16、朝の時間
テン子様曰く
『今来ているお客様はボスの紹介で来てくれているお客様です。
お客様はボスが紹介してくれたから来てくれています。
妙な人ではありませんので安心してカウンターをしていてください。
ただ失礼な真似をすればボスの顔に傷がつきます』
『失礼な真似、絶対しないでくださいね』
実際変な人はおらずむしろ上品な人が多かった。
そのためか、慣れない作業でもたつく僕のことを優しい目で見て急がせない人が多く助かった。
僕がカウンターでの作業を一通りできるようになり自然に動くことができるようになった。
『次回はいつログインできますか?』
「そうですね、土曜日、日曜日は機体を親が使うためログインできそうにありません。
なので次は月曜日です。月曜日の17時頃だと思います」
『そうですか。それではDMの方を使ってお知らせすると思いますが、上手くいけば次のログインの時は鍜治場に紹介できると思います』
「わかりました。あ、あのDMを送るために……」
『フレンド登録ですね。しましょうか』
「はい!」
クリムはテン子様とフレンド登録をした!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ゲームからログアウトし軽くシャワーを浴びると布団に入って眠った。
軽い虚脱感がある。
何か食べてから眠ろうかな?
時刻を見ると午前0時。
今食べると太りそうだな。
レスラー体形になるつもりはない。
機体の機能を考えると今まで運動していたのと同じ効果が出ているのかもしれない。
エネルギーの消費量が凄いのかな?
とりあえず飲み物……麦茶でいいか。
麦茶を飲むと頭がスッキリした。
運動した後は水分。水分は重要だ。
体に溜まった熱が冷めていく。
この感覚がなんか好きだ。
鏡の中にいるさめた顔したいつもの僕は歯を磨くと思った。
今日の僕の思考、すごくどうかしてた。
どんだけ興奮しているんだ。
テン子様好きすぎるだろ。
思考のログを追ったらきっと8割以上テン子様のことしか考えていないんじゃないか?
まぁ、テン子様はテン子様なのである。
テン子様は至高なのだ。問題ない。
……それにしてもフレンドか。
……フレンドか。
フレンドか。
フレンド。
テン子様とフレンド。
なんだ、この幸せな響きはっ!
ベットに倒れこみ思い切りゴロゴロ転がりまくってしまう。
どんだけ僕はテン子様が好きなんだっ!
テン子様とフレンド。
フレンドになったから何しようか?
えっとしてもいいのかな?
ダメかな?
うん、ダメだな。
だってこんなテンションの人が来たら絶対ひかれる。
まず僕だったらひく。付き合いを減らすと思う。
とりあえず今の変なテンションは早く壊せ。
とりあえず麦茶っ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
土曜日。
朝起きると時刻を確認する。午前6時。
寝癖を解かすために朝シャンすると鏡を見て確認。
恥ずかしいところはない。ワックスなどはつけない。べたべたするの嫌いだし。
せっかく朝シャンして気持ちよくなったんだから嫌いなものをつける気はない。
軽くストレッチをして体を伸ばしていく。
柔らかい体はケガをしにくいのでやっといて損はない。
将来肩こりなどしたくないからね。
キッチンに向かい朝ご飯の準備をする。
母さんと父さんは土日の朝が遅い。夜にいろいろしてるから。
仲良いことはよいことで。
お釜の保温ボタンのところにランプが点灯していた。
今日はご飯の日か。
じゃあ、味噌汁と何作ろうかな?
卵焼き? 出汁巻き卵にしようかな?
巻くのがすごく難しいんだよなぁ……。
出汁代わりに味噌使うか。常温の卵に味噌溶かすのちょっと時間かかるかな?
まぁ、味噌汁を仕立てている間になじませればいいか。
これだけだと物足りないから付け合わせを用意するとすると……水菜でいいかな。
まだ物足りない気がする。何かいいのないかな?
塩気は味噌汁、メインは出汁巻き卵、付け合わせは水菜、それに白ご飯。
肉や魚の代わりは卵があるし十分だと思う。
歯ごたえのある物があるといいな。
煮干しでも出しとこうか。手抜き過ぎるな。
何か歯ごたえが良くて朝食べたいのあるかな?
漬物だと塩気が多くなって嫌だな。
卵焼きに豆類でも入れて歯ごたえ増量するか。
巻いている途中に豆入れるんだけどミスするとすごく見た目が悪くなるんだよなぁ……。
まぁ、頑張るか。
床下収納からミックスビーンズの缶詰を取り出し開けて器に出し味噌と和えておいた。
冷蔵庫から卵を3個取り出して割りほぐし卵液を作り薄口醤油とみりんをスプーンに1杯程度入れて混ぜ合わせる。
この時のコツとして泡をつくらないようにすることと大きな白身の塊は箸でちょいちょいと分けておくこと。
白身の塊が完全に黄身と混ざる必要はない。
卵焼きの白い部分が僕は好きだからというのもあるかもしれないけど混ぜ切らない方がおいしいと思う。
とりあえず卵焼きはここでちょっとストップ。
味噌汁と同時にできるようにタイミングをあわせたいからね。
お味噌汁用のお鍋を用意しておく。
卵焼きだけじゃミックスビーンズの缶詰は使い切れないのでついでにお味噌汁にも入れてしまおうと思う。でも豆を主役にするようでは食事が偏ってしまう。それはいやだ。
僕は野菜室からタマネギを取り出すと根と上の方のヒョロヒョロとした部分を切り落としタマネギの皮を剥いた。
タマネギの皮と根と上のヒョロヒョロした部分をゴミ箱に即座に捨てる。
こういうゴミを三角コーナーとかに置いておくのはなんか嫌だ。
こまめに捨てておかないと後片付けが面倒。
タマネギを頂点から根っこに向けて切り半分にするとささっとスライスしていく。
タマネギ1個分も使うとけっこうな量になるけど作りすぎた分は僕のお代わりということで。
お鍋はテフロン加工なのでこべりつかないので、スライスしたタマネギをお鍋で軽く炒めていく。
タマネギの色が白から少し透明度が出てきたら水を入れていく。
そこにミックスビーンズを加えて弱火にしておく。
後はちょっと煮立つまでそのまま。
さてと卵焼きに戻りますか。
卵焼き用の長方形のフライパンを用意して火にかける。中火で。
卵液をちょっと箸でかき回し、その箸についた卵液をフライパンに1滴垂らすとじゅっという音で固まった。ちょうどいい温度になったみたい。
卵液をフライパンに流し込んでいく。厚さ5ミリくらいを目指し少しづつ流し込む。
厚すぎれば巻くのが焼けるまでに時間がかかり半熟な部分と固焼きな部分が出てきてしまう。
薄すぎれば巻くのが大変。簡単に破れてしまう。チキンして焼く時間を長くしたらふわふわにほど遠くなる。
厚い方が形としては失敗はしにくいと思う。ただそれだと負けた気分がする。できるだけ薄く。
だいたい5ミリ程度の厚さになったと思う。
フライパンの柄をつかみ火の位置を柄と反対側つまり奥の方に集中させた。
フライパンの奥の縁の方で卵が白くなった。
この辺りから奥から手前へとめくっていく。
時間をかければ半熟のフワフワを失い急いで手が滑れば卵焼きに穴が開く。
慎重に手早くめくっていく。途中からミックスビーンズを散らしていく。
くるくると巻き、ミックスビーンズ入り厚焼き玉子は完成するのだった。
2個目の厚焼き玉子が完成した辺りで味噌汁用のお鍋が煮立ったのでお味噌を加えて3個目の厚焼き玉子を焼き終えると親が起きてきた。
水菜を洗い軽く切ると厚焼き玉子と一緒にお皿へ、最後にお味噌汁とご飯をよそうと朝ご飯の準備は終わりだ。土曜日なのでお弁当は準備しなくていい。
「おはよ~」
「おはよう」
「おはよう、ご飯出来てるよ」
「ありがと~」
「顔洗ってきてね。その間に並べておくから」
「わかった」
僕はご飯を食べると学校に向かった。
ふわふわ卵焼きは正義。