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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
四季を越えた道筋
132/138

信頼と絆が紡ぐ覇道―1

「僕の選択は……それを受けよう、と思う」


 僕が慎重に言葉を吐きだすと、平田はわずかに安堵したような笑みを浮かべて歩み寄ろうとする。

 だが、僕はそれに先んじて叩きつけるように言葉を発した。

「しかし、条件がある」

「――条件?」

「そちらの提示する条件を不服とし、交渉を求める、ということだ」

「……なる、ほど。そう来たか」

 平田が口元を歪めて苦笑する。その憎たらしい顔を見据えながら、僕は背後に手で合図して言った。

「ついては、代理交渉人を呼ぶ。それに関しては制約がない以上、異論はないでしょう?」

「――確かにその通りだ。ならば、こちらも人を呼ばせてもらおう」

「どうぞお好きに」

 お互いは睨みあいながら、通信機を口元に運び、本部と通信をかわした。慎重すぎる交渉の結果、代理交渉人と付き人一人を歩きで向かわせるという結論に落ち着き、それを報告する。

 いち早く、通信機から安堵の吐息を漏らしたのは、耳に優しい親友の声であった。

『――上手く、いったようだな。葵』

「ああ、おかげさまで。それじゃあ」

『ここまで持って来れば勝ったようなものだ――それでは、二次作戦に移る』

 そして、彼女は凛とした声を張り上げて、通信機越しにさまざまな部署へ連絡を送る。

 それを聞きながら、ほっと彼女に相談して良かったと、心底から安堵した。

 やがて、慌ただしい動きの中から二人の人間が東国陣営を出たことを通信から確認する。そして、西国側からも二人の人間が歩み寄ってくるのが遠目から分かった。

 平田が僕の背後に視線をやって目を細める。

「――キミたちの代理交渉人も来たね。もしかして、彼女が――」

「僕が最も、信頼している人です」

「……そうか」

 少しだけ平田が嬉しそうにしたのは、気のせいだろうか。

 だが、次の瞬間には真摯な顔になって代理交渉人たちをその場に迎える心構えをしていた。

 僕は少し引っ掛かりながらも半身を引いて、後ろを振り返る。そして、やってきた女性に笑いかけて気安く軽口をたたいた。

「あとは任せていいんだな? 相棒」

「はは、お前の期待に応えてやるさ」

 器材を担いでやってきた榊原緋月は、男勝りでそう言いながら、長い艶やかな黒髪を払って微笑んだ。


「すまないが、器材を組み立てさせてもらうよ。ああ、分かる通り、危害を加えるものではない。平田殿も軍人の端くれならわかるな?」

 緋月はまずそう切り出しながら持ってきた器材を突きだす。その中身をさっと目を通した平田は頷いて承諾の意を示した。

 彼女はそれに満足すると、連れてきた付き人――紅葉と共に器材を組みたてていく。どうやら、記録と通信の装置の類らしい。五分もしないうちにそれらを組み立てると、改めて西国側の陣営と向かい合った。

 緋月は悠々とした態度で、平田とその交渉代理人、付き人を見渡して頷く。

「では、会談を始めよう。いや、これは歴史の教科書に載る、講和会議となるかもな」

 不敵な態度に、平田はやや眉を吊り上げたが、代理交渉人に目配せしてすぐに交渉を始める。

 代理人は一つ咳払いをすると、向上を述べ始めた。

「それでは、こちらの要求は、溝口葵、秋風紅葉の身柄を引き渡すことです。それの代価は、平田伸行の身柄、そして不戦条約の締結です」

「それだが」

 そこでピンと指を立てて緋月は鋭く告げる。

「それはそちらの一方的な要求でしかない。それらの要求はこちらにとってあまり旨味のないことばかりだ。まぁ、確かに不戦協定はありがたい。が、平田伸行殿の身柄は要らないし、こちらの捕虜を引き渡すこと、さらに人質を渡してしまうことはかなり不利だ」

「――そちらも長きにわたる戦争で、疲弊しているのではありませんか?」

「そう思っているなら結構。こちらは十分に戦争が長引いても戦える余裕はある」

 ぴしゃりと言い捨てる緋月に、向こうの代理人はわずかに困惑をあらわにする。

 不戦協定に、二もなく飛びついてくるとあちらは踏んでいたらしい。

 少なくとも、僕からしてみれば誘惑があったが、緋月は冷静に考えてあまり利がないと判断していた。

 畳み掛けるように、代理人の瞳を覗き込んで、彼女はさらに強気に出た。

「むしろ、今からでも戦いを開始するだけの余裕も存在する。失礼ながら、今回の交渉にあたって、万全の準備を喫すために、寺社連合とアメリカ軍の提携の元、軍備を増強させていただいている。さらに、米軍の援軍も要請した」

 その言葉に、平田は愕然として呟く。

「バカな、アメリカに国土を売るつもりか――!?」

「負けるよりは、マシだ」

 緋月がさらりとそう答えを返す。刹那、向こうの付き人が焦ったような表情で代理人の耳元に何かを囁いた。それとほぼ同時に、通信機から情報が入る。

『こちら峰岸。南方より複数の戦闘機が接近中です。米国旗を掲げております!』

 その報告に、僕と緋月は視線を交し合うと、彼女は両手を広げて大仰に告げる。

「と、いうわけで、こちらには何の利益もない訳だ。交渉が決裂に終わるなら、すぐに引き上げてお互い、戦の支度を――」

「ま、待て! 暫し待ってくれ!」

 平田が咄嗟に叫び声を上げる。泡を食った声に、緋月はわざとらしく眉を吊り上げる。

「何だ、まだ要求があるのか?」

「じょ、譲歩する! 条件を改めるから暫し時間を――」

「五分だ」

 その平田に、容赦なく緋月は通牒を突きつけた。

「五分だけ待つ。その間に本国と連絡を重ね、すぐに決断しろ」

 その言葉に平田は顔を青ざめさせて、悔しそうに歯噛みする。その顔を見た瞬間、どこか胸の不快感が晴れた気がした。

 僕は緋月に視線をやると、彼女は得意げにウィンクして見せた。

ハヤブサです。


そして、とうとう、来ました。ラスボス。

葵が信頼をもっとも寄せる親友、緋月ルートです。

真冬ルートからずっとどうしようかなぁ、と構想を練り続けて。


未だに構想が固まっていませんッ!


ふはは、いいもん、この作品、いつもぶっつけ本番で書いているし!

だから途中でいつも引っ掛かっているし!(ごめんなさい!)

とにかく今回はスムーズに更新できるように……頑張ります!

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