30、選択の苦悩
ゲームからログアウトして僕はシャワーを浴びた。
なんだかもやもやする。だがあそこで別れないといけなかった。
楽しいから、楽だから、それで一緒に過ごして甘えるばかりになる。
僕の歯車は噛み合っていない。歯車の歯の形が特殊であまり変形させることに慣れていない。
勝手に動こうとしても噛み合わない歯車の歯は削れるばかり。相手の歯を巻き込んで。
相手に合わせられる人でないといけない。もしくは相手が合わせたいと思う人にならないといけない。
「難しいな……」
この人に合わせれば上手くいく、この人と一緒の行動をしたら間違いないだろう。
もしくは嵐のような人でもいいかもしれない。一緒に行動しないといけない、下手に逆らうと大変そう、でも従えばちょっと大変かもしれないがいい思いができるかもしれないと思わせる人。
そんな人になれれば僕の歯車も噛み合うかもしれない。
なれればだが。
人にことなかれ。自分だけで済ませられる事は全部済ませろ。そんな人ではいけないのだろう。
だが迷惑になることを考えると全て自分で済ませてしまいたい。
わざわざ人にモノを頼むのは相応の対価を出さないといけないだろう。
何のメリットもなく、縁故便りに働かせる? 人情奴隷か。腐ってる。
正当な対価もなく行うという事は言い換えれば、ご飯を食わせずに働かせるという事。
お前はゾンビでも使っているのか? 腐った死体を蹴飛ばしてでも動かしているのか?
人を死体に変えたいなら、ゾンビでもできる仕事しか頼まないならそれでいいんだろう。
お前はな。……誰だよ。お前って。
とにかく提示できるメリットがない限り、正当な対価を用意できない限り、仕事を頼みたくはない。
ある程度仲が良くなった人なら、後で払うから、後で何か代わりになるモノ用意するからとか言えるかもしれない。
でもそれはそれだ。普段づきあいの段階までいけた人だから言えたことだ。
自身をブランド化できるくらいの価値をつくらないといけない。
その価値が人にメリットを与えられるくらいのレベルでないといけない。
片一方に寄り掛かるような関係は不健全であり、いつか壊れる関係だ。
お互いが付き合っていたいと思えるだけのメリットを。
付き合っても付き合わなくても別にいいや、ではなく、付き合うために近づく労力を払ってもいいと思えるだけのメリットをもたないといけない。
しょうがなしに付き合われるのは嫌だ。きっと最後には見捨てられるから。
これからどうしようか。
大きな目標は自分の価値を上げる事だ。
その手段として僕は自分がこのRSOという世界でアイドルヒーローになろうとしている。
スライムの血赤がサモナーという職のパワードスーツ機構になるだろう。
仮面ドライバーの変身のようなものだ。
次は何をすればいい? 敵を倒していけばいいのか? いや、鍛冶もしないとだ。
この辺りは予定がどんどん埋まっていくだろう。
熟すべき事は血赤との連携を上手くしていき、より強固なサポートを得られるようにすることだろう。
そして多くの敵と戦い、その力を、サモナーとしての能力を鍛えていく事だろうか。
血赤と草原で狩りをしようかな。
今回はパーティープレイでサモンできるモンスターを増やす事が出来なかった。
血赤以外呼ぶことが出来ないのは問題がある。
強くならなきゃ。
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「おっはよ~!」
「おはよ」
「おうおう。3人で仲良くパーティー戦してたんだってな?」
「連絡のとれないテルが悪い」
「お、言ったな? じゃあ、今日は街に集まれよ? フレンド登録ついでに戦闘しようぜ」
「ごめん、サモナーだから最低でも2枠使わないと戦力になれないし、僕は戦闘はパス」
「あー。じゃあ、2回に分けてパーティー戦しようぜ? それなら枠は大丈夫だろ?」
「まぁ、そうだけど、今回はごめん。鍛冶場に顔を出したり、お店に顔を出してこないとなんだ」
「そっか。悪いな。引き留めて。じゃ、とりあえずフレンド登録だけはしておこうか」
「OK。時間できたら声かけるよ」
「おぅ」
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ちょっと心苦しい。
この別れは別に今生の別れではない。
だが今後、ゲームの中でどれだけ話をする事になるのか。
他愛無い話をする事は少なくなるかもしれない。
一緒の空間を共にすれば自然と会話は生まれる……と思う。
共有できる経験を話し合う事だってあるだろう。
その時、僕は1人で行動している。そしたら? 話についていくことは困難だろう。
だがしょうがない。
僕はサモナーという職業を選びたかった。
話に行きたい人もいた。
それを諦める事は出来なかった。
僕はヒーローになりたい。
僕は誇れる自分になりたい。
僕の選択は正しくないかもしれない。
だが間違っていると否定をする事は誰にもできない!
心を押し殺して人と付き合って何になるのだろう?
無理をすればどこかで何かが壊れていく。
壊れるモノは何だろうか?
今はまだ弱く幼い誇りだろう。
信念なき存在は醜い。醜いとは見にくい。見難いにつながる。
見難い。見たくもない存在に成り下がる。
へこへこして、力に怯え、雑用を押し付けられて、嘲笑われる存在だ。
僕は嫌いだ。そんな存在は大嫌いだ。
いくら力が弱くても、仕事をやり遂げる存在は美しい。
けれど台所の黒い悪魔のように這いずり回り、陰へ陰へと逃げていく存在は醜くててたまらない。
例え汚れ仕事だろうと胸を張って仕事をやり遂げるならカッコよさがある。
それもできない、誇りなきゴミムシなど醜くて醜くて大嫌いだ。
僕は自分を誇りたい。
だから誇れる自分になりたい。
胸を張って生きられる自分でありたい。
もし中途半端でいいやと思う、なぁなぁで物事を済ませていく存在だったら。
僕はそんな自分を誇る事はできないだろう。
楽だからで済ましてしまう事は嫌だ。やり切りたい。
そうだ。だから僕はこの選択でいいのだ。
一時的に疎遠になったとしても堕落した自分を晒すよりはいい。
僕は何も後悔する必要はないのだ。




