姫巫女と舞うその戦場-11
祭りはとても賑やかであった。
人が溢れて、はぐれないようにミルクと固く手を繋いで参道を練り歩いていた。
それを見ていると災害からかなり復興したんだな、と感慨深く思える。
「兄様、兄様」
「ん?」
ふと手を引くミルクに僕は視線を向けると、彼女はにこにこと笑いながら射的の方を指差した。
――なるほど。
「兄様の腕前、久しぶりに見たいな」
ニコニコと笑うミルクの瞳の奥はどこかわくわくしているようだ。
可愛い妹のためだ。よし。
僕は不敵に笑うとその屋台へと歩いて行った。
数分後。
「ん、まぁ、少ないけどこんなもんかな」
「く、くそっ、持ってけ泥棒っ!」
一気に半分以上の景品を落とした僕はお菓子の袋を抱えて自慢げに笑いながらミルクの元に戻る。
ミルクは嬉しそうに両手を叩き合わせて喜んでいた。
「兄様すごい! 前より腕前上げたね!」
「まぁな」
学園や山本少将から跳弾の技術を教わったのだ。そのお陰で多彩な射撃ができるようになっていた。
どんな手段を用いたかはまぁ、割愛しておこう。
荷物も多くなってしまったので、僕とミルクは休憩所の方へ歩いて行くと、景品として手に入れたお菓子を食べながら祭りを眺めることにした。
「大分栄えているねぇ」
「ん、玉造様が頑張っているからね。あの人の手腕は本当に凄い」
ミルクが素直に首肯する。プライドの高い彼女が認めるということは余程なのだろう。
僕はポテチを齧りながら、ふむ、と祭りを眺めて訊ねる。
「この祭りも玉造さんが?」
「んー、ちょっと違うかな。主催は源次郎お祖父さんが。で、玉造様からあたしに全権が任されて、それであたしが企画、計画、実行したの」
「――え、ちょっと待って」
なんかすごいことを言われたような……。
僕がミルクの顔を見ると、彼女は何ともないような顔でチョコバナナを舐めている。
「……手伝い、じゃないのか?」
「手伝いじゃないの?」
きょとんとした顔で聞き返される。
これは一応、玉造さんの手伝いにあたるのか? でも企画までやっていたら……。
戸惑う僕にミルクは悪戯っぽく微笑む。
「兄様が戸惑っているのって可愛いね」
「……こら」
少し面食らいながらも僕はぺしっと目の前の少女の額を弾いた。
あう、と悲鳴を上げて涙目になるミルクを眺めながら、思わず動揺してしまったことを押し隠すように苦笑して言った。
「年上をあまりからかうんじゃないよ」
「うう、兄様の意地悪」
ミルクは額を擦りながら可愛い声で唸るのを横目に、僕は小声でつぶやいた。
「お前もな」
「――え?」
彼女がきょとんとした顔で聞き返すのを僕は微笑みでごまかすと、ポテチの残りを口の中に放り込んだ。そして立ち上がりながらミルクに声をかける。
「そいじゃ、遊びに行こうぜ。何か奢るよ」
「ほんとっ!? それじゃあね、うーんと――」
少し考え込みながら僕の手に飛びつき、立ち上がるミルク。その手を握りしめると、僕達は人ごみの中へ再び向かっていった。
その後、僕達は屋台でいろいろな料理を食べたり、遊びに興じたりした。
カニ釣りやスーパーボール掬い、もちろん、金魚すくいとかも……。
二人で手を繋ぎ合って童心に返って遊ぶのはとても楽しく。
そして瞬く間に時間が過ぎていった。
「――あ、いけない。そろそろ花火の時間だ」
そんなことを言われたのはどのタイミングだっただろうか。
その声と同時に手を引かれて、僕は雑踏から離れていく。手の先、ミルクの方を向くと、彼女は少し早足に近くの茂みに向かっていた。
「どこに行くつもり?」
「ん、穴場だよ」
そのままミルクはずいずいと茂みの中へ入り込み、喧騒から徐々に離れていく。
どこへ行くつもりなのか……?
思わず不安になるが、数秒後にはその不安が解消された。
目の前に見えたのは立派な鐘楼であったからだ。塔のような建物の一番上に鐘が備え付けられている。ミルクはどこからか鍵束を取り出すと、その鐘楼の出入り口の戸を開けた。
中は薄暗い。だが、外の明かりが入り込んでいるのか歩けなくはなさそうだ。
「入って」
ミルクに言われて中へと足を踏み入れる。ひんやりとした空気が感じられる。
僕が辺りを見渡している間にミルクは再び施錠してにこりと笑いながら僕の隣に並んだ。
「とっておきの秘密基地だよ」
「へぇ……」
勝手に入っていいのだろうか。
そんなことを聞こうとして、やめた。彼女の無邪気な笑みを見てそれが無駄だと何となく分かったからだ。僕は少し諦め気味に苦笑してみせると、彼女の手を握ってゆっくりとその建物の階段を上っていく。
そして、鐘のある外の場所へ出ると――。
その瞬間、空気が呑まれたような音が響き渡った。
そう感じたのは何故だろう。
数秒後、それが花火だということに気づく。目の前に大きく爆ぜる花火。
それを見て、反射的に自分が身構えていたことにも、気づいた。
「……すっかり軍人ね、兄様」
どこかおかしそうな、でも諦めの入り混じったような声でミルクが言葉をつむぐ。
僕は身構えを解きながら苦笑を返した。
「悪い、ミルク。でも」
僕は甲高い音を響かせて空へと駆け上る閃光を見上げながら、彼女の手を握り締める。
「綺麗だ」
そして、空で爆ぜる。
それを二人で黙って見上げていたが、ふと気になって僕はミルクの顔を盗み見た。
彼女は少し笑顔で空を見上げていたが、その笑顔はどこか切なげで瞳は憂いを含んでいた。
「……ん、兄様、どうしたの?」
僕の視線にすぐ気づいて、ミルクは笑顔を見せる。
――ああ、なるほど。
僕はどこかつらく思いながらその頭に手を置いて言う。
「ああ……綺麗になったな。ミルク」
こいつは本当に気を遣いすぎる。
「え……突然どうしたの、兄様」
少し照れたように笑ってミルクが頭を振る。僕はしばらくその頭を撫でてからミルクと手を繋ぎ直した。そして将来のことを今一度強く思い直す。
あともう少しで卒業……そうすれば〈前線〉に赴いて父親の仇を取れる。
そうすれば僕もミルクも……重荷から解放されるはずだ。
だから、もう一歩……。
そう思う中、花火が終わったのか一瞬その空が静まり返る。
だが、すぐに一筋の閃光が空へと駆け上っていった。
ひゅるるるる…………。
「ねぇ、兄様」
それを見上げているとミルクが小さく言葉をつむいだ。
「ん?」
「もう卒業で……軍に入るんだよね」
視線をやれば、ミルクは目を伏せて静かに言葉を発している。僕は目的をはっきりさせるためにも強く言葉を押し出した。
「ああ……やっと親父の仇が取れる……」
「……おと……の……き……て……」
「ん?」
よく聞き取れなかった。僕が聞き返すと、ミルクは慌てた様子で顔を上げると笑みを見せた。
「な、何でもないっ! それより、兄様?」
閃光が迸るその一瞬前。一瞬の暗闇に隠された妹の顔。
それはやはり一瞬の閃光で照らされる。
その笑顔は今思い返しても。
「また今度、夏祭りに来ようね?」
どこか諦めたような、綺麗な笑顔だったっけ。
――どんっ!
ハヤブサです。
今、最も新しく愚話が始まる……!
ごめんなさい、ノゲを少しパクリました。
という訳で凄まじい愚話を繰り広げています、ハヤブサです。
ブログ見れば分かりますケド、だんだん人間辞めていっています。もしかしたら野宿するまで秒読みかもしれません。まぁ、それはさすがにないかな……。
頑張って小説書きますんでドン引きしないでくださいね……?




