・?」
「どうしても・・・別れなくちゃ駄目なの・・・?」
「君が言い出したんじゃないか・・・。駄目も何も・・・。」
「・・・だって・・・!!」
女の方が泣き始めた・・・。
(うわ!これは修羅場に発展するやつかな・・・?
別れ話のもつれかな・・・?!・・・・・。)
マスターはなんとなくモヤモヤした気持ちで聞いていた。
「貴方に他に好きな人が出来たんなら・・・。もう・・・。
どうしようもないじゃない!!」
「泣くなよ、こんなところで!みっともない・・・!!」
「場所なんか・・・、今は関係ないでしょう?!私の気持ちは
どうなるの?どうなってもいいの・・・?!」
「それは・・・!!・・・悪かったと思ってる・・・。
でも・・・。どうでもいいとか・・・そんな風には・・・。
思ってないよ・・・・・・・。ただ、僕が悪かったのは
もうどうしようもないし・・・。そればっかりは認めるしか・・・
ないんだ・・・。でも・・・!!」
「もういや!聞きたくない!!!これ以上苦しめないで!!!」
「苦しめるつもりは・・・なかったんだ・・・ごめん・・・。
・・・・・ごめんとしか・・・ほんとに・・・言いようがない・・・。」
「もう・・・貰った指輪も返したいから、返す・・・!!」
彼女は自分の左手の薬指にはめていた指輪を外しながら
震える手で彼の手元付近にトン!と置いた。
「・・・手・・・震えてる・・・・・。僕も震えそうだ・・・。」
女子店員は恐る恐る注文していたミルクセーキとアイスオーレを
テーブルに置きに来た・・・。
「ミルクセーキとアイスオーレになりまーす・・・・・。」
「あ、すいません・・・。」
男の方が申し訳ない様な表情でパッと女子店員の顔を見て謝る。
去っていく女子店員・・・。
「君、今凄い勇気要ったでしょう?!」小声でマスターはそう尋ねた。
「・・・それはもう・・・。ビシビシと感情が伝わってくるので・・・。」
女子店員も青ざめた表情で同じく小声でマスターに返す・・・。
「指輪・・・。返せだなんて、せこい事言わないから・・・。
せめて・・・僕の気持ちとして・・・持っていてほしかった・・・。」
泣きじゃくりながら下を向いて暫く言葉も出ない女性・・・。
「狡いと思うけど・・・。君への想いの欠片として・・・。
形に残してあげたかった・・・。好きだったのは・・・本当だったし・・・。
今、別に好きになってしまった彼女がいても・・・。僕としては・・・。
君に対する想いを・・・完全に消せないでいる・・・。ごめん・・・。こんな・・・。」
「ほん・・・と・・・。狡い・・・よね・・・?他に好きな人が出来ても、
私には「忘れるな」って・・・そう言いたいの・・・?あなたの我儘じゃない。」
「そんなに泣かないで・・・。ほら。ミルクセーキ・・・。君がずっと
昔から大好きだったミルクセーキ・・・飲んで少し落ち着いて・・・?」
震える手でグラスを持とうとして手が滑り、零してしまう彼女・・・。
カシャーン・・・!!
「お・・・お客様!!テーブルお拭きしますね・・・?」
女子店員は慌てて布巾でテーブルの上に零れたミルクセーキを拭きとる。
「うわああああああああーーーーーーん・・・・・!!!」
突然涙声で比較的小さめに抑えた泣き声で泣き出してしまう。
(うわああああ!!せめて私があっちに戻るまで今泣かないでくださいよ~。)
女子店員はハラハラしていた・・・。
「僕と出会った時も・・・泣いてたの・・・思いだしてしまった・・・。」
「う・・・・うううう・・・・。」
「君はあの時も失恋していたよね・・・?それで・・・。
成り行きで僕と付き合う様になって・・・。なのに・・・。
今度は・・・。僕が泣かせてしまう羽目になってしまった・・・。
・・・悪かったとしか・・・言いようがない・・・。ごめん・・・。」
「・・・ごめんとか・・・今は言わないで・・・。もう・・・。
「ごめん」なんか・・・聞きたくない・・・!!そんな「一言」で
済ませないで・・・。あなたは狡い人よね・・・?」
「・・・・・・・。」
思わずアイスオーレを口に含む彼・・・。
「・・・でも・・・私も・・・狡いから・・・。
前言撤回させて・・・。指輪・・・やっぱり返して・・・。
あなたがそう言うなら・・・持っておいてもいいんなら・・・。
手元に・・・置いて・・・おきたいよ・・・・・・。」
「・・・それは・・・思い出として・・・?」
「思い出・・・として・・・。今までの・・・。」
「こんな酷い男の思い出・・・残してなんかおきたい・・・?
それでも・・・まだ・・・・・・・。」
アイスオーレのグラスをコトンと置きながら話をする。
「酷いけどね!酷いけど・・・。でも・・・。
好きだったのは本当だから・・・。残しておきたいの・・・。」
ハンカチで何回も涙を拭いながら少しずつ回復する様に言葉を続ける彼女。
「辛い時に・・・支えてくれたのは・・・紛れもなく・・・。
あなただったから・・・。それじゃあ・・・理由にもならない・・・?
女々しいのは分かってる・・・。いつまでも弱いなって・・・。
だから、捨てられても当然だって・・・。分かってるよ・・・。」
「捨てたつもりじゃないよ・・・。そこまでは・・・。」
「・・・ごめんなさい・・・。今のは私の言い方も悪かった・・・。」
「いつか・・・君がまた・・・誰かと幸せになれることを・・・、
願わせてくれって言ったら・・・これも狡い・・・?傷つける・・・?」
「・・・・・・・・。優しい言葉ばかりかけないで・・・。
別れる決心が鈍りそうになって余計に・・・辛くなるから・・・。」
「・・・・・・すまない・・・・・・・。」
「・・・もう・・・いい・・・。ここで、お別れしましょう・・・?
私ももう・・・決心がついてるから・・・。初めは、辛かったし・・・。
苦しい気持ちでいっぱいだったけど・・・。でも・・・。あなたにあの時
救われたんだから・・・。もう・・・。いいの・・・。」
「・・・・・・悪かった・・・・・・・。本当に・・・・・・。」
「思い出をいっぱい有難う・・・。もう・・・何言ったらいいのか・・・。
今はわかんないけど・・・。でも、一言言わせて・・・。有難う。確かに
少しの時間でも・・・「幸せでした」・・・・・・。」
「・・・・・・。僕に・・・そんな「優しい言葉」をかけないでいいから!!
・・・僕が悪い筈なのに・・・僕まで泣きたくなる・・・・・・!!
決心が鈍りそうになるのはこっちも・・・同じだよ・・・・・。
・・・情けないけど・・・。最低だな・・・。僕は・・・・・・・。」
「最後に・・・逢えたのが・・・あなたで良かったです・・・。
あなたの方こそ・・・絶対・・・幸せになって・・・。お願いだから・・・。」
「・・・・・・・。ああ・・・。君も・・・。もう・・・泣くなよ・・・?」
「私ももう・・・これで・・・「最後の恋」にするから・・・。
もう・・・弱い自分から脱却して・・・。いつも・・・あなたの思い出を
心にしまって生きて・・・いきます・・・。いつまでも、元気で・・・。」
ガタン!と席を立つ彼女の腕を躊躇いつつも掴んでしまう彼。
「待ってくれ・・・!!まだ・・・もう少し・・・!!!」
彼の目には涙が滲んでいた・・・。
「お願い・・・もう・・・離して・・・。私はもうこれでいいの・・・。」
その言葉を最後に押し黙る彼女の後姿を見ながら、彼は諦める様に・・・
そっと・・・手を離してしまう・・・。
「さようなら・・・。公人くん・・・・・。」
去っていく彼女の姿も見れないでいる彼は・・・。
テーブルの上に数滴の涙を零していた・・・。
数時間後・・・。誰も居なくなった喫茶店にマスターは1人で
佇んでいた・・・。
「置いていかれる立場の男は・・・置いていく立場よりも・・・
辛いものだな・・・。きっと・・・みんなそうだよ・・・。
喜代美・・・・・・・・。」
マスターは干渉にふける様に・・・。
亡くなった奥さんの写真を手でなぞっていた・・・。
「今日は・・・マスター・・・。ちょっぴり・・・。
おセンチになっちゃったよ・・・。柄にもないな・・・。」
複雑な笑みを浮かべながらしんとした暗い喫茶店の薄明りの中で
マスターは何時になく情けない顔になってしまっていた・・・。
マスターは死別した妻の写真を今も尚大事に持っているという
設定は前から作ってあったので、それをお客様のカップルの
別れ話の会話とリンクさせる様にシンクロさせる様に繋げてみました。
たまにはこういうセンチメンタルなお話になっても良いかな・・・と
思いまして、ギャグはないけど、書いてて楽しかったです。