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14、スライムの名前は血赤です。覚えてましたか?

「ただいまもどりました」

『おつかれさまです』


 夕食を終えて軽く洗い物をしゲームに戻れたのは21時半。

 21時にはログインできなかった。

 僕はゲームにログインすると深呼吸を行い体をほぐした。

 そしてカウンターに立って僕のことをじっと見ていたテン子様に言葉をかけた。


 ……話しかければいいのに。いや、たぶんタイミングを計っていたのかな?

 言葉に対して間髪なく返答のチャットが飛んできたから。

 入力して待機の状態で指をとめていたのかもしれない。

 タイミングを見計らう必要なんてないのに。

 ……いや、文字は見てもらわないと分からないか。


「これからどうしますか?」


 テン子様は右斜め上を見上げた。

 右のケモミミがピンっと上を指している。

 踏み台に立ったまま手は後ろに隠している。


 踏み台に立っても僕よりも目線が低いんだよね……。

 これは可愛いと思っても大丈夫ですか?

 中身が成人しているということは……合法ロリ?

 はい、思考が終わってますね。


『そうですね。カウンターでスライム君と戯れててください』


「え?」


『スライム君以外に召喚できるサモンモンスターはいませんよね?

 ここでお客さんを待っているだけでは時間もむだです。

 なので新しい従業員が入りましたという宣伝も兼ねてスライムと一緒にカウンターで過ごしていてください。

 初めのうちは私がお客さんとやり取りしますので見て慣れてください。

 慣れてきたら私はお客さんの対応するためカウンターを離れます』


「は、はい」


『焦らなくていいですよ。焦ったところでミスが増えるだけですしね。

 ダラダラと対応されたらお客さんがイラッとしますけどそれ以外は自分を出すことの方が重要です。

 お客さんがなめられた対応していると感じられたら不快に思われます。なのでお客さんと話している時やその他業務中は失礼をしないようにそれだけに集中してください。

 ですがお客さんに対応していないときにサモンモンスターと戯れるのは問題ないです。むしろグットです。戯れ方の見本にもなりますし、その姿を見られた時和やかな気分になるので。

 あ、視界にお客さんが入った時点でサモンモンスターと戯れるのはやめてくださいね。

 あくまでもお客さんへのサービスが業務中優先です』


「えっと……はい、わかりました」


 いきなり長文来られると把握に時間が……っ!


『まぁ、習うより慣れよ。ということでお客さんが来るまでサモンモンスターと戯れててください。

 私も戯れていますので』


 ……なんですと?


 テン子様は言うが早いか1匹のサモンモンスターをカウンターの下に呼び出した。


 黒いいぬだ。

 精悍な顔つきをしているけれど瞳にはやさしさがこもっている。

 あれ、絶対テン子様のこと子ども扱いしてる気が……げふんげふん。

 柴犬くらいのサイズ。しかしその体つきは並みの犬とは比べ物にならない。

 毛色の良さはちょっといいとこのお犬様であれば同じくらいになると思う。

 しかし腕の太さ、足の太さ、筋肉質な体は滅多にみられるものではないだろう。


 あれは強い。ケモナーであることをひそかに自負している僕にはわかる。あれは強い。

 

 テン子様が踏み台から飛び降りると犬のそばへととてとてと近寄った。

 ……あれ? 着地した足音すら……聞こえない……?


 テン子様は黒い犬に無言で近づいた。

 初めに犬の鼻の前に手を出してそしてそのテン子様の手を黒い犬がなめるとその手であごの下をなでる。

 むずがゆそうに、でも気持ちよさそうに目を細めるわんこ。

 テン子様はもう片方の手で体全体を撫でまわす。

 気持ちよさそうにしているわんこはそのままされるがままになでられて……テン子様がひしっと黒い犬に抱き着いた。

 その表情は目が細まり口の端が上がってそれはそれは幸せそうだ。


 ……テン子様はおっさんですか? 女の子ですか?


『何を見ているのですか? クリム君はサモンモンスターと戯れないのですか?』


 カウンターの床で犬と戯れていたテン子様が僕のことを見上げている。

 ちょっとむすっとした顔で。

 ちょっと不思議そうな顔で。

 ちょっとふくれっ面で。


 なんだろう。この胸の内側によぎる……その頬をぷにぷにしたいという欲求はっ!

 なんですか? ここは? 天国ですか? 楽園ですか?


『ほらあなたもサモンモンスターを出して戯れましょう?』

「あ、はい」


 僕はピュアスライムの血赤を呼び出した。

 透明でプルプルしたその見た目はくずもちみたく美味しそう……。

 大きめのクッションくらいのサイズだ。

 抱き着いてみるとしっかりした感触。

 ……ちょっと力を入れてみると血赤の中に体がめり込んでいく。


 あ、これって……。うん。気持ちいい。


『クリム君……どうやったんですか?』


 いつの間にか目の前にテン子様が現れていた。

 ……足音しないから気づくのがどうしてもワンテンポ遅れるな……。


 今の状況? 血赤を衣服のように身にまとってるよ。


「えっと……なぜかできました」


『ふむむ……』


 そんな言葉をチャットに残すとテン子様の動きが停まった。

 目を見ると焦点がない。

 目の前で手を振っても反応しない。

 ……大丈夫かな……?


 けもみみが小刻みにぴくぴくしてる。

 けもしっぽもゆらりゆらりと動いてる。

 触りたい……もふりたい……。


『クリム君。スライムはどういうものかわかりますか?』


「はっ……!あえ、あ、いえいえ。えっとよくわかりません……」


 テン子様の頭から吹き出しがいきなり飛び出してびっくりした……。


『私の持論ですがスライムはアメーバを巨大化したものと組成が似ていると思っています。

 アメーバ。あれって不定形ですが望んだ方向に向かって移動する1つの動物なんです。

 動くために使っているのが液体状になっている筋繊維。

 電気信号で収縮したり弛緩したりする筋肉なんです。

 ですのでアメーバを模したモンスターであるスライムはいわば液体の筋肉なのです!』


 テン子様は胸を張り自分の吹き出しの文字を指でさした。


「液体の筋肉……」

『つまりです。今のクリム君のように体をスライムで覆えば普段出せる筋力よりももっと多くの力を出せるパワードスーツのような役割を担えるんですよ!

 私の方ではスライムの体液を容器に入れてロボットのように扱えないか、ゴーレムの動力源として使用できないかなど研究していたのですが芳しい結果が得られなかったですけども』


 うんうんと腕を組みながら頭をテン子様は振った。

 小さな子がこういうことしてるとすごく頭をなでたくなる。

 ……でも中身は僕よりも年上なのは確実なんですよね。


『今のクリム君の状態は非常に面白いですね。もしよければ戦闘訓練などしてみませんか?』

「戦闘訓練?」

『スライム君もまだ自分の動き方がわからないでしょう。訓練を行い外付け筋肉としての動き方を覚えられれば1個の戦闘力としてみればほかのプレイヤーを上回ることも夢ではないはずです』

「そうなんですか……」

『クリム君はスライム君に何かお願いできますか?

 例えば物を持ち上げる時には腰の辺りを支えられるかなど』

「腰ですか?」

『腰です』

「そうですね……」


 持ち上げる……ね……

 何か持ち上げるものあるかな


 僕の目の前には目を輝かせているテン子様がいました。


 持ち上げますか?


 はい

 いいえ


 ……。

 ……。……。


 持ち上げちゃダメですね。

 アラートが鳴ると思う。


 僕は無難によくテン子様が乗る踏み台を持ち上げるのだった。
















一瞬忘れていた作者がここにいます←

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