28、ボス戦
非常に遅れて申し訳ありません……。
後ついでに後半大分エグイです。
「それは気にしなくていいよ。アタシ達も足りていなかったからね。
それでクリムはどうしたいんだ?」
「僕がアタッカーで、サニーに壁を、スノーにデバフをお願いしたいと思っております」
「そうか、わかった。スノーはそれでいい?」
「うん」
……なぜ敬語になった……。不快にしてしまった後の頼み事だから少し気が引けたのか。
サニーの仲介能力の高さが本当にありがたいな……。
上から目線になるつもりはないのに、自分の専門分野となるとちょっと出しゃばってしまい、不快にさせてしまう……。僕の物事の伝え方が悪い。
対等な目線で、相手の意見を吸収するつもりで、一方的な押し付けにならないようにしないといけない。
言葉にすると簡単そうなのに、実際にやろうとすると難しい。
相手の意見を引き出せる人にならないと話し合いにならない。
「どういった流れで戦っていくつもり?」
サニーが僕に目を向けて先を促していた。
サニーが進行をしてくれて本当に助かるな。
僕がやると角が立ちそうな予感がする。
今後もずっとパーティーを組むかと言われたら難しい部分がある。
サモナーだから。個人的にしたい事がこの世界に多いから。
だからステータスに口を出すには部外者な部分が強いのだろう。
「初めにスノーは印象操作を利用して欲しい。
出来るだけボスを無防備な状態に、リラックスさせた状態にさせたい。
無防備な状態ならボスの近くへと寄りやすいから。
助走をつけさせたら止めるのは難しい。突進の威力が上がるから」
「うん。わかった。で、具体的にはどうしたら?」
「ボスにその辺の草でも美味しそう。今食べなきゃいけない。
そう印象を操作したらいいんじゃないかな?
この使い方は印象操作スキルの使用例としてよくあるからできると思うよ」
「うん、わかった」
「ボスの側までサニーと僕が近づき、僕はここでボスを攻撃する。
その際にボスのヘイトが僕の方に来ると思うから、サニーはスキルを使ってヘイトを稼いで。
スノーもサニーに対してボスの印象を操作してヘイトを稼ぎやすくしてくれるといいな。
サニーはとにかくサニーの方にボスの顔を向けさせて走らせないように抑えつけて。
鼻面を叩いたり、顎を斜め下から殴ると、頭が揺れて真面に立てなくなるから。
その間に僕はボスの側面から攻撃して心臓を狙うよ」
「了解、アタシはクリムが攻撃したら咆哮スキルを使って鼻面に剣の柄をぶつけてひるませるよ」
「うん、お願い」
「私は『草が今美味しいよ』と『吠える人は危険だ』を使うんだね?」
「うん。それで大丈夫」
「それじゃ、FB討伐しにいこっか。今日は勝つ!」
目の前の茶色い地面には半径1mくらいの輪っかが在った。
輪っかの上には『必要な供物は植物』と書かれていた。
サニーが近くの草を投げ込むと輪っかが赤く燃え上がった。
ここの供物ってここら辺の草でもいいみたいだけど、希少性の高い草とか投げたらどうなるんだろ?
後でやるか。今は普通のボスを倒さないといけない。
輪っかにサニー、スノー、僕の順で入ると輪っかが赤い炎を巻き上げて視界を埋めた。
炎が晴れると5m程前に体高1m程度の黒い子牛が草原の中で立っていた。
首筋はけっこう太く、黒い大きな眼は僕たちを見通すようだった。
スノウが手元で端末を操作しているのが横目に見えた。
僕たちは腰を屈めて茂みの中に潜み、ゆっくりと子牛に近寄っていく。
息を殺して、気づかれないように、僕は側面へ、サニーは正面へと。
子牛はしばらくぼぅっとしていたが、やがて憑りつかれたかのように辺りの植物を食べ始めた。
それはもう一心不乱に。食べること以外に頭には何も思い浮かばないとばかりに。
草食動物は警戒心が強く、食べている時でも辺りを窺うように眼をきょろきょろとさせているものだ。
ただし野生動物に限る。飼育されて安心している動物はそこまでの警戒心はない。
僕は側まで行くと屈んだ状態で右足に力を込めた。
目標は無防備なわき腹。子牛とはいえ牛。実際に見ると直径が腕1本分はありそうだ。
今回の攻撃では肋骨を折るだけ。深入りはしないっ!
殴りつけた感触はゴムだった。車のタイヤとかそういう大きなゴムだ。
ゴムというのは正確じゃないが、肉の厚みに衝撃を吸収される感触は近いモノがあると思う。
筋肉が少ないと思った側面だったが分厚いゴムの感触。5cmはないだろうけれど分厚い。
手甲で表面を切り裂けたが骨を折る事は出来なかったと思う。
サニーが吠えた。鼻面を殴り流血を起こさせた。
だがボスのひるむ様子は見えない。想定を甘くし過ぎていた。そんな簡単にひるむような奴じゃない。
通過点のボスとはいえ、最初の障害となる越えやすいはずのボスとはいえ、それでもボスなのだ。
推奨レベルのパーティーが5分程度かかる理由。
ボスは牛なのだ。スタミナが低いわけがない。
耐久力も高くて当然だ。何がソロ出来るかもだ。このゲームを舐め過ぎだ。
このままだとサニーがボスに轢かれる。
どこを狙えばいい? 走らせたくない。
足だ。足を狙え。膝の皿は硬いから内側の筋を斬るように。
左腕を下から上へ引っ掻く様に振るい、筋を斬るつもりで、骨にぶつけないようにかすらせた。
ボスの短い黒い毛に覆われた足に4本の赤い線が走った。
浅い。皮しか切れていない。骨に引っかからないように意識し過ぎた。
金色に煌めくサニーが剣を握った拳でボスの顎をかちあげていた。
頭を低くし突進の体勢に移ろうとしていたボスの頭は大きく揺れた。
モノを握ると拳が硬くなるうえ、剣の質量を加えた分、普通に殴るよりも威力が大きい。
サニーは自分の仕事を全うしているのだ。
それなのに僕が自分の役割を果たせなくてどうする?
手甲の鉤爪を引っ掻けて膝裏を斬りつけながら後退する。近すぎると十分な威力を出せないから。
見れば初めに攻撃した場所から赤い血が滴り落ちていた。
傷をつけることは出来ている。もっと筋肉を切り裂いて腕を突っ込みやすくすればいい。
1度で無理なら2度、2度で無理なら3度。効果が見えているなら後はやるだけだ。
鉤爪を引っ掻けながらお腹の下を潜り抜けた。
太い血管がないところだからあまり流血は激しくない。
黒い毛皮に4本の赤い線が刻まれた。
ボスが痛みに悶え、思ったよりも低くない声で吠えた。
けれどその横っ面をサニーは咆哮と共に拳で殴りつけた。
本物のライオンのように雷の轟音のような咆哮はボスをも怯懦させた。
サニーの金色の毛並みが光に照らされ輝く。
その後ろを見れば銀色に輝くスノーがスキルを使っていた。
ヘイト上昇の印象操作をかけているのだろうか。スノーも自分の仕事をしている。
後は僕がボスを倒すだけだ。役割を熟しきれていないのは僕だけだ。
縦に切り刻んで出来た傷口を見据えた。
僕はここに腕を突き込み内臓を、特に心臓を壊さないといけない。
この一撃を最後の一撃にするつもりで叩き込む。
「血赤。頼んだよ」
僕の背中で血赤がぴくんと揺れた。
背中を包む感触が熱くなる。
先程までよりも深く、より強く感じた。
地面をしっかりと踏みしめた。腰を落とす。左手前に右手後ろ。背骨を軸にした回転。足の力を右拳に乗せる。体を1本の矢の如く。
左手を引く。反動で前に出る右腕に力を込める。曲げていた脚を伸ばし加速。目標は傷口だ。
ゴムに一瞬遮られそうになったが突き抜けて柔らかい内部へと腕を入れた。
ボスの体の中は熱かった。入った瞬間鉤爪で何かを切り裂いた。
ボスは口から血を滴らせていた。傷つけた部位は心臓じゃないな。肺か胃だ。
腕を突っ込んだままかき回すように動かすとどくどくと速い鼓動を感じたので手を近づけた。
見つけた。これがボスの心臓だ。
鉤爪を使い、大動脈や肺動脈などの大きな血管を切り裂き引きずりだした。
ボスは最後にうめき声をあげると横倒しになった。
そして端末からアラームがなった。




