12、テン子様実際に会ったら
カウンターには幼女が1人いた。
黒い軍服を纏い、頭には直角の黒いケモミミがついている。
大きくて丸い黒い目は僕の目をじっと見つめている。
ずっと目が合ってる。
頬をつーっっと汗が垂れていく気がする。
なんだかあの大きな黒い目に吸い込まれていきそう。
僕の内面を覗き込もうとするかのような怖い感覚。
今の動揺も全て見抜かれているのかもしれない。
何を考えているんだ。
アバターの目だからだろうか?
まるで人形の目のように。
ガラス玉のように。
透明で。
透明で。
意思のない機械のように。
感情が感じられなくて。
目的があるようで。
何かされているようで。
恐い。
……。どれほどの時間が経っただろう。すごく長い時間が経過したように感じる。
でも視界の隅に映る時計は来た時と同じ時間。10秒と経っていない。
彼女は何を見ているのだろうか?
「はいはい。見つめ合ってない、見つめ合ってないの。君たち、一目惚れでもしたのかい?」
後ろから声が聞こえた。フォロさんの声だ。
『いいえ、してませんよ。私は男ですし女の子が好きですから』
幼女の頭から吹き出しが出ている。
……幼女、軍服、ケモミミ、吹き出し……
検索したら絶対にR18行きだな。
「テン子ちゃんはとりあえずじっと目を見る癖を止めなさい。勘違いされるから」
『はい、そうですね。以後気を付けます』
間違いない。テン子様である。
あぁ、うん、問題なく不思議ちゃんだ。
「それでテン子ちゃんはクリム君を見てどうだった?」
『大丈夫だと思います。挙動不審にもならなかったので接客も慣れればスムーズにできるでしょう』
「そう? それで?」
『私としては採用で問題ないかと』
「OK。わかった」
「そういうことだ。クリム君。ではあらためて言おうか。サモナーズカフェ『もふもふ』にようこそっ!」
『クリムさん、よろしくおねがいします』
紅黒の2人が僕に向けて手を差し出し歓迎の言葉をくれた。
予定表の1つが無事に終わった。
次はゲームマネーを稼ぎ、武器を用意し、アチーブメントを選別することが必要だ。
緊張してきた。
『クリムさんは何が召喚できますか?』
黒、テン子様が頭に吹き出しを浮かべて聞いてきた。
やはり声を出さない。知ってたけど見ていると不思議。
後ろ手にスマホを操作してブライドタッチでチャットしているというね。
目線はちゃんと僕に向いているというのに。
変換とかどうやって正確なのを選んでいるのだろうか?
順序とかけっこう変わるというのになんでできるんだろ?
「スライムだけです」
『そうですか……』
「えぇ、ここで働いて武器を購入してから戦闘はやろうかと思っています」
『そうなんですね。となると……出来ることは注文をとることとカウンター作業ですね』
「わかりました!」
『こちら側に来てください』
「はい」
カウンターの内側から小さな猫のような手が降られている。
肘のところまで黒く短い毛で覆われ、まるで長手袋をしているかのような腕。
手は小さく、その手は握れば僕の手の中にすっぽりと納まるんじゃないかと思う。
小っちゃいなぁ……。
カウンターの内側に入るとテン子ちゃんが踏み台の上に立ってカウンターに立っていたのがわかった。
小っちゃい。本当に小っちゃい。
「まずなにをすればいいですか?」
『カウンターの内側にマニュアルがあるのでそれに従ってください』
『なにか思うところがあれば聞いてください。まずこの手順をやっていきます』
『すみませんがボス、お客様役をお願いしてもいいでしょうか?』
「OK! いいよ! テン子ちゃん!」
フォロさんをボスと呼ぶのも思えばテン子様だけだろう。
動画を見る限りコラボしている人は「フォロさん」「ギルマス」など呼んでいる。
フォロさんもいつも動画で見ている、凛とした姿よりぐいぐい行く感じだ。
この2人はなにか特別な関係なのだろうか?
『まず初めにお手本として私が対応させてもらいます』
そういうと踏み台の上でテン子様はカウンターの方を見据えていた。
60㎝くらいの踏み台を使わないと高さが合わないとはやっぱり小さいな……。
テン子様の背後に立つとその黒い耳がピンっとしていてすごいもふりたくなる。
おしりから出た太めのしっぽのもふもふ加減が抱きしめたくてたまらない。
僕はDKとして何かおかしいことを考えていないだろうか?
問題ない。僕は正常だな。
『いらっしゃいませ』
お店のドアが開きスタスタとフォロさんが入ってきて、カウンターの前に立った。
そしてテン子様が挨拶。いたって普通の接客業だ。
「ここでは何が頼めますか?」
フォロさんが尋ねるとテン子様は軽く一礼した後、タブレット端末をカウンターに置いた。
『ここに表示されているサービス内容を選ぶことができます。立って選ぶのもなんですからあちらのお席にお座りになってお選びください。このタブレット端末から注文もできます。注文を受け次第店内奥のコーナーへとご案内いたします。どうぞゆっくりとお選びください。操作方法や注文内容で何か聞きたいことがあれば近くにいる店員や私にお聞きください』
あ、はい。
チャットログに発言が残っているからいいけどこれ瞬時に把握できない人いそうな気がする。
「すみません、ここはどういうお店なんでしょうか?」
『ここはサモナーによるモンスターと触れ合うお店です。モンスターによってはレンタルなども受け付けています。空中や海中などの特殊なフィールドの移動の補助や素早さの低いステータスビルドの方の移動速度の補助、索敵などの冒険の補助からお好きな場所で遊ぶアニマルセラピーまでなんでも対応可能です』
「そうなんですね。あの……この項目なんですが」
『店員とのおしゃべりですか? カウンターにいる人以外であれば受付可能です。タブレットでその項目をタップしてください。そうしましたら対応可能な店員がわかります』
「わかりました。……対応可能な店員がいないのですが」
『申し訳ありません。サモナーはあまり人気の職業ではないので今のところここにはいない5名しかおりません。もし知り合いにサモナーがいましたらこのお店のことを教えてもらえませんか?』
「分かりました。あのそれではこの「いぬくん」というモンスターでオーダーさせてもらえますか?」
『お時間の程はどういたしますか? 料金プランはこのようになっております』
「22時に用があるのでそれまででお願いできますか?」
『かしこまりました。それではお席に案内をします。ご利用開始時間はお席に着いてからになります』
「すみません、これは途中でキャンセルすることは可能でしょうか?」
『出来ます。その場合、ご利用時間と料金プランのすり合わせが行われ、返金される金額は多少増減されますが大丈夫でしょうか?』
「大丈夫です。問題ありません」
流れるように進んでいく。
テン子様が示す方にフォロさんが歩きそして消えてった。
「とまぁ、こんな感じの流れね!」
廊下の陰からフォロさんが顔を出してそういうと僕の方へと歩き出した。
テン子様は丸い目でフォロさんを追い続けてる。
なんというかテン子様はフォロさん好きだな。
『では何か不安なところとかありますか?』
きゅいっと擬音がなりそうな、最新ロボが焦点を合わせるような、やっぱりすごく不思議なテン子様の首振り。
なんだかすごく高度なロボットを見ているような気分になってきた。
人間ってなんだっけ? テン子様ってもしかしてNPCなのかな? いや、それはないよね。
幼女、軍服、ケモミミ、吹き出し
検索してみたら意外にR18率低かったね