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とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
秋の道筋
122/138

散るも可憐な紅吹雪―4

 僕が発砲すると、現れた巨大な影、ヘリの機関銃が火を噴くのは同時であった。

 窓ガラスを機関銃が激しい勢いで窓ガラスを破る。咄嗟に紅葉は僕の腕を引いて、強引に床へと押し倒した。刹那、頭上を轟音を立てて銃弾が吹き荒れる。

 紅葉の身体を抱き寄せ、無我夢中で体勢を入れ替える。が、紅葉はさせじとすぐに体勢を反転させた。

 そのまま揉み合っていると、轟音がどこかくぐもった音に聞こえるのを感じ、力を入れるのを止めた。

 紅葉もすぐ気づき、僕を押し倒した体勢のまま、顔を上げて告げる。

「――隔壁が降りた。異常事態だと認知したみたい」

「随分早い……いや、遅いか?」

「危なかった――防弾ガラスがあんなに早く破られるなんて……それよりもステルス?」

「いや……あれはスケッギォルド……ステルス機能は兼ね揃えていない。恐らく……」

「警備状況が破られた? まさか……」

「それよか、紅葉」

「ん?」

「そろそろ退いてくれね?」

 僕が押し倒された状態のまま、彼女の顔を真っ直ぐ見つめる。彼女はこの体勢に気づいてわずかに頬を赤くした。が、すぐ退くことなく、むしろ僕の腕を掴んでくっついてきた。

「――やだ」

 駄々っ子のように、小さく呟く紅葉。胸板に顔を押し付け、深く吐息をついている。

「そか。――でも、攻められているぞ」

 僕は彼女の背に手を回し、優しく抱きしめながら訊ねると、紅葉はふるふると首を振った。

「隔壁が降りた以上、この部屋は中からしか開けられない。アセチレンカッターでもないと、開けられないから……何していても、大丈夫」

「そか」

 もう一度、そう言うとただ、彼女の身体を抱きしめた。そして傍に転がるライフルを眺めながら、一つ決意を固める。

 ――何としてでも、彼女を守り抜かねば……。


   ◇ ◇


「くそ、警備システムが切られていた上に、低空飛行からの一気呵成の攻撃だと――!?」

「親父殿、落ち着いて下さい」

「これが落ち着いていられるか!? 警備部隊は一体何をやっていたんだ!?」

「とにかく、落ち着いて下さい」

 空也は、慌ただしく装備を整える透水を眺めながら、無理もないか、と一つ息をつく。

 葵が妙に警戒していたから、自分の子飼いの兵士を連れ込んでいたが――まさかヘリが強襲してくるとは。

 子飼いの兵たちは警備部隊と合流し、閣僚の避難に加わっている。つまり……。

「閣僚に関してはほぼ安全です。ですから懸念すべきは――」

「ああ、葵だろう。だが、応接間ならば隔壁が降りている。ほぼ安全だ」

「ま、葵が大人しくしてくれれば、ですけどね」

「その点に関しては紅葉がいる。状況が把握できるまで、彼女は飛び出さん」

「葵が望めば別ですケド」

「――……」

 むすっと黙り込んだ透水。機嫌を損ねたようだ。

 おほん、と空也は空々しく咳払いをしながら、ショットガンを抜いて告げる。

「とりあえず、平田大佐はすでに参謀室にいます。連中が狙うとすれば、葵、閣僚、大佐の三人ですね」

「それに外のヘリも放ってはおけない。――手分けをするべきだな」

「とりあえず、閣僚に関しては自分の部隊と警備隊で何とかなるでしょう。となれば――」

「お前が大佐の護衛に当たれ」

「――は?」

 透水の発言に思わず空也は目を見開いた。構わずに透水はぐっと拳を握りしめ、毅然とした命を下す。

「すでに敵はビルに侵入しているだろう。となれば、大佐閣下の護衛だけでは心もとない。お前も向かえ。その間に儂は――ヘリを撃墜させる」

「だ、だが、親父! 武器は!?」

 当然だが、ここは政務ビルだ。RPG-7などのロケットランチャーは存在しない。かといって小銃では撃破できないだろう。

 ならば、どうやって――?

 それに対し、透水は不敵な笑みを浮かべて拳を握りしめた。

「案ずるな。この身体が、武器だ」

 その言葉と同時に、透水は部屋を飛び出していってしまった。

 空也はその後ろ姿をぽかんと眺めていたが、すぐに我に返るとショットガンを構えて部屋を飛び出した。


   ◇ ◇


 前から黒ずくめの二人組が駆けてくるのを見て、透水は野獣のように牙を剥いて笑った。

 二人組が拳銃を抜いて構える。引き金に指をかけた。

 刹那、どん、と迫撃砲のようなインパクトと共に、二つの黒ずくめに拳がめり込んでいた。

「チェストおおおおお!」

 激しい銅鑼声と共に腕を薙ぐ。次の瞬間、黒ずくめは弾き飛ばされて壁にぶつかり、事切れていた。

 それを確認するまでもなく、その巨影は凄まじい勢いで駆けて行く。

 さながら、それは通り過ぎる竜巻(ハリケーン)のよう。途中で遮る影は、次の瞬間には弾き飛ばされて肉塊と化す。猛る獅子のような彼は一気に廊下を駆け抜け、階段を駆け上る。

 そして屋上に飛び出した瞬間、彼は目の前の障害を見つけ、唇を歪めた。

「見つけたぞ……!」

 風が吹き荒れるその屋上では、プロペラを回転させて浮遊する軍用ヘリの姿があった。

 襲撃者たちを降ろして、援護に回ろうとしていたのだろう、すでにその巨大な姿は宙にある。

 透水は息を吐き出すようにして笑みを浮かべ、腰から拳銃を抜き放つ。


 その次の瞬間、彼の身体めがけて機関銃の銃弾が殺到した。

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