プロローグ、ある未来。
「ク・リ・ム! ク・リ・ム! ク・リ・ム!」
僕を讃える声が聞こえる。
対峙するのはプレイヤーのパーティー。
僕はきっといつものように負けるだろう。
だけれど僕は諦めない。勝てる時もあるから。
それに勝てた時の何とも言えない快感。
地に伏せるは最新装備のプレイヤー達。
対して僕は1人でそれを返り討ちにする。
あれ程の快感はなかない。
可能性はある。
あの快感。味わったらもう辞められない。
僕はいつもの如く跳ね飛ぶ。
その高さは数十mを優に超えて100mに届く。
他のプレイヤーはここまで高く跳ぶことは出来ない。
僕の構成と同じでなければ出来ない。
このジョブは育成するまでが長い。
つい最近まで10レベルまで育成することすら困難だった。
初期で詰んでいるジョブ。
あの店の従業員なら僕の他に30人くらいいるけれど、もふもふに取り憑かれた人ばかりだ。
だから同じ構成をしている人は誰もいないと確信している。
僕は背中にたなびく10本の触手を放射状に広げ紅く光らせる。
そして高々と拳を掲げて言う。
「紅きヒーロー、クリムゾン参上!」
僕を追って飛んできた運営のカメラに顔を向け、スクリーンにダークヒーローの笑みを映らせ、高らかに宣言する。
運営のマイクに声を拾われ闘技場全体に響く。
観客のクリムコールがさらに高まる。
僕はユニゾンサモナーのスキル【AllForOne】を使い装備している仲間、空イカのホタルに合図を送る。
背骨の上辺りにあるブースターからガスを噴射した。
僕はリングに向けて急加速した。
「破!」
僕は音声入力で体術ツリーのアクティブスキル、インパクトを発動させる。
さらに赤ニシキヘビの紅に筋力と皮膚表面の補助の一段階上昇を合図。
アバターの表面に浮かぶ鱗が一際濃くなる。
あとはスキルモーションに身を任せて拳をリングに叩きつけた。
拳はリングの表面で止まり、それまでに溜めた運動エネルギーの全てをリングの表面に置いていく。
茶色い砂のリングは融解し、拳の衝突した中央は白熱し、全体を紅く染める。
リングに陽炎が立ち昇る。
「今宵、私に挑む勇者パーティーは誰だ?」
いつもの名乗りを行う。
ゲームの世界で、実際の顔とは違うから恥ずかしくない。
すみません、ごめんなさい、調子に乗りました。
すごく恥ずかしいです……。
その直後、天空から岩石が降り注ぐ。
だがしかしそれは僕をすり抜けた。
けれども僕の視界には岩があり続ける。
この岩には触れない。
この岩は……幻術、幻術スキルか!
「な、な、な、なんと!
天空から岩石が降り注いだと思えば蒼き鳥が飛んでいるぞ!
その背中には誰かが乗っているようだ!」
ねぇ、僕、見えないんだけど?
何が起きてるの?
「黒きクローを携えて、黒き軍服に身を包む。
尻尾がキュートなあの人は……黒き解体天子!
我らが幼女せんせー! サモナー伝道師のテン子ちゃんだ!」
て、て……店長ーっ!
店長、何しに来たんですかっ!
「アップされた顔はこれは見事なドヤ顔!
これはもう見事な煽り顔! しかしかわいいから許す!
え? 『私はおっさんです』? 何を言っているんですか?
テン子ちゃんは幼女です! それがこの世の真理! 我らが幼女、解体天使!」
ねぇ! 今日の枠は僕の枠! 店長はお店に帰れ!
僕はモミジズクの緋羽に視覚と聴覚の補助を合図。
店長は確実を期して動くことが多い。
しかしイレギュラーに対応出来ないわけじゃない。
イレギュラーが起きても動じないし、普通にわかっていたかのように対応してくる人だ。
幻影の配置を登場時にしてくるし狡い! 登場アクションとしてごまかしているけど狡い! 店長には負けたくない!
いくら師匠といえども僕は店長に勝ちたい!