34、河原へ
ドアから出るとそこは始まりの町だった。
スライムの楽園から出た始まりの町の入り口。
石畳の道、露天で物色する人達。屋根の上を跳び回る人達。
いつ見ても不思議な光景だ。
とりあえず河原に向かおう。
装備をしていても逃げられないなら問題ないんだ。
ソロでも仲間を増やせる。2次職って何レベルで解放だったっけ?
30レベル? 今10レベルか。アチーブメント制だから同じ敵と同じ方法で戦っても経験値は稼げないので、草原での戦いではそんなに伸びなかったか。
遠いなぁ。でも考えないと偏った経験値の取り方が出来ない。
現在の比率だと何に転職できるだろうか? 分からないな。
普通の進化の仕方すらもサモナーはいないから大分ユニーク扱いされそうだが。
血赤が腰にくっつくと僕は宙へと跳ね上がり、屋根の上に乗る。
レンガとコンクリートで作られた屋根を蹴り、南西の方に向かう。
こうやって家々の屋根を跳ねているけど、中に住んでいる人にとってすごい迷惑だろうな。
屋根の材質によってはけっこう中に音が響くと思う。
小屋みたいな体育倉庫に入った時、カラスか何かが屋根の上を跳ねたらけっこう大きな音がした。
この移動で住人に怒られた人とかいないのだろうか?
あー、でも学校の屋上でボール遊びをしている人がいたところで大して下の階に音はしていなかった。
そう考えたらこの移動でも実はあまり音が聞こえていない可能性があるのか。
この屋根はコンクリート製でもあるから耐震性能に優れている可能性がある。
装備や血赤のサポート込みだから前回よりも速く行動できる。
プレイヤーが倒れれば召喚したモンスターも終わりなんだろうな。
あ。デスペナルティもらっているけれどどれくらいステータスが減っているんだろう?
装備抜きのステータスの2割か。装備込みだとステータスの減少が1割にも満たない。
僕のステータス低すぎない? 装備がステータスの半分以上を占めているんだろ。
装備が凄いのか、サモナーが弱すぎるのか。どちらもか。
適正レベルよりも高いレベルの装備な以上、着こなせない、本来の装備のステータスを発揮できていないはずだ。
それでもこのステータスである以上、本来のステータスはどれだけなのか。
そして適正レベルになったとしてもどれだけステータスが伸びているのかを考えると微妙な気分になる。
まぁ、それは分かっていた事だ。サモナーのステータスは低いなんて初めから知っていた。
その上で始めたんだからグチグチ文句を言ってもしょうがない。
このくらいのステータスならカニを倒すのにはたぶん問題ない……と思う。
勢いつけて殴れば倒せる……であってほしい。
カニは素早さは低めなのであまり逃げられる事を考えなくてもいいが、防御力の高さが壁になるとか。
低レベルのハンマー使いや単体攻撃の魔法使いにとっては狩場だけれど、他には微妙であるとか。
草原は索敵範囲外から狙う弓使い、範囲攻撃の魔法使い向き。
河原はハンマー使いや単体攻撃の魔法使い向き。
荒地は視界が通っていてモンスターは少ないけれど、1体1体が強くて、剣士などタイマンに強い人向き。
雑木林は生産職向けなのか、罠を好むモンスターが多く、アクティブは少ない。
適職であれば多少はやれる環境ではある。初期のフィールドだから。
もしくはチームを作って役割分担をすればもう少し楽に戦える。
サモナー? 生産職に交じって雑木林でトラップに引っかかってくれ。
完全に生産だけでやっている人っていないんじゃないだろうか? いやいるかもしれない。
スキルをそれだけに特化させた場合、専用の職業が出る可能性がある以上、チームかギルドでそういう人を育成している可能性があるな。
生産職のアチーブメントは装備作りなら作った種類と質によって獲得できるらしいし、料理なら何人食べたかとかで決まるとか。
戦うのと生産するのどちらがレベル上がるの早いか分からないな。
アチーブメントて2次職が決まる以上、ただレベルを上げるだけではダメなのだけどね。
戦闘重視で行くなら戦闘を頑張った方がいい。特化職はそれに強みがあるのだから。
テン子様はどんな構成なのだろう? わからない。戦闘もしているし、生産もしているし、従業員もしている。
生産を中心にしたエンジョイユーザー枠? プレイ内容がアグレッシブだし、サモナーという段階でとてもユニークだ。
戦闘内容を見る限りサモナー職と種族スキルを上手く使った王道プレイヤーかもしれない。
あー、後追いは道が出来ているから楽だろう。普通なら。
だがこのゲームはプレイングが2次職などを決めていく。
アチーブメント制は出来る事に特化させていくから狙っての後追いが難しい。
狙っている職にたどり着くためのアチーブメントに自分の資質がそぐわなければ成れないのだから。
物思いに耽りつつ走っていけば河原のフィールドの手前だ。
動画では何度か見たもののまだ実地では見ていない。
そしてテン子様が上半身をなくした場所でもある。
そういえばテン子様ってなんだかんだ死んだのここだけなんだよねぇ。
毎度毎度イレギュラーに遭遇しているけれど、ここ以外は切り抜けている。
異常な確率でイレギュラーにぶち当たるのは誰かの作為か。
『やぁ』
……。……。……。テン子様だ! え? なぜ? どうしてここに?
そしてやはりスライムのピュアちゃんに座って移動するのか……。可愛い。
口にしなくても噂をすれば影というのか! なら僕はテン子様の事をいつも考える!
「こんばんは。テン子さんどうしたんですか?」
黒い丸いケモ耳がぴくぴくと動いている。
ただでさえ小さいテン子様がスライムに座っているからさらに小さい。可愛い。
あ、いぬくんがグルグルと喉を鳴らして怒っている。僕の思いが邪だというのか! そうだとも!
『いぬくん、お止め。ちなみに偶然。昔私もここでカニを茹でて売ってたけど、今もやっぱりカニは人気だなって思ったの。私はあそこの茹でガニをおススメする。処理が丁寧。たぶん料理人は腕のいい剣士』
テン子様が指した先には無数のお店があった。テン子様が指しているのはそのうちの1件。
あぁ、リポップしたカニが見る間に狩られていく。料理されている。
そうだ、そういえばカニは料理されるんだった。もはや新人料理人にとってのスポットだったんだ。
「あー、ここじゃカニは狩れないですよねぇ……」
テン子様は首をちょっと捻ると手を叩いた。
今の一瞬で何を考えたのだろう。とりあえず可愛い。
手元を見ずにブラインドタッチで何かを入力しているけどよく予測変換とか対応できるよなぁ。
『カニを狩るのは問題ない。アチーブメントを取れなくて困っている初心者のための救済も兼ねて、向こう側のポップポイントは紳士協定で食材に使われない。この辺り一帯はポップポイントの奪い合いが激しくてプレイヤー間のトラブルが多発したから、ギルドで睨みを利かせて、ポップポイント1個につき時間利用料っていう感じで管理している。罰則はギルドの使用制限っていう感じ』
絶対王政。一党独裁か。どんだけ強い勢力なんだ。規制は入らないのだろうか? 人数制限とか。
人数制限は無意味か。姉妹ギルドみたいな形で提携に提携を重ねれば実質無限だから。それ以前にギルドシステムに拘らずSNSでチームも作れる以上その縛りは無意味か。
それに普通ここまで大きくなったギルドは何かしらが原因で崩れるはず。それが起こらないという時点で驚異だ。
「ありがとうございます! 行ってきます!」
『ちゃお』
黒い毛に包まれた手を振り、テン子様はぴゅあちゃんに乗っかり始まりの町へと入っていった。
僕もテン子様に教えられた場所に向かって歩いた。順番待ちの列が出来ていた。
もうこのフィールドには野生がないよ。




