27、印象操作についてと
「スノーは幻術スキルは覚えてる?」
「あまり使ってないけど覚えているよ」
「キツネはモンスターの認識を操作する幻術に長けている種族なんだ。
だからこれからはかく乱してほしい。MP的にもその方が圧倒的に消耗率が低いから。
合っていない魔法を使えば休まないといけない時間が増えるよ」
「むぅぅ」
ふくれっ面された。ハデな魔法を使いたいっていう気持ちがあるのだろう。
わかってる。だって魔法を使って倒しているって言っていた時顔がすごくほころんでいたから。
「キツネの悪女ってかっこいいって思わない?」
「悪女?」
スノーの頭がこてんっと傾いだ。
ふくれっ面が一転。ちょっと興味を持ってくれたようだ。
「そうそう。モンスターを騙していいように転がしていく悪女様。
味方になればこれほど心強い仲間はいないよ?
モンスターが同士討ちを始めたらそれだけでどれほど戦闘が楽になるだろうか!
ただ敵の手数が減るだけじゃないんだよ?
守りに入らないといけない場面が減って、受けるダメージが減って、与えないといけないダメージが減って、悪女様がいるだけで戦闘時間がどれだけ短くなることだろうか!
下手な魔法使いじゃ一瞬ハデに決めてお終い。
低い威力の魔法だと花火みたいにきれいだね、で終わってしまう。
でも悪女様は戦闘を舞台に変えるんだよ。
悪女様を中心とした特別な舞台にね」
「う~ん……でもそれじゃ私はモンスター倒せないよ」
「印象操作……あぁ、モンスターの認識を操作する幻術なんだけどさ。
猛毒をケーキだと認識させることができるスキルとも言えるんだよ?
別に毒じゃなくてもいい。砂が美味しいとでも認識させたら? 食べないといけない。今食べないとダメだ。なんて認識させたらね?満腹になるまで延々と食べ続けるんだよ。
砂を満腹まで食べたら動けなくなるでしょ?そしたらもう止めをさすだけでお終いなんだ。
モンスター倒せるでしょ?」
「……えぐ」
もちろんデメリットはある。
1度に単体にしか使うことはできないし、ダメージを受けると正気に戻ることがある。
印象操作はスマホに「砂は美味しい」など文章を打ち込むことで効果を発生させる。
この文章は毎回打ち込まないといけないし、印象操作の熟練度によって打ち込める文字数が変わる。
補正なしの熟練度最低だと10文字しか書き込むことができない。
またレベルが低い場合ダメージを受けて正気に戻る確率は100%に近い有様。
そのうえ、モンスターのINTによって、印象操作の成功率が変わる。
印象操作の熟練度が低いうちは補正なしだと余程INTの低いモンスターじゃないと成功しない。
だが使えれば強い。
モンスター相手であれば少し躊躇させたり、ましてやモンスター同士争わせることが出来れば上出来。
さらに砂を食べさせたりして、直接的なダメージを与えるわけでもない行動をさせればしばらく正気を取り戻さないし、行動不能へ追い込むことも可能だ。
ただこれはシステム的なスキルでAI相手には通用しても、プレイヤー相手には通用しないという欠点があるため、コロシアムでのPvPなどには使えない。
まぁ、PvPができるのはコロシアムや特設ステージのみで、通常ステージではPKをすることが出来ない仕組みなので問題ないだろう。
「う~ん……」
「悪女は悪女でもモンスターにとっての悪女だから、スノーは僕にとって可愛い子のままだよ」
「な! 何を言っているのかな!?」
「事実だよ? どうかしたの?」
スノーはその白い頬を赤らめて恥ずかしがっている。
心なしかケモミミもしゅんっとへたれて、白い尻尾がぶんぶん振られている。
身長差で自然と上目遣いになり恥ずかしがっている姿ってすごく萌える!
「クリム~? 女の子をあんまりからかっちゃダメだぞ?
いくらスノーが可愛くてもそれを口に出していいのは彼氏だけだ」
「あぁ、そうだね。彼氏以外に言われたら反応に困るよね。ごめんごめん」
サニーからお叱りの言葉が来た。
つい本心がこぼれ出てしまった。
容姿や行動に対して可愛いと形容している軽いモノ。
思い出などを絡めたうえで特定の人や愛犬などに対して、好意を抱いて愛情を感じて可愛いと感じる重いモノ。
今回使ってしまった可愛いは後者であり、簡単に言葉を返せるような軽いモノじゃなかったからお叱りが来てしまった。
後者の可愛いは彼女相手以外には軽々しく使ってはいけない。
言葉が軽くなっちゃうからね。
誰にでも好き好きと言ってると本当に好きな人に好きって言った時信じてもらえなくなるようなもの。
「それでクリムはスノーに幻術スキルを使ってほしいって話だけど、他にも何かあるのかい?」
「大きな要件はそれだけなんだけど、子牛狩りの際の立ち回りについて細かく詰めておきたいなって思っているんだ」
「実際に戦ってみなければわからないけれど、このメンバーなら苦労しないと思うな?」
「苦労しないけれど、役割分担の問題によっては誰かがアチーブメントに寄生がついてしまうかもしれないのが怖いんだ」
「うん?」
「2人はもう子牛と戦ったのかな?」
「ここのフィールドを端から端まで歩けるようになった時に1度だけあるね」
「負けちゃったけど……私の氷があんまり効かなくて」
「うん、狐人種は獣人種の中ではそこそこ魔法が使える方だけど専門は幻術スキル。
幻術スキルの中でも印象操作に特化している種族だからね。
普人種や妖精種に比べて獣人種の魔法スキルそのものの適正は低いからしょうがないよ。
その分専門分野が強力だからバランスが取れている種族だよ」
「ぶぅぅぅっ!」
「氷に関してはサブウェポンにしたり、雑魚狩りに使ったりっていう用途があるから無駄じゃないよ」
「ふんっ」
完全に怒らせちゃったかな?
言葉を費やせば費やすほど機嫌を損ねてる気が……。
でも今変えてもらわないと後々使いにくいキャラクターになってしまうし、言わないといけなかったと思うんだよね……。
サニーの方を見てみれば静観していた。
ちょっと困ったなと言わんばかりの顔。
たぶんサニーは考えている。
スキル構成を変えないといけないことはわかっているからスノーの肩を持つわけにいかないし、かといって僕の意見を肯定してしまえばスノーが本格的に機嫌を損ねてしまう。
今、一瞬の抵抗を感じているだけだからしばらくしたら受け入れてくれるだろうという時間が解決してくれる案件だろうとも考えているかもしれない。
そして問題は僕が再びソロで活動し始めた時のこと。
その時はまたスノーに火力をやってもらわないといけなくなる。
2人としては僕とテルが一緒にパーティーを組んで戦ってくれると考えていたのかもしれない。
パーティー推奨ゲームである以上、1人でやっていくのは辛いし、見知らぬ人と組むのは少し躊躇してしまう部分があるから、知り合い達で固まってパーティーを組むことになるんじゃないか?という希望的観測をどこか持ちながら職業など選択していたのかもしれない。
ただ僕とテルは2人してサモナーや忍者といった癖のある職業を選んでしまった。
何も話し合っていなかったのだからしょうがない、2人のやりたいことがあったんだからしょうがない、何も相談しなかった自分たちが文句を言える筋合いはないとか考えているかもしれない。
言いたいことはたくさんあるけれど、それは自分たちの都合。
だから文句を言えないし、言うつもりもない。
ただしたかった構成と出来なかった事情を踏まえてみると……。
うん。口にした僕が悪かった。
これは気安く踏み込むと火傷する案件だった。
もう少し考えてから……。
いや、どちらにしろボス戦で露呈した問題か。
何か起きてから口にしたんじゃ行動は遅いな。
「ごめんね。色々とRSOの事、事前に話し合えていたらもう少し出来ることがあったよね」




