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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
冬の道筋
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これから刻むキセキ-4

「少し、手間を食ったよ」

 緋月はバトルフォークで茂みを掻き分けながら笑って見せた。

「何と言ってもバトルフォークは火力が馬鹿にならないから、槍で戦う事になった。まぁ、思いっきりフルスイングしたら雑魚は潰れた訳だけど」

「あー……いや、何というかなぁ……」

 新庄は苦笑しながらドスドスと重たい音を立てて斜面を登っていく。僕はその手助けをしながら同じく苦笑を見せた。僕の背中には四本のライフル銃がすぐに抜けるようにしてあった。

 陣営はもう払ってある。残っているのは僕ら三人だけのはずだ。

 僕らは三日ほど潜伏し、哨戒の反乱兵を避けながらそいつらを尾行し、連中の拠点を掴んでいた。今からそのチェックメイトへと進む所である。

「……しかし」

 重装備兵の新庄は息も切らさず、慎重に斜面を進みながら視線を緋月に投げかける。緋月は振り返って、ん? と小首を傾げた。

「緋月は仕留められなかったのか?」

「敵をか? まぁ、真冬の救助を最優先していたからな。それに、あまりに敵の数が多くて厄介だったからな」

「む、そんなにか?」

「ああ、多数から一斉に銃弾が飛んできて、それが徐々に増えていくものだからさすがの私も仕留めるのを諦めた。まぁ、バトルフォークを炸裂させて半分は壊滅させたと思うが」

「平田も?」

「ああ、そこにはいなかった。用意周到だねッ!」

 そう言いながらバトルフォークを一閃する緋月。何故か生えているバオバブの木真っ二つになって道を空けた。というか、凄まじい轟音が辺りに響き渡って如何にもバレそうなんですけど。

「……さて、行くよ」

 緋月はその切り株に立って、弾倉を入れ替える。異様に重たい音に思わず僕は引きつり笑いを浮かべた。僕も連射性能に優れたRAN-200を装備し、新庄は機械義足を生やし、肩にバズーカ、左腕にガトリング砲、右に散弾銃(ショットガン)を構えている。また背後には火炎放射器や自動追尾システム付きのミサイルが搭載されている。重さに負けないために機械義足があるのだ。もっとも、新庄だったらそれに頼らず扱いこなせるだろうが。

 ここからは速さを尊ぶからな。

「速攻だ」「分かっている」「殿軍は任せろ」

 三人は口々に言うと、緋月、僕、新庄の順番に駆け出した。

 ……昔の、戦場をぶち抜いたときのように。


「はっ!」

 緋月の猛進は凄まじい。バトルフォークを巧みに操って進んでいく。すでに洞窟の中に入って派手に発砲は出来ないが、それでも強い。

 僕はその背後から援護射撃を行っていた。連射性に優れているため、相手に撃たせる前に撃つ事が出来る。緋月との息のあった戦闘は、真冬とは違って清々しいものでもあった。


 だが、違う。


 緋月は真冬に似た戦闘方法を使ってくれているが、それでも違った。

 もう、この僕は。

 真冬を抱いた僕は。

 真冬を選んだ僕は。


 もう、緋月とは戦えないんだ。


「くっ!」

 決定的なタイミングでズレが出た。鋭い音と共に腹を貫かれた兵士の額に銃弾が叩き込まれる。真冬に合わせてきた僕に合わせる緋月の一瞬の迷いが、同じ敵を攻撃する羽目になった。

 本当は、緋月が仕留めるはずだった敵がフリーとなってショットガンを構える。その引き金が引かれる刹那、背後から何かが駆け抜けてそいつを肉のミンチにした。

「気を抜くな! 二人とも!」

 背後から新庄の怒鳴り声が聞こえる。そう、一番大変なのは彼なのだ。退路を確保しながら背後の敵を懸念せねばならない。僕は舌打ちをすると、M24SWSを抜いた。

 反動に耐えきれるか心配だが、やるしかないか。

 僕は意識を集中させ、無理矢理、体内時間を引き延ばしていく。強引な行為に頭が割れそうになる。だが……徐々に、緋月の歩みが、僕の歩みが遅くなっていくのが分かる。次第に銃弾が見えるようになってきた。

 敵の存在を全てマーク。目標を確認。緋月の肩越しで銃弾をばらまき、M24SWSでは連射性の銃では届かない場所の敵を跳弾で射抜く……!

 僕は刮目すると、右手のRANで銃弾をばらまき、左手のSWSで天井に向けて連続で発砲する。ボルトアクションは駆ける際に振り上げる足を利用して行う。

「……はあぁっ!」

 思いっきり吐息をついた瞬間、体内時間が元通りに戻った。それと同時に奥から凄まじい悲鳴と戸惑いの声が上がる。

 緋月の歩みに戸惑いが混じるが、そのまま緋月は猛進する。

「おいッ! 溝口!」

 その代わり、背後の新庄の声が響いてきた。僕は頭痛を堪えながら笑って振り返る。

「何だ?」

「それは止めておけって葉桜から言われているだろう! 最近意図的に使っていないと思ったが、貴様、自殺するつもりか!?」

 新庄は火炎放射器で背後の敵を一掃しながら叫ぶ。身を案じる同胞に笑って答える。

「それは言い合う必要はないだろう? お前も多少なり無理しているクセに」

「だがな……!」

「二人とも、気を引き締めろ! 最奥だ!」

 緋月の声で僕は前方を向き直る。緋月はバトルフォークの穂先をこちらに向けた。つまり、砲口を敵に向けたという事だ。それと同時に緋月が足を踏ん張る。


 空気が飲まれたかのような弾ける音がその場を支配した。


 前方に固まっている敵をそれで一気に排除したらしい。なるほど、緋月らしいやり方だ。肉のクッションが大量にあれば崩落する危険性は減る。それでも崩落しないのは少しなりと丈夫なのだろうか。

 緋月はニヤリと笑いながら僕に目配せして最奥の開けた部分に飛び込んだ。

 僕も続いて飛び込み、それと同時に難を逃れた敵兵と辛うじて生きている兵士達にトドメを刺していった。新庄も続いて飛び込む頃には全てのトドメを刺し終えていた。

「……平田はどこだ」

「くっ……」

 緋月は敵兵の一人を拉致して居場所を恐喝して聞き出していた。敵兵は血反吐を吐きながら奥を指差す。そこには今、急ぎで作っているかと思しきほら穴があった。

 緋月はバトルフォークで一突きに心臓を突き抜くと、僕を振り返った。何か言おうと口を開く。


 その瞬間、多数から凄まじい勢いで僕達に降り注いだ。

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