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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
秋の道筋
130/138

散るも可憐な紅吹雪―12

   ◇ ◇


『それじゃ、修正したいところはあるが――俺が葵を守り、紅葉があの小娘を抑える。それを第一プランで行こう。そして――』


 回線を介して、空也と緋月を交えた作戦会議をしていたあのとき。

 空也はそこで一旦言葉を切り、確信を持って告げる。

『一応、聞いておこう。緋月殿、多分、第二プランは考えてあるな』

『ふ、さすがは紅葉の兄上。気づいていたか』

 緋月が小さく笑みを浮かべる。その声が淡々としているのを感じ、僕は思わず背筋を冷やした。

 こういう口調の緋月は嫌な予感しかしない。

「まさか緋月――会議室そのものを爆破しようなんて考えていないだろうな」

『ふふ、まさか』

「そ、そうか……」

 ほっと安堵した刹那、素っ気なく彼女はとんでもない爆弾発言を投げた。

『このビルを爆破するだけだ』

「――は?」

『ま、冗談だと思っておけ』

「冗談にならねえぞ……?」

 僕が引きつり笑いを浮かべると、緋月はやれやれといった様子で続けた。

『冗談になるだろう。恐らく、空也殿が第二プランを考えてくれた』

『まぁ、な。狙撃手を仕込むぐらい、だがな』

『――葵に匹敵する狙撃手がいる、と』

 緋月が小ばかにしたように鼻で笑う。だが、空也は自信満々な口調で告げる。

『もちろんだ。――いや、さすがに葵に一人で匹敵するのは難しい。けどな』


『二人だったら、行けるはずだ』


 そう、確かにそのとき、空也と彼はこう対話していた。


『大体、二キロ弱、だったかな? でも、――もそれぐらい撃てなかったっけ?』

『撃てなくはない。だが、外れる』

『へ? でも――って八割がた当てるって……』

『あれは観測手がいるからだ』


 その言葉を裏を返せば。


   ◇ ◇


「観測手ありなら、まだまだ腕は衰えんな」

 一キロ先のビルの窓の方を睨みながら、その男は腕を組んで告げる。

 傍らの男は双眼鏡を片手に、小さく口笛を吹いた。

「さすがですね。目標、沈黙しました」

「うむ。しかし、あの土壇場で窓ガラスが割れてくれてよかった」

「あれ、仕込じゃないんですか?」

「まさか。スラッグ一発や拳銃弾、ましてやライフル弾なぞでは割れまい。さて、空也あたりだと思ったが――」

 暫し考え込んでいた、その無骨な男は顎に手を当てていたが、すぐに首を振るとライフルを担いで踵を返した。

「では、行こうか。元生徒会長殿?」

「はは、久しく葵くんに会いたいですね」

 苦笑いを交し合い、傍らの男はその巨漢の後ろを歩きながら、ふと思う。


 その巨漢は機関銃の掃射に傷つきながらも、愚弟の要請によって立ち上がり、軍の演算兵士と呼ばれるその男と一キロ距離の離れたそのビルで待機していたのだ。

 家族を守るためならば、何でもする。それを体現した男。

 それの姿に苦笑いし、呟く。


「まさしく無双の男だな――秋風、透水殿」


   ◇ ◇


「親父も上手くやってくれた、ようだな」

「ああ――紅葉、大丈夫か?」

「ん、問題ない」

 僕が紅葉の傷を慮って訊ねると、彼女は腕の傷をわずかに庇って頷いて見せる。

 その銃創だけは厳しそうだ。僕は近づいてきた空也に視線をやると、彼はすぐに衛生兵を呼んでくれる。

 それにほっと安堵を息をついていると、不意に緊迫した声が響き渡った。

「秋風隊長!」

「ん、何だ――大佐!」

 空也は声の方向を振り返るとすぐに事態を察知し、拘束された平田の方へ駆けて行く。そこには真紅の液体が――。

 流れ弾、か!

 空也に続いて僕も駆け寄ると、空也が僕を振り返って手招きした。

 僕が恐る恐るそちらに近づくと、そこには鮮血を流しながらぐったりと椅子に寄りかかっている平田伸行の姿があった。

 その姿を見て、ふと、何とも言えない空しさを覚えた。

 親父を貶めたとされる、この男が今、ただの流れ弾で倒れようとしている――。

「――葵、か」

 不意に、その平田は小さく低い声で告げる。薄く開かれた瞳は真っ直ぐと僕を見据えていた。

 その声に、どこか胸の内に溜まっていた何かが拭われていくような感覚を覚える。

 そっとその傍に跪くと、平田は掠れた声で続ける。

「葵――すまぬ……おぬしの父上を、母上を……守れ、なかった……」

 その言葉で全てを察した。この男は、やはり……。

「クーデターは起こそうとして起こしたのではない。そして、親父を殺したのは、平田伸行と、雅典ではない、ということ」

「そうだ。と、言っても、確信を持てずに諌言できなかった、我々の罪でも、ある、が……」

 ごぼ、と喉の奥で不気味な音を立てる。平田は湿った咳の音を立てて鮮血を傍らに吐き出した。夥しい鮮血の量で、思わず目を背けてしまう。

 だが、平田はわずかに淡く微笑んで告げる。

「これは罪なのだろうな。ふふ、もう時間もない――よく聞け、葵」

「はい」

「零は、外務省に、抱えていた――部下に殺された。そいつらが今、東国軍の、中枢……だ。が、西国も胸を張って……国として認められていない。故、に……」

 平田は真っ直ぐに僕を見つめ、力を振り絞って告げる。

「葵、お前が日本を建国するのだ。両国を併合し、元の平和な国家を……そのために、この場で、全軍権を譲渡する……! 秋風や、友人を頼るのだ……」

 刹那、平田の身体から何かが抜け落ちていくのが感じられた。

 死のうとしている。咄嗟に、僕はその肩を支え、真っ直ぐに平田――いや。

 伸行叔父さんを見据えた。


「叔父さん。貴方を許します。ですから――親父とあの世で見守っていて下さい」


「は、はは――あり、が……」


 その瞳から何かが零れ落ちる。

 瞬間、僕の手の中からすっと何かが抜け落ちて。


 消えた。


ハヤブサです。


よーやく完結ですね。

いやはや、真冬と紅葉の戦闘が高速すぎて筆者もついていけないという事態が発生していました。申し訳ないです。

つーか、めっちゃ時間が掛かりました……長くなりました……面目ない。


ですが、次話でついに紅葉ルートも完結ッ! 長らくお待たせしました!

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