8、ギルド見学
スライム。
ゲームで最初に出てきて倒されることで有名なスライム。
一部のゲームでは強キャラとして出てくることの多いスライム。
このゲームではチュートリアルにつかわれる程弱い。
「最弱のモンスターと最弱のステータスから始まるのか」
口に出してみると厳しさがわかる。
最弱のモンスター、スライム。
スライムが倒せるモンスターなんているのだろうか?
あまり想像ができない。
サイズはそこそこあるけれど表面が破けたら体液が漏れ出して死んじゃうんだよね?
のしかかりなんかもできそうにない。
倒せるとしたらネズミサイズで爪とか牙とか嘴とか表面を破る危険性のないものだけだよね。
……そんなのいるのか?
目の前で所在なさげにプルプルしてるスライム。
まずは名前を付けてあげようか。
僕は赤系統の色が好きだ。
ヒーロー物なら主役格。
闇落ちして少し黒いものが混ざってもいい。
聖なる色として明るい色になってもいい。
火を象徴するかのようでとても心に色が響く。
ログイン前に決めておいた名前は【血赤】だけどこんな透明でプルプルのスライムには合わないかな……。
いえ、将来に期待です! 赤ん坊だって将来になってほしい名前をつけるものなんだ。
血をメインにした料理を食べさせていたらきっと赤くなるだろう。
苺大福みたいになったらどうしよう?
僕は指でちょっと押してみた。
むにゅ。
低反発素材のような感触。
どこまで沈み込むのだろうか?
爪で表面を破らないように指の関節を押し付けてみる。
ゆっくりと、ゆっくりと沈み込んでいく。
指が根元まで沈み込む。
まだ。まだいけそう。
手を入れていく。
表面がプルプルと振動していて気持ちいい。
腕を飲み込んでもまだ大丈夫そう。
視界に映る体力のゲージに変化がない。
手首まで入り切ってしまった。
……どこまでいけるのだろうか?
腕の周りをプルプルと振動して気持ちがいい。
まだいけるかな?
あ。
手が突き抜けちゃった。
あれ? これ大丈夫なの?
体力のゲージには何も変化がない。
にしてもこの感触気持ちがいい。
このぷるぷる、こう体をもんでくる強さもあってマッサージされてる気分。
あ、いや、いつかやった腕で測る血圧測定の機械。
あれみたい!
スマホのアラームが唐突に鳴り響く。
スマホを開くとダイレクトメール。
題名はギルドへの入門許可だった。
プレイヤーのステータスを開くと所属ギルドに【けもけも】の文字が。
街中からであればスマホを使いチャンネル移動すればギルドにワープすることができる。
僕は早速ギルドに移動した。
あのお店にいかないと。
チャンネルをすると一瞬視界が真っ白に染まる。
そして白い光が晴れるとそこには都会が広がっていた。
あれ、ここってふぁんたじーせかいじゃないの?
光の反射できらめく球体がところどころにある。
大使館のような洋風で大きな建物が何件も建っていて、中央には城と呼べそうなものまである。
赤と白のレンガで模様が作られた、車が4台並んで通れそうな、とても広い道は町で使われているものよりも細かくしっかりしている。模様に雑じって徐行とか線が引かれてたりしている。
道の脇にはきれいな緑色をした木々が植えられていてしっかりと手入れされていることがわかる。
あまり行かないけれど国際展示場みたいな非常に近代的な街並みに似てる気がする。
……衝動的に来たけど僕はどこに向かえばいいんだろう?
~~~~~~近くの人に聞いてみた~~~~~~~
「迷った? あ、違うんだ。あぁ今日、加入した人なんだ。
とりあえずあの1番大きな洋館、ギルド中央館に行けばいいよ」
「ありがとうございます」
2m超えの白いクマって遠くから見たら優しそうなんだけど近くで見ると怖いという。
ちょっと後悔しながら聞いてみたら優しく道を教えてくれました。
別に怖いことなんてなかったですよ。
シロクマさんに聞いた、ギルド中央館に向かった。
道行くものが全て目新しい。
動画などであまり公開されないギルドの中なのだ。
多少公開されても限られた範囲。
空気すらも感じたことのない高揚感をもたらしている気がする。
「すみません、先ほど加入した【クリムゾンクラウド】、クリムというものなんですが」
「どうしたのかな?行きたい場所でもわからないのかな?」
中央館に入ると僕はまっすぐ目の前にあったカウンターに向かい受付嬢のお姉さんに話しかけた。
……白いキツネの妖艶なお姉さんなのになんで男の声なのさ……!
努力しているのか、鼻にかけたようなオネェな声だし……。
道理で他のところに比べて空いているわけだよ……。
「に近いですね。あの実は僕、テン子さんのお店で働きたいのですけど、どうすればいいか少しわからなくて」
「ほぉ、君はサモナーなのかな?」
「そうですよ」
「珍しい、男のサモナーか。あそこのお店はちょっと特殊だからギルマスに問い合わせしないといけないんだ。ギルマスは忙しいから待たされてしまうが夜更かしは大丈夫かな?」
「午前2時くらいまでなら大丈夫です」
「ふむ、よろしい。ではちょっとそこらの暇人にギルドでも案内してもらうか?」
「え、大丈夫なんですか?」
「大丈夫。大丈夫。ここでたむろっているのは生産も、売り子も、取引もしない、面白いことを探しているばかり奴らだからなんの問題もないよ」
「え~……」
「ちょうどいいのがいた、あいつに頼もうかな」
そういってキツネのオネェさんが見ていたのはさっきのシロクマさん……。
「おこと~? 今、時間あるか?」
「なんだ、なおん? 一応あるぞ。今日は行きつけのお店にイベントなかったし」
「そこのウサギくんにギルドを案内してくれないか?
【もふもふ】の従業員候補だ。ギルマスの都合がつくまでの間頼みたい」
「お、いいね! 喜んでやろうか!」
白い2人がカウンター越しにしゃべり込むとハイタッチして握手してた。
取引成立なのだろうか……。
「さっきぶりー、俺は【おこと】っていうんだ。末永くよろしくな」
「よろしくお願いします。僕は【クリムゾンクラウド】、クリムと呼んでください」
シロクマさん、改め、おことさん。
おことさんは男性? 女性のハスキーな声っぽい……。
もしや女性?
「クリム君は【もふもふ】の従業員になるってことはサモナーなのかな?」
「はい」
「そっか、じゃあ、お客として見に来ることあるかも」
楽しそうな声をしておことさんは歩く。
道々の建物について1つ1つ教えてくれた。
「おことさんはRSO歴が長いのですか?」
「俺はまだ始めて3か月くらいかな。機体が安売りされ始めた頃ね」
「僕は今日始めたばかりなのでよろしくおねがいします」
「初めてでサモナーって……挑戦するねー」
「事前に色々調べてました」
「事前に色々調べたらなおさら選ばないだろうに……」
「初めにジョブを決める時にもNPCにすら止められましたよ」
「運営公認のルナティックモードだよ?」
おことさんはあきれたような声をだした。
「でもテン子さんのお店のおかげで大分改善されたんじゃないんですか?」
「テン子ちゃんは……華があると言えば聞こえがいいけど、かなり変わってるからフォロさんも慎重にかかわっているんだよね」
「人見知りが激しいなんて聞きましたね」
「うーん、話しかければ初対面の人相手でも受け答えを普通にしてるから、人見知りとはちょっと違う気がする」
「そうなんですか?」
「人のことを気にしすぎる性格といえばいいか、警戒心が強いかな?」
「なるほど……」
「なかなか難儀な性格をしているとでも言おうか、難しいところが多いよ」
胸の前でクマの太い腕を組みながらうんうんと頷くおことさんを僕は見ていた。
おことさんが不意に何かに気づいたように表情を変えてスマホを操作するような仕草をした。
「あ、フォロさんの方、準備できたみたいだ。
じゃあ、案内はここまでにして中央館に戻ろうか」