2、ゲーム開始
「ただいま〜」
「あら、おかえり紅葉、アレ、よかったわよ」
「え、母さん、もう使ったの!」
「紅葉が学校から帰るまでは母さんの時間」
「むぅ〜、僕が一番に使いたかったのに」
「はいはい、あ、夕飯には出てきなさいよ?」
「はーい」
僕は玄関で靴を脱ぐと居間へと駆けた。
「あ、そうだ。使うならシャワーを浴びてからにしてね?」
「はーい」
居間に入ると開口一番に言われた。
機体の仕様上、裸で使わないといけない。
家族で共有している使う物だからしょうがない。
逸る心を抑え僕は身体を丹念に洗う。
あのギルドマスターのお陰で運営は資金が潤い、今は機体を低価格で販売している。
機体の普及率をあげてさらにゲームの普及率をあげようという狙いがあるとか。
ただそれでも30万を下回らない。
当初は100万円を超えた価格で一般家庭で買うには気がひけるものだったので、それと比べればかなり安いといえるだろう。
けれどやはり非常に高価なものだ。
僕個人の使用機として使うのでは首を縦に振られることはなかった。
日中、僕が高校に行っている間は母さんが使い。
平日、僕が高校帰ってきたら僕が使う。
父さんが休日の時は父さんが使う。
家族で使うなら良いものを、ということで様々な機能がついた最新式の機体が使えるようになったのはよかった。
でも欲を言えば、休日にずっとログインしたりしたかった。
そこは諦めよう。
平日にけっこうな時間、僕は機体を占有出来るのだから。
休日は宿題にあてるしかないかな。
平常点とか下げられたら成績が下がって使わせてもらえなくなる。
普段の勉強? 授業中にノートをまとめれば十分でしょ。
教科書とかにヒントどころか答えが載っているし、左に内容、右に授業中聞いた知識問題用のスペースってしておけば見にくくならない。
テスト前も暗記物復習すればいいだけだし、勉強する量なんて多くない。
覚えにくい物は空白の多い右のページに羅列して注意喚起しておけばいいし。
「夕飯は何時くらいになりそ〜?」
「いつも通り8時よー」
「はーい」
今は4時半。
急いで帰ってもこの時間。
夕飯後もログインして遊ぼう。
3時間の3時間で6時間か。
早く遊ぼう。
時間は限られているんだから。
憧れの人は今、ログインしているだろうか?
さすがにないか。
目撃情報は22時以降から翌日の2時に集中している。
たまに朝とか1日中居ることあるけれど稀。
ゲーム内のギルドのホームページから【もふもふ】従業員募集の枠で申請しないと。
アバターを作ってからじゃないと名前が確定できないから早く作らなきゃ。
僕は濡れた身体をタオルで拭い、機体のある場所に向かう。
機体の使用上、浴室付近に機体は設置されている。
カプセルのような白い機体はプラスチック特有の温かみのある風合をしていた。
カバーの下でぼんやり青く光るところに手をかざす。
青い光は緑の光に変わり、側面の一部がスライドして入れるようになった。
僕は内部へと足を踏み入れる。
柔らかい。
低反発材のような感触。
僕は機体の中に腰を下ろすと足を伸ばした。
内部は白く光を放つかのようだ。
僕が背中を機体の内部に倒すとカバーはスライドしてしまっていった。
まるでドームの幕がしまるかのように見えた。
閉まり切るとカバー表面に画面が浮かぶ。
使用者登録を行うとマッサージコースが示された。
僕はトレーニングコースを選択。
筋肉欲しい。
……高級品の高級品たる所以。
この機能を使えばゲームをしている間、機体が身体を最適な状態へと向けてくれるのだ。
そして家族が買ってくれた理由でもある。
父さんに対して一番ウケが良かった機能である。
カバーがしまり少しすると意識がスッキリしてくる。
……実は酸素カプセルでもある。
こういう機能を使うと、どうしたところで汗をかく。
なので機体から出るとシャワーに行かないといけない。
使用後のカプセルの中では専用の洗剤を混ぜた温水で汗を流し排水する。
手入れとしては最後にタオルで拭いて完了。
いったいこの機体は幾らしたんだろう……。
ただ繋げる物で30万を超えるのに、付加機能の多さからして倍を軽く超えていそう。
僕は機体に付属しているアイマスクをつけると言った。
「ダイブスタート」