18、勉強会
「うっしゃ。授業終わった~っ!」
「終わったね~」
「さて……今日は家に帰ってもRSOはできないし予定通り勉強会だな」
「ですね」
「わかっちゃいたけどなぁ……」
「やることはせいぜい今週の復習くらいだからそうたいしたもんじゃない」
「それはそうなんだけどさ」
「終わったらRSOについてちょっと話し合おうぜ?」
「へ~い」
「あんな? テル? 点数を落としたらお前RSOできなくなるぞ?」
「わーてるわーてる」
「どこで勉強会する?」
「私のところいいよ?」
「ナカ? いいの?」
「大丈夫っ!」
ナカの家はマンションである。高級という冠詞がつくことは間違いないだろう。
1フロアの四半分を各家庭で保有しているとても広い30階建てのマンションだ。
ナカの家はそのマンションの25階。非常に見晴らしのいいベランダがある。空が青いな。
「ただいま~。母さん。友達呼んだ」
ナカがぶっきらぼうに声を張り上げるとナカの母さんが部屋の向こうからひょっこりと出てきた。
ナカとよく似た容姿。ただナカには険があるけれどおばさんにはそれがない。少し赤毛の上品できれいなおばさんである。ナカも歳をとったらこういう風なおばさんになるのだろうか?
ナカの母さんだからおばさんといっているけれど事前情報なく見ていたらお姉さんと呼んでいたかもしれない。
「あらあらまぁまぁ。サキちゃん、いらっしゃい。テル君もアカ君もいらっしゃい」
「おばちゃん、こんにちわ!」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔させていただきます」
「ちゃんと勉強するのよ~」
「「「「はい」」」」
授業で分からないところなどはその場で解決しているので基本的に問題はない。
ではこの勉強会で何をするのか。
ノート交換である。
僕たちはノートをとる時自分たちにとって理解しやすいようにまとめておく。
これによっておこること。
同じ授業を聞いても書かれているノートはまるで違う。
ここでノートを交換することで起きるのは自分とは違う思考でまとめられたノートを比較することで再度知識を整理することができる。
そのうえで再度ノートを作ると知識の定着率が大分違う。
テルだったらこういう風にまとめていた、サキだったらこういう風に考えていた、ナカだったらこういう風にするだろう。
そういったエピソード記憶もまた知識の定着に役立つ。
勉強会。それは黙々と行われるのである。
週に2回、土日に行えば1週間分くらい容易に終わる。
むしろ1日2、3時間程度やればお終いだ。残りは遊び時間にあてられる。
中途半端にぐーたら過ごして遊ぶに遊べない環境を作るより、ぱちっと勉強は勉強、遊びは遊びとしていた方が気持ちとして非常に楽だ。
勉強が終わらせていない後ろめたい気持ちを持ちながら遊ぶのは背徳感で少し楽しく思えたがただの妙な興奮に過ぎずやり終えた後の虚脱感は後味が悪かった。
大っぴらに人を巻き込んで遊んだほうがよほど楽しい。
勉強は大切だが遊びもまた重要。
遊びは自分が何に興味をもって何をしたいか何ができるかを見つける場だから。
遊びを忘れれば能力があっても創造性や想像性に欠ける。
勉強を怠れば創造性や想像性に富んでも能力に欠ける。
どちらが欠けてもまともにならない。
(皆まだ終わってないな)
1人先に終えてしまった。ぼーっと待っているのも何なので軽く問題集でも作っておくか。
混乱しそうな人名地名固有名詞。
それぞれどういうものなのか、確認用ノート。
ノートの左側に1言。右側に詳細。
ただそれだけ。
1言。ノートを惜しむことなかれ。
見えにくくなれば復習しにくく勉強しにくい。
ノートを書くときは誰かに説明すると思って途中の思考も書いておくこと。
なぜこう考えたのかがわかれば見返したときに迷うことは少ない。
テスト前にサラッと確認する用のノートも作っておいて損はない。
理解するための思考をかかずに要点だけ書いたノート。
これがあればテスト前の10分に見て復習することが容易だ。
授業用ノート。授業の内容をまとめるノート。
復習用ノート。ノート交換などして整理されたノート。
要点チェック用ノート。テスト前に見ておく要点抜粋したノート。
そして今作っている単語、熟語、仕組みなどのチェック用ノート。
各教科最低4冊ずつ。
数学に関しては計算用ノートとかあるし、他の教科でも宿題用、ワーク用などもある。
勉強に隙はつくらない。遊びたいからな。
「終わったーっ!」
「お疲れ」
「今日のところはここまでにしようかな」
「疲れたーっ……」
ナカが席を立ち自分のノートをおばさんに見せるとおばさんは微笑んだ。
「はい、お疲れ様っ! 今日は蒸しパン用意したから食べていきなさいな」
「「「「ありがとうございます」」」」
家で勉強会開くメリット。
おばさん達が勉強が終わった後お菓子を用意してくれるのである。
喫茶店で食べると小遣いのやりくりが厳しくなるし、知らない人が近くをウロウロしていると落ち着かない。まして勉強会などしたらところによっては店員さんの視線が痛い。
サキには小さい妹がいるから家だと騒がしくなりやすいなどあるがそれはそれ。
余程変な人がいる場所でなければ家の中でする分には知らない人が来る可能性は低い。
大分落ち着いて集中できる。
「なぁなぁ、アカはサモナーやってるけどこの後どうするんだ?」
「僕は鍛治をかじりつつテン子様のところでウェイターやりながら極めていくつもり」
「鍛治?」
「生産スキルがあると解体直前の状態でインベントリに格納できるんだ。
それと上手くいけばサモナーは全職で最もパラメータを高めることができるかもしれない」
「ほう?」
「僕ばかり話させるんじゃなくてテルも話せよ?」
「いや、朝話したことがほとんどなんだよなぁ」
「じゃあ今後どうするんだ?」
「とりあえず戦闘ができるようになってからが焦点だ」
テルがぷいっとそっぽ向いた。すねおったな。
「ねぇねぇ? 2人ともあたし達のこと忘れてない?」
「うんうん」
サキとナカが僕たちの方を見ていた。サキはいたずらっぽく。ナカはコクコクと頷きながら。
「草原は安定しているんだよね?」
「そうだよっ! 今はレベル上げしているかな」
「ボスを倒すには火力が足りない」
「そうなんだよねー。魔法って仕組みが面白いんだ」
「調べてみたら魔法は貫通ダメージと物理ダメージに分かれて初期の魔法は物理ダメージの方が大きい」
「弾丸ぶつけたり爆風ぶつけたり現象として起こる部分が物理ダメージ」
「で草原のボスは牛。物理ダメージには草原のモンスターよりも強いんだ。体の大きさがそのまま物理防御力につながってるみたい」
「だからちょっとレベル上げと新しい装備がないと厳しいかも」
「そういうわけで安定しているけど」
「まだ先には行けない」
何か含んだ目をしてる。何だろう? 今サキとナカが欲しいのは火力?
「あ~。ごめん。まだ火力に僕はなれない」
「俺もだ。ごめんな」
なんだろう。ちょっと悲しい。いや、大丈夫だ。将来的には十分な火力が期待できるんだからっ!
「うん、わかってた」
「うん」
「ただ出来たら一緒にパーティを組んで動きたいな?」
サモンモンスターをパーティに組み込まずに運用する。
一応できる。サモンモンスターにアチーブメントが入らないっていう問題はこの際気にしなくてもいい。
ただパーティの恩恵を受けられないから要所要所で問題が起きる。支援魔法の対象にできないとか。
そこに目をつむれば問題はないか。
「ある程度育成ができてからじゃないとちょっとムリなんだ。
だからパーティを組むのはもう少し時間いるんだ。ごめん」
「俺も忍者目指しているからしばらくソロで動かないとアチーブメントを調整できないんだ。ごめん」
「つれないなぁ。しょうがない。2人とも待っているんだから早く追いついてよ?」