武器屋の疑問
「ねえ、今日の新聞見た!?」
「見てないです。」
クリスは淡々と答えたゼルに少しムッとし、目の前に新聞を突き出す。
「見てここ!」
「カルガモの子供が生まれまし、すみません!」
「会長の不正契約が国にばれて、賠償金を払うことになったのよ!」
一人一人に対する金額はそうでもないが、総額がすさまじいことになっている。
これでは嫌がらせ雇っている暇など無いだろう。もしかしたら父にも支払われているかもしれない。
クリスがうきうきしていると、彼女に添うようにカランと鐘が鳴った。
「いらっしゃいませ!」
「こ、こんにちは」
全体的に銀色の、センスの良い防具をつけた若い男だった。こんな高そうな鎧には見覚えが無く、しかし少しどもる答え方に、既視感を覚えた。
「ルディさん」
「あ、名前覚えててくれたんだ」
「そりゃあ覚えますよ。勇者様ですもの」
よく見ると、着けている防具には国の紋章が書かれていた。これは王族と聖女以外には、勇者しか使用が許されない。
新たな勇者は、クリスにとってゼルを超える客寄せパンダだ。今日は一体どんな用事なのか。
幸い今は他に客もなく、どんな申し出でも答えられる。
「どうしました?」
「…刀をね」
「はい。あ、折れてしまったなら新しくした方が…」
そこでクリスも気づいてしまった。
勇者は聖女の加護を受けた防具と、武器を持っている。つまり、新しい物もいらないし古い物もいらないのだ。
「売りづらくてずっと持ってたんだけど、使い手のない刀が可哀相って言われちゃって…」
気まずいのだろう。目をそらしながら刀を差しだしてそう言った。彼は気の良い善良な青年だ。これから何か騙されなければいいが。ふとそう思って自嘲する。勇者となり聖女様の加護を得た彼に、何故自分のような凡人が心配しているのだ。
クリスは心の中で嘆息した。パンダが去ってしまった。
「分かりました。日にちが経ってしまっているので、買値の半額になります」
「うん。じゃあ、売るな?」
「はい」
クリスは刀を受け取り、カウンターへと走った。
「じゃあ、頑張ってくれよ」
「ありがどうございます」
もう二度と来ることはない勇者を見送る。
聖女の加護が施された剣なら、自分のうった刀が負けてしまってもしょうがない。正直悔しいが、そういう霊的な力についてはまったく詳しくないのだ。
なんとなくそういうのが詳しそうな男の方を向くと、何故か彼は嗤っていた。酷薄な笑みに驚きつつ伺うと彼はやれやれとつぶやいた。
「今代聖女なんかが創った武器で魔王討伐とは、面白い冗談ですねぇ。クリスさんの武器使うなら分かりますが」
「いや…、それはなんていうか、身内贔屓って奴じゃないかしら」
自分の力にまったく気づいていない彼女は、そう言って笑った。