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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
秋の道筋
129/138

散るも可憐な紅吹雪―11

 的確に至近距離で、真冬の四肢に銃弾を撃ち込んでことを確認して一息つく。

「――すまん、真冬」

 どさり、とその場で膝をつく真冬を見つめて告げると、空也はほっと息をついてシールドを降ろした。

 その室内に安堵が満ちる中、僕は紅葉の方へ駆け寄った。

 彼女は尻をついたまま肩で息をしていたが、僕が近づく気配に振り返って淡い微笑みを見せた。

「ギリギリ――勝てた、ね」

「ああ……紅葉の誘導のおかげだ」

 僕が苦笑しながら手を差し伸べると、彼女は首を振りながら僕の手を取った。

「義兄様のタイミングも良かったし、きっちり葵も狙撃できた。――でも」

 ちらり、と真冬を振り返りながら、四肢を撃ち抜かれたショックで気絶している真冬に眉を顰める。

「彼女だったらライフル弾でも避けられたんじゃ――」

「避けなかった、と考えるが」

 もしくは、本当に避けられなかったか。僕は真冬を見つめながら、罪悪感に駆られていた。

 彼女は異常な体の動きを見せていた。特に眼前まで迫ったスラッグ弾を交わすのには、並大抵の反射神経では無理だ。だからこれ以上に避けられなかった……。

 僕は紅葉の手を取って立ち上がらせながら、懐からインカムを取り出す。

「緋月と交信用?」

「ああ」

 紅葉の疑問に答えながら、僕は緋月にクレームをぶつけた。

「ったく、緋月、真冬にどんな訓練させたんだ? こんなに身体を柔軟にさせて」

『いや――柔軟にさせるようなことはさせていないぞ。脱臼するコツは教えたが』

 どんだけだよ。

 ……いや、待て。

「脱臼させて、まともに戦えるか? いや、しっかりとした体術だったし……」

 だとするなら、あの無謀な体の動かし方は。

 骨の損傷を構わない、無茶な動き……?

 僕と紅葉の視線が行き交い、二人の思考が同じ場所へと行き着く。

 そんな無茶な動きをすれば、痛みが伴うが常だ。それは身体を阻ませるリミッターでしかない。それを意図的に外しているとしたら――。

 つまり、(ドラッグ)

 その思考に囚われ、カシュ、という小さな射出音を聞き逃すところであった。

 刹那、紅葉はベレッタを抜き撃つ。だが、それは一拍遅かった。

 その瞬間には紅葉が一瞬で跳ね起き、銃弾を避けていた。素早く後退しながら、ベレッタを発砲する。発砲音が二発響いた。

「っ!」

 咄嗟に紅葉が腕を引き、僕は思わず体勢を崩しながらもすぐにライフルを構えれば、そこには儚げな笑みを浮かべた少女の顔があった。ベレッタの弾倉をゆっくりと抜き替え、僕に銃口を向ける。

「動かないで、葵。すぐに二人とも殺してあげるから。後ろの兵士たちも、動かないで」

「くっ」

 空也の低いうめき声が聞こえる。僕は歯噛みをしながら紅葉の手を握る。その紅葉のもう片方の腕からは、鮮血が滴り落ちている。先ほどの銃弾が命中したのだ。

 かしゃん、と彼女の手から滑り落ちたベレッタに、真冬は髪をかき上げながら虚ろな瞳で見つめる。

「相変わらずね、葵。甘いところは」

「脳天を撃ちぬけば、殺せた、か?」

「そう。それで、貴方は、その甘さで死ぬの」

「死なせない」

 その言葉を遮ったのは紅葉は毅然とした声で告げる。力強く僕の腕を引いて自ら背中に隠しながら、彼女は決意を込めて言う。

「私が葵を死なせない」

 うーん、と僕は彼女の背に手を置きながら、頬を掻いた。

「なぁ、紅葉。僕が紅葉を大人しく死なせると思うか?」

「――死なせてくれない、よね?」

「そういうところが甘いんだろうな」

 僕が苦笑し、ゆっくりと紅葉の傍に並ぶ。彼女の手を握ったまま、そっと紅葉に視線を向けた。

 彼女もそれに応じて真冬から視線を逸らし、僕を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。


「愛している。紅葉」

「私も、愛している。葵」


「死ねええええええええええええ!」


 まぁ、そうだろうな。


 うん、そうだね。


 告白の一瞬後に、僕たちは苦笑を交し合うと、僕は紅葉の身体を引き寄せた。

 聞こえた銃声は六発。そのうちの一発がまず、紅葉のいた場所を通り過ぎ――。

 ちらっと不安を覚えながら僕は視線を送りつつ、彼女の腰に手を添える。


 できるかな?


 できるよ。葵なら。


 微笑んで励ますと、葵は困ったように小首を傾げてから私の腰から柳葉刀を抜き放つ。そして、二発の銃弾を斬り捨てる。さすが、葵。

 すぐに葵は刀を捨てると、素早く私の足を払い、そっと抱き上げた。足があった場所を銃弾が過ぎ去る。

 そのまま、大好きな笑顔で彼は私に目で告げた。


 おいで。


 うん。


 そして、唇を強く押し付けられた。

 二人の後頭部を銃弾が通り過ぎる気配を感じてから、僕はお姫様だっこのような要領で抱き上げた紅葉の顔から唇を離して、真冬を見やる。

 踊り、愛し合い、かわし切った。

 それは美しき舞踊(ワルツ)のよう。

 だが、真冬はもはや鬼の形相とばかりに顔を歪め、ベレッタの弾倉を入れ替える。

 それを見つめながら、僕と紅葉は笑って言った。


「この紅吹雪、散らせるものなら」

「散らしてみろ!」


「くそおおおおおおおおお!」


 その咆哮は、慟哭のようにも聞こえた。

 羅刹の表情で、真冬はベレッタを持ち上げ――。


 刹那、彼女の背後のガラスが、弾け飛ぶように割れた。


 目を見開く真冬が反射的に背後を振りぬいた瞬間。


 その額に、銃弾が突き刺さった。


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