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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
冬の道筋
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硝煙漂うその道筋-2

「それにしても、僕がよくここに来ると分かったな」

「先輩の通信が入ってから葵がどう来るか計算しておいたから」

 僕が真冬の西尾狙撃銃で辺りを警戒しながら訊ねると、真冬はカチャカチャと僕のM24SWSを解体して整備しながら答えてくれる。

 その真冬をちらっと見ながら僕は笑った。

「なるほど、信じてくれていたんだな」

「誰が貴方なんかを。貴方の軍人としての才能を買ってあげただけよ」

「それって僕を買ってくれているってことだよね?」

「……ふん」

 真冬は銃身をクリーニングしながら顔を背ける。そんな彼女を可愛く思いながら、僕は視線を外に戻す。外には人っ子一人通らない。

「……いつ、救援が来るかな」

「分からないけど。でも、森の外で交戦しているのは確かだと思うわ」

「まぁ、そうだけど……西国の方が多分、戦力はあるよな?」

「確かに。でも、取引の相手に貴方を指名してきたという事は、貴方に価値があるということ。つまりは西国は貴方を確保しようと躍起になってこの森を狩ろうとするかも知れないわね」

「つまり、緋月と新庄がそれを読んでいるとすれば……」

「この森の出入口から少し入った辺りに兵を伏せてゲリラ戦に持ち込んでいる、というのが筋ね」

「さすが真冬。戦闘の読みは鋭いな」

「これぐらい読めなさいよ」

 口ではそう言いながらも、僕の褒め言葉に真冬は少し声を弾ませる。そして清掃を終えたライフルを組み立て直すと僕にそれを差し出してくれた。

 僕はそれを軽く確認してから、ケースにしまうとインカムを取って通信を確認する。

 が、雑音が入るだけで音は入ってこない。

 森の中だから仕方ないかも知れないけど。

 僕は吐息を漏らすと、真冬に視線を向けると彼女は妙にそわそわしているこに気付いた。僕をちらちらと見つめ、時折切なげな視線を向けてくる。

 ……は、もしかして。

「どうした、真冬。トイレか?」

「馬鹿じゃないの? デリカシー無いの?」

 僕の言葉に真冬は冷え切った視線を向けてくる。その突き刺さるような視線に思わず僕は言葉を詰まらせると、ぴくぴくと右眉を細かく震えさせながら彼女はため息をついた。

「……貴方に期待した方が馬鹿だったわ。行きましょ」

「え、どこに?」

「罠を張りに。いくつかセンサーを張っておけばこんな見張りをしなくて済むわ。そんなことも気が回らないの? さすが葵ね」

「……耳が痛いです」

 僕は苦笑しながら立ち上がる。真冬も立ち上がると、部屋の隅の箱からいくつかのセンサーを取り出す。そしていくつかを僕に放るとすぐに拠点から抜け出す。

 僕もその後に続くと、真冬は「東の方をお願い」と言ってすぐに西の方に向かってしまった。

「何か怒らせるようなこと、言ったかな……?」

 僕は思わず頬を掻きながら呟くと、東方向に足を向けた。


 センサーを隈無く張り巡らせ、念のため、竹で作った鳴子を設置してから拠点に戻ると、真冬は拠点の下でたき火を焚いていた。

 煙が出ないよう乾いた木々を集めて焚いている。気が付けばもう夕暮れだ。

 僕はその傍にいくと、真冬は顔を上げずに火をこねながら言う。

「……少し、暖まりなさい。夜は冷えるわよ」

「……ああ、そうだな」

 僕は少し躊躇して、少女の隣に腰を下ろす。彼女は少し驚いたようにそっと視線を持ち上げるが、すぐに手元に視線を戻す。

 銀髪が揺れる炎を反射して美しく見える。

 熱心に火を突く様子を見ながら、僕は微笑みを口元に浮かべた。

「……何よ」

「いや」

「言いなさいよ」

「……んじゃあ言うけど」

 僕はこちらを向いて拗ねたように唇を突き出す真冬の顔を見て言う。

「綺麗だな、って」

「な……っ!」

「たき火に浮かび上がる感じがたまらないね」

「なななな、何を言っているのかさっぱり分からないわっ!」

 突然、真冬は慌てた口調でそう言うと火の中にぐさぐさと棒を突き刺す。滅多にない取り乱した光景に僕は思わず戸惑った。

「え、いや……思った事を言っただけだけど」

「お、お世辞としてはまぁまぁね!」

「お世辞でもないって」

「そそそそ、そんなはずないじゃないっ!」

「いや、何でそんなはずないんだよ」

 僕はごめんよ、と断ってからその真冬の髪の毛に手を伸ばす。さらさらとした絹の糸のような銀髪が手に心地よい。

 その感触に、う、と真冬は怯えた猫のように肩を竦める。その頬を軽く撫でながら笑ってみせた。

「こんな綺麗な銀髪があるのに。清楚、怜悧な雰囲気にたき火の明るみがキミの優しさを浮き彫りにさせているみたいでさ」

「……こんな、髪の毛。好きじゃないのに」

 真冬は自分の髪の毛に触れて自信なさげに苦笑する。

「だって、葵は黒髪が好きなんでしょう?」

「どうしてそう言えるんだ?」

「先輩の髪の毛をよく見ているから……」

「ああ、緋月のは綺麗だよな。でも、それはそれ、これはこれだ」

 僕はそう言いながらその銀髪を慈しむように撫でる。

「これも、悪くない」

「……そう。じゃあ、私が黒髪だったらどうだった……の?」

「黒髪? そうだな……」

 僕は少し想像してみて小首を傾げた。

 凛とした感じの少女が黒髪を携えて……ついでに文庫本なんかを持っていたら暁には……。

「……すげえ違和感」

「何よ、それ」

「いや、優等生っぽい感じがするからさ。真冬は天真爛漫……じゃないけど、自由奔放な感じが良いんだからさ」

「失礼ね。私も元々は黒髪だったのよ」

 むすっとして真冬はたき火を弄る。動揺は収まっていたが、彼女の顔が紅いのは多分、たき火のせいだけじゃないはずだ。

「そうなのか?」

「そうよ。こんな髪の毛になったのは薬のせいなのに」

「薬?」

「危険な薬ではないけど、色素異常が起こってしまう薬なの。昔、その薬を使わなきゃ行けない病気になってね」

 真冬が儚げに笑う。そして髪の毛を少し弄った。

「こんな髪……目立つだけで好きじゃなかったけどね」

「そうか? 綺麗だと思うけど。現にこの髪の色じゃなければ、学園で真冬に声をかけていなかったと思うけどなぁ」

「……そうなんだ」

 真冬がこちらを向いて意外そうに目を見開く。僕は苦笑して頷いた。

「ほら、あの文化祭のちょっと前……あの冬になる前さ」

「あー……」


 二人の記憶は、過去へと遡って行く……。

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