武器屋の苦悩
ここから続編です。
彼女には最近困ったことがあった。
私室の窓を開けて外を見る。二階の窓からは路地裏の景色が見えた。その遠くには王城が建っている。今日もあの場所では聖女様がこの街を護ってくれているのだろう。
いつもと同じ風景だ。クリスは安堵のため息を吐いた。
窓からひんやりとした風が入る。彼女は着替えて私室を出た。
「…どうしろって言うのよ…。」
武器屋の店主は、自分の店の前で頭を抱えた。
彼女は、いつも通り店の周りを掃除するつもりだった。
夜は閉店しなくてはならない分、朝早くから行動しなくてはならない。少し肌寒くなってきた早朝から外に出た。
路地裏の道は大体汚い。煙草や酒瓶などは可愛いもので、たまに酔っぱらいの嘔吐物まで落ちている。そんな物、本来なら見たくもないが、自分がやらねばそれはずっと店の前に放置されてしまう。
王都にやってきた頃はかなり堪えたが、今はもう慣れている。
だが今、彼女の目の前には予期せぬ物が落ちていた。
箒とちりとりを持ったまま、彼女はその場で立ち尽くしている。目を疑うような光景が広がっていた。
こんな事は仲の良い飯屋の女性の話にだって聞いたことがない。多分、彼女が初めての体験者だろう。
冷たい石床の上に、若い女性が落ちていた。
少し赤みを帯びた長い金髪が地面に広がっていた。恐らく年はクリスよりも少し上くらいで、豊満な体つきをしているのに気づいた。
思わず舌打ちしてしまった自分に驚きつつ、女性の顔をのぞき込む。髪と同じ色の長いまつげで縁取られた目は閉じられていた。といっても不調があって倒れているというよりは、ただ眠っているように見える。
クリスは視線を横にずらして女性の傍らに落ちていた物を見つめた。クリスは空の酒瓶をじっと見つめて、もう一度女性を見つめ直す。こんな美女でも酔っぱらいなのか。
呆れた目をしたクリスは頭を抱える。
「…さて、どうしようかしらね。」
女性は特に何も武装していない。前の開いたジャケットから分かる体つきも女性らしいとしか言いようがなく、たくましい筋肉に覆われているわけでもない。そんな女性がこんな無防備な姿で一晩中野外で寝ていた。その行為の危険性を問うと、どうにも怪しい。
だが、自分を抱くように丸くなって寝ている姿はとても寒そうで可哀相だ。それを見ていると家につれてベッドを貸してやりたくなる。
眉間に皺を寄せて悩むクリスの視線の先で、まるで謀ったかのように女性が小さくくしゃみをした。
ここで、クリスの心が完全に傾いてしまった。ただの酔っぱらいなら昼に追い出せば良い。楽観的かつ粗雑な妥協案を出してクリスはよっこらせ、と女性を持ち上げた。