表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/37

21、ディベート「RSOになりきりは必要か」

「ジャッジをおばさんがとってくれることに決まったし、ディベートしてみないか?」


 テルはしょうがないなぁっていう表情で、サキは楽しそうに笑いながら、ナカは……嬉しいのか困ったのかはたまたどうでもいいのかよくわからない表情をしていた。


「議題はなんだっけ?」


 テルが僕に普通に覚えているだろうが聞いてきた。確認だとかいろいろな含みが入った問いかけだ。

 演技派め……。


「RSOになりきりは必要かだ」

「それは必要だろう」

「テル、肯定側にいこうか」

「お、おう?」


 即肯定。否定的な意見は思いつかないだろうから肯定側に立ってもらうしかない。


「まぁ、とりあえずだ。ディベートの流れを確認しようか。

 肯定案を受けて否定側からの質疑応答を受けて立案。

 否定案を受けて肯定側から質疑応答を行う。

 肯定側がそれに対し反駁、否定側がさらに反駁を行う。

 ジャッジが肯定否定でどちらの言い分がもっともらしいかを考えて答えを出す」

「反駁ってなんだっけ?」

「反論とか言い返すとかでもいいかな?

 話している時は割り込み禁止だよ。

 質疑応答の時間はとるから立論の間はメモをとったり言いたい事をまとめるのがいいかな」

「議長っ!アタシ否定ではないしわけるとしたらほとんど肯定派なんですがっ!」

「サキはとりあえず否定側まわっといて!

 肯定側の立論の穴をつく感じで考えていけば上手いこと立論できると思う」

「議長っ!手本になってくださいっ!アタシは肯定側まわります。ナカ、否定側よろしくね?」

「サキ!?」

「!?」


 予定ではサキはナカと一緒に否定側に立ってもらうつもりだったのに……。

 人間関係の折衝能力でテルとサキには勝てないかもしれない。


 親指をあげてナカに向かってウィンクするサキとなにやら指折りで数えているテルの姿が大きく見えた。


「ナカ……僕と一緒に否定側で戦ってくれるか?」

「え?……いいよ?別に」

「ありがと」


 なぜだかそっぽを向いてちょっと頬が赤いナカは返事していた。

 もしナカが僕のことを好きでも僕の方がナカに見合うだけの力を手に入れていない。

 だから今のままじゃ好きになっても不幸になる。

 実績というよりも人間力が足りていないことが分かっているから。

 幻想を見て付き合っても現実を見たら覚めてしまう。

 だから破局する。現状それが目に見えてる。

 現実を見ても好きでいられるくらいに人間力がないと泡のような儚い恋になる。


 そんな悲しいもんはいらない。


「準備はいい?それじゃディベート開始っ!」


 おばさんが微笑みながらそういうとテルは不敵な笑みを浮かべた。




「肯定側立論。代表者はテル。それでは立論を始めてください」


 おばさんがサッと手を向けるとテルは起立し朗々と声を紡いだ。


「今回のテーマはRSOになりきりが必要かだ。

 俺は必要だと思う。これは実体験込みでの話だ。

 俺が目指している職業を覚えているだろうか?

 ……忍者だ。

 この職業は普通に戦闘をしていたのではなることはできない。

 隠れて罠にかけ倒していく。敵に見つからないように倒していく。

 忍者になりきなければ見つかることがなかった職業だ。

 つまりだ。なりきりプレイを行うことはレア職に就くためには必要不可欠。

 そして職業の強さはその職業がどれだけ条件をクリアすることが困難なのかによってステータスの上昇率が変わるため強い職業に就くためにはなりきりプレイは必須だと思う」


 テルは自信に満ちた口調で言いきり口を閉ざし着席した。

 その顔には不敵な笑みを浮かべており勝ちを確信しているかのようだった。


「それでは否定側質疑。代表者はアカ。開始してください」

「ではテルの立論の中でもでていたが条件をクリアすればレア職に就くことが出来る。

 忍者であれば敵に見つからないように倒していくことだ。

 ここになりきる必要はあるのか?」


「肯定側応答をお願いします。代表者はテル」

「もちろん条件がそれだけならクリアするためになりきりは必要ないはずだ。

 しかしそれだけなら弓などの遠距離攻撃手段を用いて知覚範囲外から攻撃し倒しても問題ないはずだが、実際問題それで忍者に成れたという情報を俺は得たことがない。

 知覚範囲外からとか弓を使ってはいけないなどの縛りはないようだが、ただ遠距離から攻撃したりするだけでは忍者のクラスチェンジ条件を満たすことはないことは確かだ」

「それでは否定側、立論の準備がよければ声をかけてください」


 僕の質問をテルは予期していたのだろう。

 テルはその自信に満ちた表情を変えることなくスラスラと答えを返した。

 ……僕自身、なりきりプレイ肯定派だから、あの程度の揚げ足取りの返し方などいくらでも思いつく。

 ナカの方を見ると質疑応答の中身と自分の考えをまとめているようで紙に色々書き込んでいるようだった。

 メモを覗き込んでみると既に話す内容も順序も決まっているようだった。


「ごめん、あまりいい質問できなくて」

「いいよ、大丈夫」


 ナカはメモから目を離さずに言葉を返した。

 言うことを頭の中でまとめているから集中しているのだろう。

 僕はその姿を静かに見つめることしかできなかった。


「準備できました」

「それでは否定側立論をお願いします。代表者はナカ。開始してください」


 微笑ましそうに目を細めていたおばさんは張りのあるよく通る声で言った。

 ナカは1度深呼吸をするとしっかりと言葉を紡ぎ始めた。


「否定側はなりきりを行う必要がないと立論します。

 なぜならクリア条件が分かればレア職になることは比較的容易です。

 なりきりプレイを行う一環で条件をクリアできるだけであり、なりきりプレイをしなければならない理由にはつながりません。

 また忍者になる条件を突き止めることが出来ていない現在なりきりプレイは有用でしょうが、将来的に必要ではなくなるものでしょう。

 同様に他の職業でもクリア条件がわかればなりきりプレイを行う必要がなく趣味でしかないです」


 ナカはメモに書いた物を時折見ながら坦々と語りきり前を向いた。


「肯定側質疑。代表者、サキ」

「現状なりきりプレイを行わないメリットはあると思いますか?」

「否定側応答。代表者、ナカ」

「現状は黒歴史回避しかないです」

「それでは両陣営反駁の準備ができたら教えてください」


 サキはいたずらっぽく笑いながら言うと、ナカはしれっとそう返し口を閉ざした。

 おばさんはナカの返しがツボにはまったのか笑いをこらえるためか口に手をやっていた。

 サキは隠さず笑いテルの録っていたメモに目をやり、テルと少し話すと書き加えていた。


 僕がメモした内容をナカに見せるとナカは言った。


「これはちょっと勝てないと思う」

「否定側に不利なお題だったかな……」


 僕が苦笑いしながら言うとナカはそっぽ向いてしまった。


「……なりきりプレイは必要なんだね」


 僕がメモを見ながら言うことをまとめていると不意にナカがつぶやいた。


「強いレア職を目指すならね」

「アカは何かになりきってプレイしているの?」

「……ヒーローかな」

「ヒーロー?」

「ちょっと憧れない?」

「そうだね?」

「まぁ、まだヒーローには程遠いからなりきりは難しいけどね」

「そっか、応援してるね?」


 何だろう。ナカの目に生温かい感情が混じっている気がする。

 とりあえずヒーローになるとしても力がなければいけない。

 力なき正義はただの痛い人に過ぎないから。


「準備できましたっ!」

「僕も準備できました」

「はい。両陣営確認しました。それでは肯定側反駁。代表者、サキ」


 にひひと笑いながらサキが挙手するのに合わせて僕も準備を終えたことを伝えた。


「今回、なりきりプレイについて考えてみましたが、レア職にクラスチェンジをする最適な行動をとる際様々な条件付けをしていくことに結果としてなります。その行動は結果的になりきりプレイと同じこと。それをした結果その方法に特化したレア職がクラスチェンジの際に発現するのですから。

 また今後レア職になる時先へ進む程、試行回数を稼げなくなるためそのクリア条件が判明することはほとんど考えられません。

 ですのでなりきりプレイとして考えてこの職業の人ならどういう風にやっていくのかを考えながらやっていくのがレア職への近道でありより強くなる方法だと肯定側は結論づけます」


 サキは明るい声で自信満々に言い切り着席した。


「それでは否定側反駁。代表者、アカ」

「厳密に必要か必要ではないかを考えればなりきりプレイは必要ではないのは確かだ。

 行動によってクリアする条件が変わるレアクラスチェンジは条件がわからないことには難しいが、大よその検討はつくことだろう。なりきりプレイが必要なのはデータのない初期だけだ。

 否定側はなりきりプレイはいずれ必要なくなると結論づけます」


 おばさんは一頻りうんうんと頷くと口を開いた。


「肯定側はなりきりプレイの有用性と将来性を伝えてくれました。

 それに対し否定側は今後なりきりプレイが必要ではなくなるかもしれないと言葉を濁すことが精々。

 否定側の意見に対し肯定側は将来性や結果的になりきリプレイになる可能性を示唆することで対応してくれましたが、肯定側の立論を否定側は否定しきることができませんでした。

 よって今回のディベートは肯定側の勝利とします」


 負けることは分かっていた。今回はしょうがない。

 むしろ負けて正解だったともいえる。

 今回、このディベートで僕は強くなるための方法としてなりきりプレイをする必要があると伝えたかったから。

 互いに検証しメリットデメリットを出し合い話し合う。

 そうすることで明確な指針を建てるきっかけになるから。

 ただこうしようというだけでは「へぇ~、そう」でお終いだ。

 それでは進歩がない。変わらない。強くならない。


 僕は強くなりたい。

 けれど1人で強くなることは望んでいない。

 友達も同じように強くなっていてほしい。

 それは僕があまり人と仲良くなることが得意じゃないから。

 僕よりも強い人は視野を広げれば多くいることだろう。

 けれどその人たちと仲良くできるのか。それはわからない。

 なれない確率の方が高いだろう。

 元から話ができる人が同じように強くなっていってくれるならそれに越したことはない。

 そしたら孤独になることを考えないでいることができるから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ