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15、いつの間にやら

 テン子様がよく使う踏み台は見た目よりも重かった。

 重心の位置が下の方にあるのかな?

 予想していた重心の位置と実際の重心の位置が違ったから重く感じたのかもしれない。


 体感的には踏み台の重さは30キロくらい。

 テン子様の体重よりも重いんじゃないだろうか?

 たぶん重いだろうな。テン子様、身長120cmぐらいで割と細身だから。


「これ、けっこう重いですね」

『私が上で飛び跳ねてもグラグラしないようにおもりとか入れたりしているので』

「上で飛び跳ねるんですか?」

『台の高さが微妙に足りないときとかです』


 テン子様の肩がだいたい80cm。台の高さが30cm。腕の長さは50cmくらい?だとしたら170cmくらいの高さで、ぐぬぬ……、って爪先立ちするのかな?

 ぎりぎり届かないとなればその場でジャンプするんだろうな。

 黒いおててを高く伸ばし精一杯爪先立ちをする。

 ぎりぎりまで体を突っ張らせて手を伸ばし顔を歪ませてそれでも届かなくて、涙腺とか余計なところに力が入っちゃって目が潤んで、涙目になって、あきらめてジャンプするのかな?


 ……なにそのかわいい生き物。見かけたら助けずにいられないな。

 そして助けられてちょっとむすっとした感じでお礼を言われたり……げふんげふん。


 いや、実際にそういう風に動くとは限らないよね。


『それで台を持ち上げて何か感じられましたか?』


 ……。何も感じられなかった?


『その顔からして微妙なのでしょうね……』

「あ、あはは……」

『いえ、急に言われて何かできたらむしろすごいです。

 効果が期待できるのはまだまだ先だと思いますよ。

 スライム君の学習効果が出てくるまでしばらくかかると思います』

「そうですか……」

『スライム君の学習効果が大きくなるようにするのなら肉体労働がいいかもしれません』

「肉体労働?」

『はい、日常動作程度では筋肉を使わない、つまりスライム君のアシストを必要とできません。

 ステータスが低いサモナーといえども現実よりも力は強いと思います。

 そこそこの力が必要な仕事を見つけないと厳しいかもしれません』

「……なるほど」

『ここではそこまで肉体労働はできないと思います。

 鍜治場など行ってみてはいかがでしょうか?

 アシストが極まれば筋力に関していえば他の職業を超えられると思います。

 8割が2倍で16割と単純な計算のようにはいかないと思いますがそれでも他職よりも高い効率で出来ると思います。

 もしかすれば筋力が品質に関係する分野の生産などにおいて他の追随を許さなくなるかもしれません』

「……!」


 どうしよう。テン子様がすごい輝いて見える。

 ただのかわいい子じゃなくて頭のいいかわいい子なんだ。

 すごいメガネが似合いそう。

 黒縁の半月メガネとかいいんじゃないかな。

 黒い軍服姿で黒い犬をつれたクールなかわいい黒髪の三角ケモミミのメガネっ娘。

 あれ……僕の頭は大丈夫か?


 大丈夫だ、問題ない。問題なくアウトだ。


『どうしましたか?』

「いえ何も問題ありません」

『そうですか』

「それでは僕は鍜治場に向かった方がよろしいでしょうか?」

『そうですね……。早めに従業員としての戦力になってもらいたいですし出向という形で伺ってみます』

「出向?」

『まともに行っても材料など入手できない生産者は働けませんから。

 なので少し頼みにいかせてもらいます』

「な、なるほど……」


 そうか。ただ鍜治場に行っても意味がないのか。

 ……? 鍜治場に行って何をすればいいんだろう?

 材料費とかもかかるだろうし経費もすごいことになるだろう。

 そもそもできるのか? どうしてできるのか?

 何が起きてるのかよくわからない……。


『初めから鎚は持てないですし雑用から始まりますが頑張ってみてください。

 クマ3人組のところに突っ込ませてもらいますから』

「へ? え?」

『今回の目的はスライム君のアシスト能力を上昇させることです』

「は? はぁ……」

『そういえば鍛治スキルは持っていますか?』

「あ、いえ」

『では鍛治スキルをとっておいた方がいいですよ。

 あれば解体ができますから』

「えっと……言いにくいのですが僕は未成年なのでレギュレーションに引っかかってしまいます……」


 テン子様が固まった。

 じっとしていることのなかった黒い尻尾も振られている最中で完全に停まった。

 瞬きもしなくなり耳も動かなくなった。

 完全なる硬直状態である。


「あの? 大丈夫ですか?」


 僕の言葉がカウンターの間に響いてから1拍後テン子様の尻尾は再び動き出した。

 尻尾が床を掃くように揺れていた。

 悲しそうである。

 女性に年齢は重いはずだ。

 テン子様がおっさん?

 HAHAHA! 何を言ってるんですか? テン子様は女性ですよ!

 動き方1つとっても男性らしさの欠片などないじゃないですか!


『若いっていいですね……』

「え、テン子さん?」

『クリム君。自分で解体ができなくても生産スキルがあれば解体の1歩手前の段階、何もしていない死体の状態でインベントリにしまうことができるんです。

 なので生産スキルは1つもっておいた方が獲得できるアイテムの種類が多くなりますよ』

「そうなんですか?」

『そうなんです』


 だとしたら生産スキルは1つは持つ必要があるわけか。

 それなら鍛治スキルがいいだろう。


 ウサギの鍛冶師……。

 鎚を振るうウサギ……。

 月のウサギは餅を搗くとき杵を振るう。

 なんだかそういう感じのイメージが頭に思い浮かぶ……。

 そのウサギ白くて逆関節だな。


『それでは今日の処はカウンターしていてください』

「わかりました」

『まぁ、カウンターといってもほとんどの場合は立っているかもふもふしているかのどちらか』

「そうなんですか」

『先着3名様限定、パーティでのご利用推奨。私のログイン状況に左右されるという悲しい営業形態なので……』

「そうですか……」

『ですのでクリム君の早期戦力化が当店の命運を』

「はい!」

『担っていません。運営コストがかからないのがゲーム内の強みですよね』

「……」

『あ、あのジト目やめてください……』


 ちょっと半目にして見たらテン子様は手を振り振り後ずさっていきました。

 尻尾は天井に向かって真っ直ぐピンと立っていて本当に恐がっているんだなって良くわかる。

 やっぱり精神年齢が低そうだ。


 ……テン子様の方が年上なのはレギュレーションでもわかるのになぜだろう……。

 頭もすごいよさそうなのに……。


 うん、間違いない。行動が幼いんだ。

 行動に感情が出てきてるというかわかりやすい。

 ちょこちょこ動いているからかもしれない。

 テン子様はしゃべらないけどその分ケモミミとか尻尾で感情が見えやすい。

 ……あれ、もしかしてケモミミと尻尾がなかったら感情が見えなくて年齢が高く見える?


 年相応のお姉さんがあーいうふるまいをしていると考えてみよう。


 ……筆談系お姉さん。

 髪を染めたりはしなさそうだから黒髪。

 テン子様は髪の毛が短いからきっとショート。

 メガネはしているだろうな。きっと。

 身長は……絶対高くない。150cmくらいなんじゃないかな?

 昼間にはログインしているという情報を聞いたことがない。

 つまり働いている。昼勤だろう。

 白衣を着ていそうだ。学生時代はきっと図書室よりも理科室にいる感じの。

 頭自体すごくいいと思う。

 声を出さない以外に行動に陰は感じられない。

 つまりいじめられたりなどはされているとは思えない。

 ただ実験とかに夢中になっていたら人付き合いが少なくなって温室栽培状態になった感じ。

 で今は研究室とかに勤めているのだけど職場の人からは生暖かく見守られている。


 なんだろう。すごくそんな気がしてきた。


『はい、クリム君お客さんが来たよ! カウンターに立って!』

「は、はい! いらっしゃいませ」


「こんばんは~。今日は新入りさんがいるみたいだね」

『クリム君といいます。まだスライムしかサモンできないのでしばらくはカウンター業務になると思いますがよろしくお願いします』

「はーい、よろしくー。テン子ちゃんは相変わらずかわいいね。今日は何が借りられるかな?」

『クリム君っ! タブレットお出しして!』

「はい! こちらがご案内できるメンバーになります」

「おし、じゃあ今日はとり君を貸してもらおうかな」

『ありがとうございます』

「ありがとうございます」

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