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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
冬の道筋
32/138

硝煙漂うその道筋-1

「僕の選択は……」


 次の瞬間、僕が続きの言葉を放つ前に響いてきたのは、微かな銃声であった。

 狙撃手としての耳がその音源を突き止める。後方八時の方向、距離、約五千フィート……。

 その距離を割り出した瞬間、平田雅典の目が見開かれる。

「な……!」

「……よくやった」

 僕はインカムを一瞬、彼女の(・・・)チャンネルに切り替えて呟くと同時に、ぐらりと彼の身体が揺らぎ、地面に倒れる。

 その額には風穴が空いており、平田の絶命を意味する物としてこれ以上雄弁なものはなかった。

 約一キロ半からの射撃……さすがだ。

 僕はすぐに腰に携えてあった緊急事態の信号弾を取りだし、空に放るとすぐに反転して平田の死体に背を向けて駆け出す。

 一瞬の空白、自分の地を蹴る音だけが大地に響く。

 だが、すぐに東国、西国、同時に動いた。

 背後から警鐘が鳴り響くと同時に、インカムに通信が入った。

『こ、こちら、峰岸! 強行部隊出動を! 溝口中尉は溝口大尉を救助して下さい!』

『こちら、新庄! 了解した! だが、誰が平田を射殺した!?』

『こちら、榊原! そんなことはどうでも良い! とにかく西国は兵を伏せていたらしい! 葵、走るんだ! 今、そっちにヘリが向かっている!』

「こちら、溝口! 了解した!」

 僕は返答しながら視線を正面に向けると、ヘリが騒音を立ててこちらに接近してきていた。しかし、別に轟音が響いている。

 怪訝に思って僕は鏡を取りだして背後の様子を伺う。背後からは何台かのバイクが現れ、僕を追尾し始めていた。その肩にあるのは……RPG……。

 まずい……!

「ミルク! 待避しろ! RPGだ!」

『え、兄様、何っ!?』

 インカムに雑音が混じる。接続不良か!

 一か八か。僕は焦りながら退避命令の信号弾に手をかけ、それを引き抜いた。


 その瞬間、背後から致命的な音が聞こえた。


 どういう訳か、僕の耳にはそれが打ち上げ花火の音に聞こえる。


 ひゅるるるる…………。


『ねぇ、兄様』

『ん?』

 軍事学校最終学年のときに兄妹で行った、夏祭りは。

『もう卒業で……軍に入るんだよね』

『ああ……やっと親父の仇が取れる……』

『……お父さんの仇なんて……』

『ん?』

『な、何でもないっ! それより、兄様?』


 閃光が迸るその一瞬前。一瞬の暗闇に隠された妹の顔。

 それはどんな笑顔だっただろうか。

 ああ、確かそれは花火の光に照らされた……。


 ああ、今、ミルクが操縦桿を握って浮かべているような……。


『また今度、夏祭りに来ようね?』


 どこか諦めたような、綺麗な笑顔だったっけ。


 ……どんっ!


 爆ぜた。

 花火のように美しく、それは爆ぜてしまった。

 爆風に呷られながら、僕は呆然とそれを眺める。破片が、頬を切り、爆風が指先から信号弾をもぎ取って地面へと叩きつける。

 そんな中、胸に何かが押しつけられるように当たった。

 爆風で吹き飛んできたのだろうが、今の僕にはそうとしか思う事しか出来なかった。


 なぜならば、その何かというのは、ミルクが愛用していた長剣だったからだ。


「……ははっ」

 僕の口からは乾いた笑いが漏れた。

 何だ、仇を取っても、また仇がいるじゃないか。

 僕はその長剣を腰のベルトに突っ込むと、ライフルケースに手をやって中からM24SWSを取りだした。

 ミルクがくれたケース、ミルクが整備してくれたライフル……。

 全てが出来過ぎているように思えた。

「ふざけんなよ……」

 僕は奥歯を噛みしめながらそのライフルを立ったままの姿勢で構える。スタンドも何も使わない。そのまま、僕は狙いを定める。

『無茶だ! 葵ッ! 止めろッ! 第一、ボルトアクションの銃でどうやってこんな大多数を……』

「そんなの関係ないんだよ。緋月」

 僕は機会越しに耳元で喚く緋月に苦笑で返した。

「これはやりたいから、殺るんだ」

 そして引き金を引く。

 狙撃銃ならではの反動が身体を襲う。だが、全身を使って押さえ込むとボルトアクションで次弾を装填、すぐにまた発砲する。

 一台、また一台と正確に燃料タンクを撃ち抜き、一台一台爆破していく。

 だが、どんなに早くやっても拳銃並み、ましてやマシンガンのように連射など出来ない。

「くっ……!」

 さすがに猛スピードで突っ込んでくるバイク。全て撃ち落としきれず、三台のバイクが射程範囲に入ってしまう。

 バイクの舵を取る兵士達は一斉にその手に持つ機関銃を持ち上げた。

 が、次の瞬間、一人の兵士がバランスを崩して転倒した。さらにまた一台。

 違う、これは……。

 僕は続けざまにボトルアクションをして構えながら確信した。

 援護射撃で撃ち落としてくれているのだ。思わず僕は叫ぶ。

「援護射撃、感謝する!」

『援護射撃……? 誰かが撃っているのか! では、葵、敵のバイクは奪えるか!?』

 緋月の通信に、僕は視線を彷徨わせると援護射撃で精密に運転者だけ吹き飛ばされたバイクがこっちに猛進している事に気付いた。

 僕は上手くそれを掴んで飛び乗ると、インカムに叫ぶ。

「手に入った!」

『葵くん、こちら側では新庄の部隊が敵の伏兵と交戦している! そこを通って無事に抜けるのは難しい! 台地の脇に森がある! そこに身を隠してくれ! 部隊が片づき次第、救援に向かう!』

「了解!」

 僕は参謀室で見た地図を思い浮かべてバイクのハンドルを切る。そして目一杯アクセルを噴かせた。


 何とか追撃を振り切り、森の中へと入る。

 ここは数十日前に軍事演習で訪れた森だ。ある程度、土地勘はある。

 派手な音がするバイクは乗り捨て、木々が生い茂る中を駆けていく。

 こんな密林だと狙撃銃は役に立たない。役に立ちそうなのは普段持ち歩いているサバイバルセット、そして靴に隠しポケットに仕込んであるナイフ、そしてライフルケースにしまってあった拳銃である。

 その拳銃を今、持ち歩いているがやはり心許ない。

 とにかく、拠点を見つけねば。

 僕は辺りを見渡し、大して変わらない光景を眺め、記憶を漁る。ここでは……ないな。

 しかし、完璧に見覚えがないとなると、ここいらは僕がいた拠点とは違うのかも知れない。あそこは割と狙撃に適した場所であったのだが……。

 僕はふぅ、と息をついて視線を落とすと、目の前の木の根本で蛇が蠢いているのが見えた。よく見ると、ハヴだ。

「ん……」

 危険だからペシリとそいつの頭を落ちていた棒で叩いて殺しておく。

 そしてそれを摘み上げると、ふと、葉桜の言葉を思い出した。


『いや、軍事演習サバイバルで蛇を食うのは分かるが……生で?』

『うん、躍り食い』

『あ、ハヴだったよ』


 そうだ、彼女らも軍事演習に参加していたのだ。

 ハヴは先程までは見かけなかった。そもそも、ここらで繁殖には適さないはず……何か、何かタネがあるはずだ……。

 僕は辺りを見渡し、ふと森の合間から白い蒸気があるのが見えた。

「温泉……か、何かか?」

 奇妙な話だが、地陸変動でこの辺の地図は大幅に変わった。別段、温泉が湧いていても可笑しくはない。

 つまり、あそこで温泉が湧いているからそこ付近の温暖な場所でハヴが繁殖している……と、なれば。

 僕は辺りを見渡し、見えにくく、また相手から先手を取れそうな場所に限定して探していく。丁度、近くにそのような場所がありそうだ。

 拳銃を構え、敵が伏せている可能性も考えて慎重に進む。

 すると、足下にちゃり、と軽い金属音が響く。視線を降ろすと、そこにはいくつかの薬莢がばらまかれていた。見れば拭き取ったと思しき血痕まである。

 すでにここに伏兵がいて戦闘が行われた、と考えるのが自然か。僕はそう思いながら薬莢を拾い上げて、まじまじと眺めてニヤリと笑った。

 相変わらずクールだな。

 そして辺りを見渡し、発見する。巨大なブナの枝の上に据え付けられた小屋を。

 それを見上げた丁度そのとき、カチカチと上から光が点滅する。モールス信号で『アガレ』と伝えてきている。その数秒後には、小屋から縄が垂れてきた。

 僕は近寄るとその縄を掴んで、腕に力だけでその縄を登っていく。

「よ、っと」

 そして、小屋に這い登り切ると、そこには呆れた顔の少女が腰に手を当てて立っていた。

「遅い。何やっていたのよ」

「悪い」

 僕は小屋の中に四つんばいで入ると、その場に腰を下ろして息をついた。そうして息を整えた後に、彼女の顔を見上げた。


「助かった、真冬」

「ふん」


 いつもの照れ隠しのように顔を背けると、腰を下ろしながらその少女、真冬は手をこちらに突き出した。

「ライフル、寄越しなさい。軽く整備してあげるから」

「あいよ」

 僕は苦笑しながらライフルケースを渡し、ようやく心から安堵するのであった。

ハヤブサです。


アンケート結果発表!

第一位、真冬(四票)

第二位、緋月(二票)

第三位、海松久(一票)


ということで、真冬さんの大逆転で、真冬ルートに入らせて頂きます!

実は緋月ルートの原稿を用意していたんですけど、まさかの差し替えになってしまいましたね……。


さて、乱戦となった戦場、葵と真冬は待避して森の中に潜伏する。

今後はどう展開しましょうか……!

今後共々よろしくお願い致します!

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