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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
冬の道筋
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銀色のキセキに感謝しよう-1

前回の後書きにも付け加えましたが、XID取得の制限に引っ掛かりまして、ノクターン投稿が不可となってしまいました。

申し訳ありません。

よって、この話は濡れ場後のお話となります。

 ……カラン、カラン、カラン。


 竹筒がぶつかり合うような音に、僕らは目を覚ました。

 抱き合って寝ていたがために、お互い裸だが目は覚めている。顔を見合わせて頷き合うと、各々の獲物を取って息を潜めた。

 忍び足で覗き窓に近づき、ライフルを構える。

 そのスコープ越しに見えたのは、東軍の軍服を着た兵士が数人……。

「味方だ。姿は」

「ん」

 真冬は僕に視線を向けてコクンと頷くと少し警戒を解く。が、次の瞬間、急激に顔を紅く染め上げた。

「あああああ、貴方、服来なさいよっ!」

「……それを言うなら、真冬もだと思うけど」

「……ッ! み、見ないでっ!」

 自分の胸と秘所を隠し、真っ赤な顔で喚く。目は潤んでおり、口から吐き出される息は切なげだ。またあまりに胸を押さえつけているのでその形が歪み、何ともエロスティック。

 ……やば、可愛い。

 僕は思わず下腹部に血が集中するのを必死に抑え込んで、笑みを繕った。

「とりあえず、互いに服を着るか」


 先程の騒ぎが聞こえていたのかどうか。

 服を着替え終わったときにはすでに兵士達がこの小屋を見つけ、木陰に隠れながら様子を伺っていた。

 僕は狙撃銃を担ぎ、手を上げて拠点から姿を見せると、兵士達は頷き合ってすぐに木陰から姿を現した。

「溝口葵大尉とお見受けします」

「如何にも。そちらは?」

 僕が答えると、兵士の一人が身分証明書を取りだして掲げた。間違いなく味方のものだ。だが、念のため、質問を行っておく。

「確認。我が小隊の衛生兵の名前は?」

「見崎葉桜兵長であります」

 ……一応、味方か? 

 他にも二つほど質問を行い、他の兵士からも正答を貰うと僕は拠点の中に合図し、真冬と共に拠点から出て地上に降り立った。

 僕らの姿を確認すると、兵士達はびしっと敬礼を決めた。

「ご無事で何よりであります」

「ああ、戦況は?」

「大尉が森へ姿を眩ませた後、西国は兵の半分を森へと差し向けました。私共は東国側に向けられた兵を撃破の後、ゲリラ戦で森の中の西国軍も撃破しつつ、捜索し、発見した次第であります!」

「なるほど、ね」

 僕は情報を確認すると、狙撃銃を担ぎ直しながら真冬をちらっと見る。彼女もしっかりと荷物を担いでおり、準備は万端そうだ。

「よし、じゃあ本部に撤退する……ので良いのかな? 別の命令は受けている?」

「いえ、大尉達を発見した場合、可及的速やかに本部へ連絡し、その身柄を本部に送るように、と」

「身柄を……って、犯罪者じゃあるまいし……」

「いえ……それが、本土から嫌疑がかけられていまして……」

 兵士が声を潜めてぼそぼそと言う。

「平田射殺の容疑がかけられているのです。お二人には」

「……そうか。全く、僕達がやるはずないのに何を仰るのか」

 僕は首を竦めて真冬に笑いかけると、真冬もくすりと上品そうな笑みを見せた。

 ……うわぁ、あまり似合わない。

「……葵、何か失礼なこと考えた?」

「いいえ、何でもありませんよ、お姫様」

 僕は嘆息すると、兵士に手で合図した。

「行こう。朝とはいえ、さっさと森を抜けないと夜になっちまいそうだ。君達もミイラ取りがミイラになることは避けたいだろ?」

「そうですね」

 兵士らは苦笑して頷くと、先導して歩き始めた。その後ろを僕と真冬がついて行く。

 その真冬の顔はさっきとは一転、不安そうな色を持っている。

 僕はさり気なく身を寄せると、その手をそっと握った。

 真冬が驚いたように目を見開かせる。が、すぐにそっぽを向いて呟いた。

「……バカ」

 ぎゅっと握り返すその手は温かく、声色は甘えるような気がしたのは、僕のうぬぼれではないはずだ。


 昼を回った頃、僕達は森を抜け、そこで待機していた装甲車に乗って要塞へと帰還を果たした。

 そして、要塞に入る前に簡易検査を受けて、そこで中に入ると……。


「葵くんっ!」

「うわぁっ」

 そこで出迎えてくれたのは、心配そうな顔をした葉桜と明らかに作り笑いをしている緋月であった。

 胸に飛びついてきた葉桜を抱き留めると、葉桜は涙目でペタペタと僕の胸に触ってきた。

「大丈夫!? 異常はない!? あそこ、ハヴとかマムシとか出るし……」

「だ、大丈夫だから! むしろ、噛まれたのは真冬だけだから……」

「真冬だったら大丈夫でしょ?」

「それどういう意味よ!」

「嘘だよ。てへっ」

 葉桜は可愛らしく舌を突き出すと、すぐに真冬の方へと駆け寄る。

「一応、葵には簡易血清を打って貰ったけど……」

「んー……一応、大丈夫かな。毒が回っている様子もないし……」

「葉桜」

 そこで初めて、緋月が口を開く。作り笑いを保ちすぎたせいか、ひくひくと口角が揺れている。その目には明らか、危険な色が宿っているのが分かり、思わず悪寒が走った。

「一応、検査しておくと良い。万が一という事態が起こったらいけないだろう」

「んー、大丈夫だと思うけど……緋月が言うなら、そうする」

 葉桜は少し考え込んでいたが頷いて、真冬の手を引いて要塞の医務室へと連れて行く。それを見届けた後、にっこりと緋月は笑みを浮かべる。だが、目は笑っていない。怖い。

「さ、葵、ちょっと聞きたい事があるから、良いかな」

「……了、解です」

 拒否権は、なさそうだ。


 緋月は宿舎の僕らの部屋に僕の手を掴んで引っ張っていくと、部屋の鍵をしっかりと閉めてから、ふぅ、と息をつく。

「まぁ、まずは葵、ソファーにでも座れ」

「お、おう」

 僕は頷いて中へ入っていくと、そこには紅葉と新庄がソファーの傍に立っていた。新庄はよっ、と手を振り、紅葉は軽く頭を垂れて挨拶した。

「……二人は座らないのか?」

「お前が座ったら座るさ」

 新庄は肩を竦めて言う。紅葉もコクンと頷いて見せた。

 僕は何となく居心地が悪く感じながらもソファーに腰を下ろすと、紅葉はその隣に、そして新庄は紅葉の正面に腰を下ろした。そして、緋月が新庄の隣、つまり僕の真向かいに腰を下ろす。

「……さて、葵、少々訊ねておきたいのだが」

「何を?」

「平田を撃ったのは、真冬か?」

「さて、何の事やら」

 僕がすっとぼけると、唐突にぬっと隣から手が伸びて僕の手首を掴んだ。驚いて視線を動かすと、紅葉が無表情で僕の手首で脈を取っていた。

 向かいの緋月が肩を竦めて言う。

「紅葉は工作員(エージェント)だ。この指先の感覚は機械並み。嘘は脈拍で出る。動揺もだ。どうだ? 紅葉」

「……正常。動揺なし」

「まぁ、さっき紅葉に腕を掴まれて若干驚いたけどな」

「その分は別に脈が乱れた」

「あっそ、というか、紅葉は緋月の犬に成り下がったのか?」

「純粋に貴方に興味があっただけ」

「そすか」

 すると、僕の様子を見た新庄はふっと笑みを漏らして言う。

「溝口はある程度予想していたようだな。反応から伺うに」

「……まぁ、葵は人望もある。事前に兵達から聞き出していたのかもな。極秘事項でも喋る奴はいるかもしれん」

 緋月はため息をつくと、僕の顔を見つめた。

「正直、この部屋には三人しかいないし、盗聴などの心配はないぞ? だから正直に話してくれ。平田を撃ったのは、真冬か?」

「知らんと言っている」

「脈、正常」

 紅葉は淡々と告げる。どうやら、嘘の反応は脈に出なかったらしい。

 それもそのはずだ。僕は上司が上司だけに、高度な情報機密訓練を受けている。それこそ、紅葉のレベルまでに。その気になれば諜報だって思うがままである。

 まぁ、相手のレベルにも寄るのだが。

 緋月はじっと僕の様子を眺め、そしてため息をついた。

「ならば仕方がない。こうなれば、二人を罰することは諦めよう。……が、罰するべき人間はいるな」

「うむ、すぐに調べよう」

 新庄は重々しく頷き、立ち上がる。僕は眉を顰めて訊ねた。

「誰をだ?」

「軍律違反を犯した者。すなわち、箝口令を破って葵に告げ口した誰か、ということになるな」

「……ッ!」

 つまりは、先程の兵士を罰しようと言うのか!

 確かに僕を連行してきたのは八人ほどの兵士達だった。だから誰を割り出すのは容易い。だが……。

「脈が、乱れている」

「あ、当たり前だろ。罰せられるべきでない人間が罰せられるのだから」

「果たしてそうかな?」

 緋月は可笑しそうにくすくすと笑う。

「まぁ、言い訳は大体、思いつく。『兵士から聞いていなくてもこの話は全く知らなかったんだから動揺するはず無いだろう』とかな。だが、残念ながら私の知っている葵はそんな奴じゃない。大切な人、まぁ、友人が疑われたらまず動揺してその質問を疑い返し、そして事態を究明しようとする。それが私の知っている葵だ。つまり、動揺しなかった時点で、葵は致命的なミスをしていたんだよ。さて、どうするかな? 正直に吐くか、それとも親切な兵士を売るか」

「……ふぅ」

 僕は嘆息すると、苦笑いを思わず漏らした。

「大体、緋月に隠し事をする方が間違っているのかもな。緋月にはいつも敵わない」

「ふん、それぐらい分かっていたと思ったが」

 緋月はつまらなさそうに答えると、視線で僕に答えを促す。

 だが、僕は笑って首を振った。

「僕からは何も言わない。だが言うならば、真冬が殺したとするならば、僕が殺したと言うだろう」

「……どうするんだ?」

 新庄は立ったまま、緋月を見下す。緋月は長い事僕を見つめていたが、嘆息して首を振った。

「私が上に報告しておく。西国の反逆者が撃ったのだろうと」

「不自然ではないか?」

「そこは親愛なるお父上のご威光をお借りして、だな」

 緋月は肩を竦めて立ち上がる。そして僕を見つめて笑みを浮かべる。それはどこか諦観の入り交じった笑みであった。

「その決断で、後悔しないんだな?」

「もちろんだ」


 思えば、恐らく緋月は全て悟っていたのだろう。平田が撃ち殺された時点で。

 あの分岐点はもしかしたら、僕の運命を左右していたのかも……。

 いや。僕は首を振ると部屋を出て行く二人を見つめた。


 僕は真冬を選んだ。それが大事なんだ……。


「脈拍、正常。落ち着いている」

 未だに手首に指を添えている紅葉が僕の顔を覗き込む。

 僕はその指を優しく外しながら、笑った。

「決断したからな」

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