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9、労働条件の確認

 おことさんと一緒にギルド中央館に入った僕の目の前には赤い狼の女性がいた。

 女性は僕たちの姿に気づくと軽く手を振った。


「私は【フォロ】。このギルドのマスターをしているよ」


 動画で何度も見た人だ。


 天才フォロ。瞬神フォロ。赤い悪夢フォロ。神出鬼没のフォロ。


 交友関係は広く、どこにでもいる人。


 RSO関係で有名な動画を見れば3本に2本は出ている。


 ある時は闘技場の花形プレイヤー、ある時は番組のお助け役(未来の猫型ロボット)、ある時はコメンテーター。


 その才覚でギルドを企業化し、巨額の利益をあげる生ける伝説。


「こんばんは。君がクリム君かな?」


 フォロさんは僕に近寄り握手を求めた。


「そうです。僕が【クリムゾンクラウド】。クリムといいます」


 僕はフォロさんの手を握りそう応えた。


 フォロさんの手は意外にも、赤い薄い手袋をした、普通の女性の小さいたおやかな手のようだ。




 不思議なことに圧迫感や凄みといったものはまるで感じない。

 それどころかパーソナルスペースを侵されているにも関わらず不快感をまるで覚えられない。


 そこにいるのが自然なことのように、彼女は僕の傍にするりと入り込んでいた。


 彼女のアバターは170cm程で、175cm程の僕よりも小さいので、自然と彼女は見上げながら話し、僕は彼女の大きな目を見ながら話すことになる。


 ……このポジションはヤバい。


 赤い耳がピンっと立っていて、それがピクピクと反応をうかがうように、向きを変えていく。


 右に、左に。


 頭の後ろから見える尻尾は静かにゆっくりと揺れている。


 ゆらゆらと。


「あの~? 大丈夫ですか?」

「は、はい! 大丈夫です!」

「ではさっき言ったことをもう一度いってください」


 さっき……?

 え、もしかして僕がけもみみや尻尾に夢中になっているうちに何か言っただろうか?

 でも……いや、気を取られてしまったのがばれているんだ。

 しょうがない。諦めよう。


「すみません、ちょっと気をそらしてしまいました」

「むふふ、では話を戻しましょうか」

「はい、お願いします」


 何故サモナーズカフェ【もふもふ】に入りたいのか。

 どういう経緯でここを知ったのか。

 どのくらいの時間働くつもりなのか。

 細かな規則とその理由について触れた後メールにしてメッセージをもらい面接が終わった。


「【もふもふ】はサモナーじゃなければ雇うことができないので非常に狭き門なのよね。

 新戦力のクリム君には期待しているよ!」

「はい、頑張ります!」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 サモナーズカフェ【もふもふ】についての備考


 ギルドマスターのフォロさんがオーナー。

 憧れのプレイヤー、テン子様が店長。

 従業員は全員サモナー職。

 モンスターと戯れることで癒しを与えるがコンセプト。


 仕事内容は基本的に2つ。

 1つはサモンモンスターをお客様と遊ばせること。

 もう1つはお客様の注文に応えて品物を届けること。


 任意ではあるもののサモンモンスターのレンタルも受け付けしている。


 サモンモンスターがお客様と遊んだ時間で給料が決まる。

 またサモンモンスターのレンタルに関しても時間で料金が決まっている。

 なおサモンモンスターと遊ぶのもレンタルされるのもそのモンスターのご主人様にその許可の判断は任される。

 またサモナー、プレイヤー自身も接客や掃除などの仕事をしていたら給料が入る。

 サモンモンスターの数が少ないうちはこちらが給料のメインになるだろう。


 店内メニューはギルドで生産された製品の委託販売。

 メニューはスマホを介して見ることができて、カテゴリの検索、生産者の検索、オーナーのおすすめランキング、従業員のおすすめランキングなどいろいろある。

 基本的に飲食やモンスターと一緒に遊ぶための道具を販売している。

 そのため生産能力を持たなくても従業員として働くことは可能。


 初期はスライムしか呼び出せないサモナーのため、ギルド内で売れ残っている武器の類を店舗内価格で従業員は安く購入できる。

 サモナーはパーティーにそのサモナーのサモンモンスター以外を入れないで倒した種族だけしか召喚できない。武器がないとお店に召喚できるモンスターがスライムしかいないので仕方ない。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「とりあえず今日はもう遅いからここまでにしようか」

「わかりました」

「今日の内容はSNSに拡散しちゃっていいから。

 むしろ拡散してくれると従業員が増えそうだからお願い。

 ほかの人と話し合って疑問に思ったところとか聞きにきていいよ」

「? はい?」

「あ、業界裏事情とかって基本的に話をあげちゃうのNGなんだよ」

「ニュースでけっこうな問題として言われてますね」

「そうそう、愚痴とか書き込まれてマイナスイメージがついたりしたら商売にとってはもう損しかならないからね」

「なるほど」

「あ、あくまでさっきここで話あった内容だけだよ? SNSにあげていいのは。

 業務中に生産プレイヤーの悪口とか言うのもダメだからね?

 不買運動とかされたら干上がっちゃうし、訴えられたら私は関与できないからね?」

「訴えられたら?」

「ゲームの中とはいえCMに出てお金を稼いでいる人もいるし、そのCMを出している会社のイメージダウンにつながるから現実で訴えられると思うよ?

 どこか施設を借り切っているわけではないから2000万はいかないと思うけど」

「……プレイヤーからは?」

「そのアカウントにかけた金額や時間の分だけ訴えられると思うけど……行って100万か200万程度だよ、たぶん。リリースしてからまだ2年経ってないし」


 100万や200万ってそんな程度っていう程軽くないでしょ……。


 そういえばフォロさんって億万長者でしたね。

 フォロさんには端金なんでしょうね……。


「あ、そうだ、次はいつログインできそう?」

「明日の16時半くらいから25時くらいですね。

 3時間程ログインした辺りで一度30分から1時間程夕食を摂るためログアウトします」

「おぉ、けっこう長いねっ! じゃあ17時くらいにここに集まろうか」

「わかりました、よろしくお願いします」

「ん、じゃ、アディオス!」

「あ、アディオス」


 フォロさんは軽くウィンクして言うと手をふりどこかへと歩き去った。

 後姿、歩き方がきれいだ。

 揺れる尻尾がゆらゆらと。


「お~、少年、少年。フォロさんに惚れたか?」


 そんな声と共にキツネのオネェさんに肩を叩かれた。

 なんだかこの人の微妙に女っぽい男の声が徐々にババア風に聞こえてきた。

 「のじゃ」とか語尾につけたりしないだろうか?

 いやそれは属性が違うだろう。


「いえ、惚れてはいません」


「そかそか、君の目がフォロさんを曲がり角の向こうに消えるまで追い続けていたのは気のせいじゃな」


 少し、……少し、そう少しなんだ!

 僕は少し尻尾が気になっただけだ。


「気のせいですよ」

「目がそう言っておらんぞ」

「……気のせいですよ」

「ほれほれ、このお婆に言ってみんしゃい。

 恥ずかしいことはない、誰もが通る道じゃ」


 ついに自分をお婆と言い出したか。


「……口調変わってません?」

「勤務時間外じゃからな!」

「僕、そろそろログアウトしないと」

「むぅ……。相談があればいつでも乗るぞっ! この【なおん】お婆がなっ!」


 ふざけて対応されそうな予感。


 いや、案外まじめに対応するのかも?

 少なくとも知り合いはけっこう多そうだ。


 おことさんとの話し合いをみてもWINWINの関係になるような形に話をまとめてくれる可能性が高い。


「今回は本当に違いますからっ!

 なおんさん、何か聞きたいことがあれば聞きに行きますね」


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