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5、初戦闘……ならず

 衝撃の事実です……。

 まさか解体天子様が幼女じゃないことが確定するなんて。


 いえ、確かに本人はおっさんだって言っていました。

 勝手に僕がリアル幼女キターっ! って思っていただけですから。

 チクセウ。


「他に分からないことはありますか?」

「このヘルプで分からなかった時はどこに尋ねればいいですか?」

「それは端末のメニューからチャットを選択してフレンド欄にあるGMというところにラインしてください。

 既読がつけば対応してくれると思います。

 ただ世界の管理に追われているので、あまり早い対応は期待しないでください。

 進化などの情報は機密ですので既読がついても返信に期待しないでください」

「分かりました。ありがとうございます」

「では良い冒険者生活を」


 ガルボさんはそういうと胸元に拳をおいてお辞儀していた。




 ガルボさんに手を振りその場を後にして、次に向かうのはあの大きなログハウス。

 扉を開けて中に入るとそこにはまたお坊さん。


「こんばんは」


 お坊さんに低い声で呼びかけられた。

 とてもダンディな渋い声。

 将来、こんな感じの声を出したいな、なんて思う。


「こんばんはです」

「冒険者志望かな?」

「です」

「使いたい武器はあるかな?」

「体術をメインに考えているので特には」

「体術か、なら手甲と足甲を渡そうか」

「ありがとうございます」

「じゃ、あとは奥にブースが見えるかな?」

「はい」

「あそこで納得いくまで戦闘したら教えてくれ。

 もし装備が合わないのであれば交換するからいつでも来い」

「わかりました」



 ブース、そこには少なからず人がいた。

 空いているブースを求めて少しぶらつきながら人を見る。


 剣を使って戦う人が多い。

 やはり剣って人気があるんだなぁ。


 力の象徴だったり、刀最強伝説があったり、人気は高いね。

 僕も好きか嫌いかで言えば好きだし。


 だけど刀は繊細過ぎて使うのはすごい技術がいる。


 斬ることに特化しているから、線をずらせば大きな負担がかかりあまり使わないうちに壊れてしまう。

 斬ることに特化しているから、線をずらすことなく斬ることが出来る人の場合他の武器よりも長い期間使い続けることが出来る。

 あまりに繊細で器用さが問われる武器だ。


 とてもじゃないけどそこまで繊細な物を僕には戦闘で使いこなせない。

 受け太刀なんてしたらすぐ壊れる。

 防御性の欠片もない短期戦にしか向かない武器だ。

 重さで切るんじゃなくて、純粋に刃の鋭さで斬るのだ。

 力任せに振ったら壊れてしまう。


 本当に技術のある人が振れば、金属だろうと、ダイヤモンドだろうと斬れるんじゃないだろうか。

 固定した日本刀にマシンガンを当てて弾丸を斬るという動画もあったくらいだ。

 たぶんできるだろうなぁ。


 あ、あったあった。


 空いているブースの中に入るとスマホが鳴った。

 どうやらメールが届いたらしい。


 メールの内容はストーリークエスト、訓練所のスライム討伐をしろとのことだ。


 メールのクエスト受諾のボタンをクリックすると床から透明なゼリーが滲み出てきた。

 初めは小さな水滴のようだった粒が見る間に膨らんでいく。

 最終的には50㎝程の大きさになった。


 あ、くずもちみたい。

 水源餅みたいで透明感がそこまでない。

 ホカリくらいでちょっと白く濁った感じ。


 あんみつかけて、楊枝で切って、少しきな粉をまぶして食べたいなぁ。

 いや、流石にこの量は食べきるの大変。

 ちょっとだけ、ちょっとだけだからね?


 って食べるかっ!


 何1人ノリツッコミしてるんだろ……。

 とりあえず戦おうか。




 まず……、殴ればいいの?


 ……無抵抗なモノを殴るのってちょっと抵抗感じるんだけど……。


 ちょい。


 スライムを指で押してみる。

 見た目に比べ意外と弾力がある。


 なんだか、いやいや〜、と言いたい感じでスライムは身を震わせた。


 ……。


 これ、暴力振るうのすごく抵抗感じるんだけど……。


 両手で持ち上げると、スライムは逃げようともがいている。

 手の中でぷるぷる震える感触が非常にくすぐったい。


 何だろう、この気持ち。


 ……、そうだ! これはまだ人に懐いていない子ネコを抱き上げた時の感覚だっ!


 って、おいっ!


 考えれば考える程、このスライムに暴力を振るうのありえない気分になるんだけど?!


 倒すくらいならお持ち帰りしていいですか?

 撫でまわして可愛がりたいんですけど、ダメですか?


 手の中では暴れ疲れたのか、くたーっ、ってしたスライムの姿。


 はぅわ!? だ……大丈夫かな?! ……あ、ダメっぽい?!

 え、どうすればいいの?!


 受け付けさん! ヘルプ!


 僕はブースから出ると受け付けのカウンターに走った。


「すみません! スライムが、スライムが死にかけなんです!」

「倒せばいいだろう?」

「……倒さなきゃダメですか?」

「……」


 受け付けさんは無言で天井を見上げた。

 そしておもむろに空中をタップする。


「倒さなきゃダメですか……?」

「すまない、今担当の者がくる。少し待ってくれ」


 不意に天井の一部が開く。

 そしてお坊さんが1人降りてきた。


「スライムが死にかけなんです。

 どうにか出来ませんか?」

「あー、えと、君はスライムを助けたいのかい?」

「助けたいです!」

「そ、そっか、お、オーケー、オーケー。

 一応聞くんだけどね、君はこのゲームで戦闘はしたくないのかい?」

「いえ、戦闘は楽しみにしてますよ?

 ただあんなぷるぷる震える可愛いモノ倒せませんっ!」

「あー、なるほど……、了解したっ!」


 お坊さんは空中をタップした。


「これで君のブースにいたスライムは完治したよ」


 お坊さんは朗らかに言った。


「本当ですかっ!」

「あぁ、本当だよ」


 僕はブースに走った。

 先ほどまでの弱々しい姿と違う。

 ジャンプまでしている。


「ありがとうございますっ!」


「あぁすまない、そういうパターンはあまり想定していなかった。

 ……他のプレイヤーは普通に倒していたしなぁ……。

 君は可愛いタイプのモンスターは倒せないのかな?」

「いえ、僕を害することができる攻撃とかしてくるなら、敵と認識できるんですけど」


 僕はあのスライムを見つめて言った。


「あーいう攻撃もしてこないタイプだと、ちょっと気がひけてしまって……」

「ふむふむ、なるほど……」

「子犬が手を噛んでも痛くないし、なんだか可愛いって思いませんか?

 大きな犬、野犬とか噛まれたらどうしようとか、そういう危険を感じるなら別なんですが」

「あー……そういうタイプか」


 お坊さんは少し悩んでいた。

 そして1つ手を叩きこう言った。


「じゃあさ、少し変わっちゃうが、こんな感じの敵なら戦うか?」


 お坊さんは空中をタップした。

 お坊さんの足元に白いポリゴンが集まりやがて色が変わった。

 できたのは悪い目つきをした人形。


「可愛くないですね」

「これ、獲得可能なアチーブメントはさっきのスライムと同じにしてあるから、コイツとなら戦うか?」

「はいっ!」

「よかった。じゃあ、いいゲーム生活を」


「あ! すみません、お坊さんの名前はなんですか?」

「ん? このアバターか? このアバターには名前ないぞ?

 仮のアバターに過ぎないからな」

「あ、では中の人の名前……マナー違反ですね……」

「ん、あぁ、じゃあ、運営の便利屋でいいな。

 コードネーム、便利屋でいいぞ、嬢ちゃん」

「? 僕は男ですよ?」

「は? ……あぁ、ウサギのアバターだと胸が……

 くっ、アレを可愛いって思うくらいだから女の子かと思った……

 ウサギのアバター使う男もいるとは思ってなかったっ!

 可愛い声してんな、ちくしょう」

「……変声期は過ぎたはずなんですが?」

「けっこうボーイッシュなボクっ娘だって思ったんだよっ! 言わせんなっ!」


 ……。僕の声、別に高くないと思うんだ。

 今まで生活しててそういうこと言われたの初めてなんだけど。


「んじゃな、ボウズ」

「あ、はい、ありがとうございました」





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