姫巫女と舞うその戦場-9
「ん、私の進路希望? 葵くんと同じところだよ」
休憩室にて、翌日、チームで訓練しているときの休憩の際に葉桜に進路について訊ねれば、彼女はあっけらかんとした様子ですぐに答えをくれた。思わず拍子抜けする僕に葉桜は苦笑いを浮かべる。
「いずれにせよ、まだ私はいろいろいちゃもんをつけられているの。葵くんの庇護がないと私は仕事できないよ」
「……そうか? でも、少将がバックにいるから……」
「あの人、嫌い」
山本少将の話を出すと、葉桜は嫌な顔を浮かべて見せた。明るい彼女の顔に落ちた影に僕は眉を顰める。
「そういえば、葉桜はいつもあの人のことを毛嫌いしているわね」
真冬はベレッタをいじりながらちらりと僕に視線を寄越しながら言う。葉桜はこくんと頷いて嫌そうに唇をへの字に曲げて見せた。
「だって、あの人、何かしら隠しているじゃない?」
「ん? そうか?」
「葵くんの上官も教えてくれないしー。葵くんのお父さんの身内で上司でもあったんでしょ? お世話になったんだから会ってみたいのに」
「まぁ、無暗に口外するなと言われているしな。葉桜には教えても良いかもしれないケド、念のため、上官に聞いてからな」
僕はなだめる様に言うと、葉桜はむくれながらもこくんと頷いて見せた。何故か、真冬は勝ち誇ったような笑みを見せている。彼女は一応、僕の上官が誰か知っているのだ。
僕は手を伸ばして亜麻色の髪の少女の頭を撫でて機嫌を取っておくと、緋月が煤けた顔で僕達に合流してきた。彼女は休憩時間中も後輩たちの様子を見ていたのだ。
休憩室のソファーに腰を下ろしながら、緋月は、はあぁ、と長い溜息をこぼす。
「疲れるな……悪い、葵、コーヒー淹れてくれないか?」
「ん、別に構わんけど……」
ここに給湯室はない。水はあるが、コンロを使いに別の場所へ移動しなければならない。
そのことに言ってから気づいたのか、緋月はばつの悪そうな顔をして首を振った。
「悪い、気が利かなかったな。水で我慢しよう」
「いや、淹れてくるけど……」
「いや、大丈夫だ。とにかく、葵を含めて神風で話がある」
と言ってもそんな重苦しい話ではないがな、と前置きするのを聞きながら、僕は水をコップに汲んで用意してやった。緋月はそれを一気に飲み干すと、僕を手で示して言う。
「葵が少し休暇を取る。その調整を行わなくてはならない」
「ん? 葵くんが? 珍し」
「てっきり今年の夏季長期休暇も警備か訓練に回すかどっちかだと思ったのに」
葉桜と真冬が意外そうな顔を見せた。
それもそのはず、これまでの休暇は真冬の言う通り、この学び舎でずっと訓練に打ち込んでいた。学費の都合上、警備会社のバイトなどを引き受けていたりもした。
だから、当然そうすると思ってみんなスケジュールは組んでいるはずだ。
案の定、そうなのか、二人は手帳を開いてせっせと確認を始める。
「葵、休暇はいつ頃?」
「第三木曜日からその日曜日まで」
「また忙しい頃を……警備のバイト、もう入れちゃったわよ?」
「例年にしては随分早いな」
「は、知らないの? 葵のくせに。東国連合の会社で窃盗犯が入ってきて大変なのよ? だからどこも優秀な監視員を欲しがっているの」
「暗に自分を優秀だというか……」
思わず呆れる自分に真冬はうーんと唸り声を上げた。
「どーしてもどうにもならなそうな日があるんだけど……日曜日、無理?」
「いや、無理じゃないけど……」
もうそこではお祭りが終わっている。急いで帰れば間に合うはずだ。ゆっくり実家では泊まれないが……。
そのことを告げると申し訳なさそうに真冬は顔を俯かせて言った。
「ごめんなさい。葵。急がせちゃって」
「いや、気にしなくていいよ。珍しく素直だな、真冬」
「わ、私だって申し訳なく思うこともあるわよ! この無礼者!」
真っ赤になって拳を振りかぶる真冬から慌てて逃げると、葉桜は手帳を閉じて頷いて見せた。
「うん、私は大丈夫。それで葵くん、何しに行くの? 女たらし?」
「休暇まで使ってそんなことをする暇はない。というか、そんなことを言うな、真冬に殺される」
ベレッタにいつの間にか手を伸ばしていた真冬に警戒しながら僕が言うと、葉桜はくすくすと可笑しそうに笑って見せた。真冬は、ふぅ、と溜息をついてベレッタから手を離す。
僕はそれに安堵しながら葉桜に視線をやった。
「妹に会いに行くだけだよ……って何で真冬、ベレッタを抜くんだ!?」
「妹なんて、不潔っ!?」
「何で、だよっ!」
僕は慌てて射線から逃れようとするが、真冬は真っ赤な顔でベレッタの照準を合わせてくる。
が、緋月が苦笑いしながらその射線上に身体を割り込ませて真冬に諭すように声をかけた。
「大丈夫だ。真冬」
「せ、先輩?」
「葵は妹に対しては手を出さない。それは約束する」
緋月の声に真冬は半信半疑そうであったが、ベレッタを降ろしてくれた。
というか、自分の言葉は信用ないのね……。
僕は緋月の背に隠れて様子を伺いながら思わず苦笑を見せた。
「ホント、緋月にはかなわないな」
「当たり前だろ」
僕の言葉に、緋月は自信満々に笑ってみせるのだった。
ハヤブサです。
大分お待たせしました。
生活の変化などにやっと落ち着きを取り戻してきました。ぼちぼちゆっくり書いていきたいと思いますね。
何か違和感を覚えたら感想などでお願いします。今、リハビリ中です。
 




