消去法
痛いことは嫌いでした。叱られる痛みも、殴られる痛みも嫌いでした。
消すことは好きでした。文字を消すのも、約束をなかったことにするのも好きでした。
嫌いなものは好きなものに変えよう。そうすれば、いつか嫌いなものが消えるはずです。
首が痛かったのです。
夜寝て朝起きると、きまって首が痛いのです。
これは枕のおかげなのかもしれない。そう思い、枕を使わずに、つまり枕を消して寝てみました。
より嫌になりました。
ならばベッドのせいだろうか。ベッドを消して――売り払って、とても固そうで健康に良さそうな床で寝ることにしました。
よりいっそう嫌になりました。首の痛みは増すばかり。
今度は何のせいだろう。考えた結果、床を消して寝てみることにしました。ツボによく効きそうな砂利の上で寝ました。
とてもとても嫌になりました。
原因だろうと思うものをたくさん消しても、痛みは消えてくれないようです。
そこでふと、閃きました。
今まで一度も消したことがないものが、一番好きなものが、あるじゃないか。
それを消してみました、とても時間がかかりましたが、無事に消せたようです。
なんということでしょう。
あれほど嫌だったものが、痛みが、憑き物が取れたようにさらりと消えました。
これはいい。とてもいい。私はとても気分が良くなりました。
これぞまさに一石二鳥ということでしょうか。首の痛みだけではなく、
生きることの痛みもついでに消せたのですから。