表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
夏の道筋
81/138

姫巫女と舞うその戦場-7

「そんなことがあったなぁ」

 今更、前の高校を思い出したのは納屋の中で発見された某雑誌を見つけたからだ。

 中身を見ようか少し逡巡していると、瓦礫の向こうから妹の声が響き渡った。

「何か見つけたー? 兄様ー!」

「ん? ああ、いや、特には」

 彼女には見せない方が良いだろう。でも、後で少し見ておきたい。

 僕はそれを適当な場所に隠す様に置いてから、ミルクの方へと足を向けた。

 ここは納屋。溝口家の遺品などが収納してあり、様々な懐かしいものが山になっていた。基本的には棚がずらりと並んでおり、そこにいろんなアルバムや引っ越しの際にまとめた思い出の品などがある。

 それが何故、雪母さんの遺品の中にあったかは分からないが……。

「……あ、これ、零おじさんの」

「ん、ああ」

 ミルクの方へと行くと、そこには『零』と大きく書かれた扉付の棚があった。ミルクはそれを開けると、中にはぎっしりとアルバムがつまっていた。

 段毎に、年代順のラベル、そして妻と二人だけの写真なのか、妻たちの名前のラベルが貼られたアルバム、そして一番下の段には細々とした箱がある。

「えっと、兄様のお母さんは小夜さんだから……」

 小夜のアルバムを探していくミルク。その傍らに立ってラベルの名前を振り返る。

 小夜、クリスタル、雪、モカ、シャルロット、夜姫、蓮、恵、美奈……。

「あれ、父さんの奥さんって九人だったっけ?」

「そうじゃないの?」

 ミルクはきょとんとした顔を見せながら、すっと小夜のラベルが貼られたアルバムを一冊取ってめくり始める。僕はその棚を見返しながら、雪とモカの段の間に小物が詰め込んであるのを見て思わず首を傾げた。そしてその小物を探してみる。

 その小物の箱を開いてみれば、それは指輪やアクセサリーなど、親父が女性陣に渡したと思われるものばかりであった。

 多くはリングの内側に名前が刻んでいる。ということは。

「婚約指輪、か」

 一つ頷いてそれを戻していく。その傍らでミルクが、あ、と小さく声を上げながらアルバムを指さして見せる。

「これ、兄様じゃない?」

「お、あったか?」

 僕が横合いから覗き込むと、そこには親父がおっかなびっくりといった様子で生まれたばかりの僕を抱いている写真があった。脇に立つ母さんが可笑しそうに笑っている。

 ふと、ミルクが何かに気づいたようにすっと母さんの手元を示す。そこには小さな電子手帳が握られている。

「この手帳……確か、おじさんがいつも持っていたよね?」

「ああ……」

 言わんとしていることが分かって視線を棚に戻す。そこには手帳の影や形もない。

「どこかの荷物に紛れている可能性は……多分、ないな。親父、これは大切に持っていたから」

「でも、おじさん、結構几帳面でバックアップとかは残していたと思うけど」

「そのメモリーは……ないのは、おかしい、か」

 僕はそう呟きながらも、棚を一瞥すると溜息をついた。

「いずれにせよ、親父はもう関係ないさ。もしかしたら見ない方が良い真実があるのかもしれない」

「……ん、そうだね」

 ミルクは少し儚げに笑ってアルバムをもう二、三冊取り上げる。

 ここで見てみたいのだろう。その意図を汲んで、僕はそこらへんに転がっていた適当な箱を二個重ねて即席の椅子にした。そしてそれを二つ作ると、片方に僕は腰を下ろす。

 そしてミルクも自然な動作ですっと腰を下ろした。

 ……僕の膝の上に。

「……あの、ミルクさん?」

「何? 兄様」

 ミルクは少し笑みを浮かべながら小首を傾げて見せる。あどけない笑顔をしているが、その瞳は悪戯っぽく輝かせている。

 僕は肩を竦めると、何でもない、と告げてそのさらさらとした黒髪に手を載せた。

 そしてミルクの肩越しにアルバムに目を落とす。丁度、そこは溝口家が集結した写真が掲載されているページであった。親父の前で真紅姉さんと僕が手を繋いでいるのが見える。

「子供って何人いたか、覚えている? 兄様」

「ん? 真紅姉さんに自分、翡翠(ひすい)に、紫水晶(アメジスト)瑠璃(るり)柘榴(ざくろ)小豆(あずき)薄桜(うすざくら)浅葱(あさぎ)白藍(しらあい)紺碧(こんぺき)杜若(かきつばた)蜜柑(みかん)萌葱(もえぎ)桔梗(ききょう)蒲公英(たんぽぽ)金糸雀(かなりあ)向日葵(ひまわり)常盤(ときわ)天鵞絨(ビロード)……丁度、二十人だな」

「よく覚えているね……」

「親父が覚えていろ、って言っていた」

 何の意図があるかは分からないが、真紅姉さんと自分にはよく言い聞かせていたのだ。

 弟や妹をよく覚えておけ、と。

 守るならまだしも、なぜ覚えておけと……。

「あまり考え込まない方が良いよ。兄様」

 その思考を読み取ったのか、ミルクは明るい声を出して、幼い子供がやる様に僕の膝の上でぱたぱたと膝を動かして見せた。そして別のアルバムを取り上げる。

「そうだ、兄様は覚えている? あの夏祭りのこと」

「ん? ああ、軍事学園卒業する少し前のあの出来事だな……」

 ミルクは僕の言葉を聞きながらそっとアルバムを開く。その一枚の写真が目に入った瞬間、僕の記憶は一瞬にしてその日へとさかのぼっていく。


 そう、あれは確か、卒業前。

 寮に入った電話が切っ掛けで、僕は休みを利用して服部神社の夏祭りに出かけたのだった……。

ハヤブサです。


短いですが、ちょこっと重要だったりするかもしれないお話でした。

これから定例の回想シーンに移ります。


ちなみに、私、とうとう卒業いたしましたので、XIDを取得、ノクターンで濡れ場のシーンを公開することに致しました。

公開予定は3月15日20時です。興味のある大人の方はどうぞどうぞ。


さて、ミルク編は何かと神経使いますからねぇ……。

登場回数が少ない割に結構重要な要素を担っているという。


まぁ、頑張らせて頂きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ