銀色のキセキに感謝しよう-2
『辞令:溝口葵殿、本日付にて第七七遊撃隊に命ずる』
「……あれ? この部屋、本日付で遊撃隊の部屋になるの?」
翌日、僕と真冬は本部からいろいろ通達を受けた後に部屋へ戻ると、そこの扉には四人分の辞令の張り紙がされていた。同時に紅葉と峰岸さんがいろいろと荷物を抱えて運び込んでいる。
「ついでに、大尉もですよ」
峰岸さんはライフルケースを大量に抱えて、視線で扉を示す。
「あ……まぁ、そう書いてありますからね……」
「あ、私も」
「あれ? 真冬も? ってことは他に通達が受けているのは……」
「私と紅葉さんですよ。紅葉さんは葉桜さんのオペが終了して、身体に埋め込まれている爆弾が除去できたので本部から辞令が下りたんです。紅葉さんは仕官を望んだので、大尉の観察下にある事を条件に軍曹の身分と遊撃隊の所属を許されたのです」
「へぇ、で、指揮官が……」
「もちろん、大尉ですよ。私は曹長ですし。あ、そう言えば、真冬さんは副官でそれに合わせて順位に昇格致しました。私は上級曹長になりました」
「それはおめでとう」
「ありがとうございます。ちなみに緋月さんは中尉に昇格ですね。それで数日後に本土へ帰還するらしいです」
「え、緋月がいなくなるの?」
「ええ、その代わり、西国攻略のために山本中将が来られるとかで」
「あー、少将か……」
僕はぼんやりと威厳たっぷりの顎髭を垂らした山本勘助少将を思い出す。
僕が学園にいた際、病気がちな上司の代わりの後見人兼保護者で、孫にベタ甘の軍人である。僕にもよく計らって貰った記憶がある。その頃は少将だったのだ。
だが、その実、鬼軍人で元は自衛隊の部隊長だったとか。
地陸変動の際に軍をまとめ上げたのも彼で、上司が無事であったのも彼の成果である事が大きい。
他国が西国とつるんで背後を衝こうとした際、不確かな情報と当時の戦艦数体だけで足止めした。東国が敗走した際、一人で殿軍を努め、三師団を相手に山城で三日足止めし、一騎師団と言われた。
そのような伝説を持つ、鬼軍人が来るという事は……。
「西国攻め、かな」
「でしょうね。きっと」
峰岸さんが肩を竦め、ライフルを部屋へ担ぎ込む。紅葉は僕らが話している間にせっせと家具を入れ替えていた。
部屋に入ると、居間のベースは変わっていなかったが、観葉植物やスタンドが変わっており、新しく本棚とテレビとゲーム機が置いてあった。
「これは峰岸さんの趣味かな?」
「はい、ここで良いですか? もし駄目なら、私の部屋に移しますけど」
峰岸さんがちらっとそっちを見ながらライフルを葉桜の部屋だった二階の部屋に運び込む。僕はそれをしげしげと眺めて苦笑して見せた。
「良いんじゃないかな。みんなで遊んでみるかい?」
「え、良いんですか?」
「ああ、元々、第三八独立部隊はこんなゆるゆるだったし、遊撃隊だからこんなのでも良いんじゃないかな」
「でも、その独立部隊とは異なって死亡率は格段と上昇するでしょうねー。私も病気から立ち直りましたから、完全に白兵に復帰ですし。というか、この中で白兵じゃないのは大尉だけですよ」
僕はまたいそいそと荷物を運ぶべく外へ出て行く峰岸さんの背中を見つめながら思わず苦笑した。
ちなみに、彼女は元々、白兵だったが病気と怪我で一時的に後方支援部隊になっていた。だが、それも完全復帰したらしく、ライフルやショットガンなどを担ぎ込んできた。
尤も、今、担ぎ込んできているのはゲームソフトだが。
「よいしょ、っと。だから私達の死亡率は大尉に掛かっているんですからね? まぁ、狙撃の腕だけで少尉まで上り詰めた葵さんですから大丈夫でしょうけど……あ、ここにソフト置きますね?」
「あ、良いけど……なんか責任重大になったなぁ……」
「真冬さん可愛さに私の方の注意を散漫にしないで下さいよ」
「いや、しないけど……」
僕はさっきから黙り込んでテレビの脇に積み重なっていくソフトを一品一品確かめている真冬をちらっと見ながら本棚にゲームソフトを突っ込んでいく峰岸さんに訊ねた。
「びみょーに僕達の仲を知っているような台詞を言いますね。峰岸さん」
「ん? そりゃあ、誰でも知っていると思いますよ? ずっと前から溝口葵は誰を選ぶのか、という賭けが流行っていまして、今、結果が出たって事で大騒ぎになっていますよ。私は大穴を当てさせて頂きました。てへっ」
峰岸さんは舌を突き出して可愛らしく微笑む。そして、峰岸さんを見た状態で真冬は固まっていた。
「え……そんな賭け事が……?」
「はい、新庄准尉や榊原中佐は緋月中尉にほとんどの給料をかけていたようですが」
「……マジか……」
「ちなみに山本中将は葉桜さんに、鈴谷軍曹は紅葉さんに、ちなみに西国のあの死んだ平田ですけど、懐から海松久さんに賭けていたと思しき紙が出て来ました」
「いや、何でだよ……てか、僕に関わったほとんどの人が賭けていたのかよ……じゃあ、もしかして、僕の上官も……?」
「あ、はい、賭けていたみたいですけどよく分からないですね」
峰岸さんはふぅ、とソファーに腰掛けて一息ついている。真冬は何故かそわそわしているので、僕はとりあえずキッチンに向かうこととした。
優雅なティータイム。
在庫は残っていたので、紅茶と洋菓子を振る舞って新生・遊撃隊の全員でお茶していた。
話を聞くに、峰岸さんはショットガンやライフルなどクセのある銃が得意で、切り詰め狙撃銃が主な獲物らしい。
紅葉は柳葉刀を右に、左にベレッタという両利きの良さを遺憾なく発揮できる武器を装備して挑む、とか。この二人が前衛を主に努めるらしい。
中距離は様々な銃器を使いこなせる真冬が担当。後方支援は僕に一任。
そんな感じになりそうだ。
「峰岸さんは特攻とかに向きそうだよなー」
「紅葉さんは潜入に向きそうですよね。応用性があります」
「いや、応用性で言ったら真冬だろうな。きっちりとした銃器ならどんなのでも使いこなせる。まぁ、逆に切り詰めとか弄った類が得意なのは峰岸さんに当たるのかな?」
「そうですねー。いや、意外に真冬さんも切り詰めもいけるんじゃないですか?」
「私は無理よ。あまり筋力がないもの。ナイフとかの戦闘術も技術に頼っている面が多いし」
「そうなんですか……というか」
そこで峰岸さんは会話を切って半眼になる。
「何で優雅なティータイムなのにこんな物騒な話になるんですか? 私の所属していた所はもうちょっと別な話になりますよ? 恋バナとか、アニメとか、ゲームとか」
「戦場なのにそんな話をしているのは凄いと思うけど」
「そうですかね?」
「そもそも」
そこで真冬がティーカップを口に運びながら、ぽつりと口にする。
「葵は元々復讐のために軍人になったからそんな娯楽には興味がないし、私も同じようなもの。紅葉に至っては敵国の工作員でついさっきまでカツ丼も食べた事がなかったのよ? それでその手の話をしろ、という方が……」
「確かに。だから専ら学校では一人になりがちだったな」
その会話を聞いていた峰岸さんは頭を抱える。
「……そうですよね……訓練しかやることがないから、先輩達は首席になれるんですよね……しかも、大尉に至ってはあの超人が集まった時代を勝ち抜いてきたじゃないですか」
「超人? 緋月とか新庄?」
「それもそうですけど……他にもいましたよ? 化学兵器の田沼とか、ミサイル使いの花道とか、手榴弾の仙石とか」
「あー……いや、いたけど、確か田沼は妙な化学薬品で顔がゾンビみたいになって退学したって話しだし、花道は成績不振で留年したらしいし、仙石に至っては手榴弾抱えて爆死したからなぁ……」
その他、様々な強者がいた記憶もあるが、趣味や性格、そして扱っている物の異色さで連中はまともに勉学していった試しがない。
同時砲撃と謳われた新庄ですら、その背中に大きな火傷を負うようなことをしている。
僕は肩を竦めるとティーカップの中身を飲み干して立ち上がった。
「じゃ、僕は部屋に戻るよ」
「あ、私も」
真冬もすっと席を立つ。そしてそれを合図に各々は自分の部屋へと戻ろうと動き出す。が、真冬が梯子を上がろうとした所で、峰岸さんが慌てて声を掛けた。
「あ、すみません、准尉の部屋は下です」
「え、下って……葵の部屋しかないけど」
戸惑ったような表情の真冬。僕は嫌な予感を感じながら、自室の扉を開ける。
そこは僕の部屋とあまり変わっていなかった。しかし、明らかに変わった点が一つ。
ベッドが何故かダブルベッドになっていることだ。
「……おい待て、峰岸」
「何か粗暴な単語になっていますね。どうかしましたか?」
「いや、何故にダブルベッド……?」
「そりゃあ……」
ニヤリと峰岸さん……いや、峰岸は女性らしかぬ下世話な笑みを浮かべた。
「今夜はお楽しみだから?」
「ふ・ざ・け・る」
「なっ!」
僕の狙撃銃と真冬の拳銃が火を噴き、峰岸のゲームがいくつかお釈迦になったのは言うまでもない。




