表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある軍の宿舎で  作者: 夢見 隼
仲間と共に
12/138

宿舎の喧噪―5

「溝口、どうだ?」

「……ずっと見ているが、来ないしいないな」

 同僚の新庄の言葉に、僕は視線を外さず端的に答えた。

 そして、ゆっくりと肩をほぐす。

 ここはいつもの見張り台。真冬が回復するのを待つ間、僕も仕事をすることにしていたが……。

「諦めたか、様子見か」

「……とりあえず、榊原にもう平常警戒で良いのではないかと進言してみよう。お前もそう思うだろ?」

「僕は緋月の意見に従う」

「……お前の意見を聞いているんだ」

「僕からしたらいつでも防備していても構わない。みんなが傷つくのは嫌だから」

「お前らしい」

 新庄の苦笑いを浮かべる気配が伝わってきた。

 そしてコトリと視界の端にスポーツドリンクが置かれる。

「進言してくる。まぁ、気長に外を見ていてくれ」

「了解だ」


 そうして数時間経った頃だろうか、ふらりと誰かが見張り台に来た。

 視線を向けると、それはいつも新庄の傍にいる軍曹であった。僕は眉を顰めながら訊ねる。

「ええと……名前は、なんと言ったかな?」

「鈴谷大河軍曹であります!」

「そう、鈴谷軍曹、用件は?」

「榊原緋月准尉がお呼びです!」

「……心得た」

 新庄の意見を受けて平常にする気になったのだろうか。

 僕は固まった身体をほぐしながら慎重に立ち上がり、ぐっと背伸びをした。

 そして、軍曹にその場を任せて見張り台から引き上げた。


 緋月は参謀室にいた。

 僕が参謀室に入室すると、彼女は顔を上げてほっとしたような笑みを浮かべた。

「ああ、葵、調子はどうだ?」

「ずっと同じ格好だから身体がバキバキだ。葉桜のマッサージを受けたい所だよ……それで?」

 用件は? と視線で訊ねると、緋月は頷いて言う。

「君が撃った捕虜の件だが、なかなか口を割らなくてね。まぁ、当たり前かも知れんが……それで君にも尋問に立ち会って欲しい。それで意見を出して貰いたい」

「僕なんかが? ただの銃撃しか取り柄のない軍人だよ?」

「ああ、もちろんその事は重々承知だ。その上で(・・・・)君を呼ぶという事は……分かるな? 管理人。いや、室長?」

 緋月が茶化すように言う。なるほど、そういうことか。

 僕は肩を竦めるとその場で恭しく一礼して見せた。

「仰せのままに。隊長。でも親父ほど上手くは出来ませんよ」

「ほう? それなりには出来る自信があるのか」

「ええ、まぁ」

「ふ、さすが溝口零の息子だ」

 緋月は皮肉そうに唇を歪める。そして、先導して歩き出した。

 それに何を思ったのか、まぁ、想像がつかなくはないが、想像したくないな。

 僕はそう思いながら頭を持ち上げるとその背中を追った。


 尋問室は地下にある。

 見張りの兵士に所属軍隊と身分証明書を見せて二人で室内に入る。しかし、いきなり捕虜とご対面にはならない。

 小さな小部屋に武器を置く棚と、中の様子を伺える窓がある。捕虜からは見えない窓が。

 そしてその窓からは小さな女の子が中に座っていた。俯いていて顔はうかがい知れない。だが……蒼い髪をしている。妙な事に。

「君はここで見ていてくれ。私は会ってくる」

 緋月は軽くそう言うと、軍服のベルトに下がっている軍刀と拳銃を棚にぽんと置き、中へと入っていった。

『やぁ、八重、元気にしていたかい?』

 緋月が馴れ馴れしく声をかけると、その子は顔を上げた。鳶色の瞳が警戒心を剥き出しに緋月を見つめている。

 幼げな顔立ちはどうも葉桜に似ている。だが、こちらはどこか幼い顔に大人のような色が見える。

「……いや、まさかな……」

 まさか、あちらさんはあの技術に手をつけたのか……?

 それにしたら……非常に不味い。なるほど、緋月が僕を呼んだのも分かった気がした。

『夕食は何だった?』

『……カツ丼』

 ぽつりと少女は答える。葉桜よりも少し低い声だ。疲労も入り交じっている気がする。

『あちゃー、カツ丼か、私も食べたかったなぁ。どうだった?』

 緋月は務めて明るく接する。それにチラリと八重は視線を向け、そして逸らすと、そこそこ、と答える。

『で、カツ丼ついでにケロっと吐く気にはなった?』

『…………』

 黙秘。

 じっと耐えるように手元に目を落とす。

 緋月は諦めて別の話題を振ることにする。

『どうだ? この部屋の生活は。前の軍隊と比べて幾分マシか?』

『…………』

『まぁ、マシだったら良いけど。我が軍隊の誇りにかけて捕虜は丁重に扱いたいからね』

『…………』

『飯がインスタントばかりでごめんな。美味い物、食べたいかい?』

『…………』

『安心しろって、毒は盛らないから』

『…………』

 黙秘が続き、緋月が明るく一方的に話す状況が続いた。

 なるほど、よく鍛えられている。

 僕は思わず感心する。

 緋月の『前の軍隊と比べて幾分マシか』という質問に答えなかったように、比較させて情報を流出させていないようにしている。

 飯の質問でも、『そこそこ』と答えた。まぁ、取りようによっては良い方向にも取れるかも知れないが、そういう抽象的な回答で翻弄しようとも見える。

「んー……まぁ……」

 不可能、ではないか。

 結構、綻びも見えるし。

 いや、完璧故に、といった話かな?

『……じゃ、今日はこのぐらいにするか。何か話したい事があったら気軽に呼んでくれ』

『…………』

 そして緋月が出てくる。ドアをキチンと閉めてから僕を真っ直ぐ見た。


どうだった(・・・・・)?」


 全てが集約されたような問い。

 それに答える言葉は、これしかない。


「良い子なんじゃないかな」


 僕の明るい声での答えに、緋月はくすりと笑みを漏らした。

「ん、君がそう言うならそうなんだろうな。……うん、そうしようか」

 そしてくすくすと笑い続ける。

 いつも妖艶で大人びている彼女にしては、珍しく幼げな笑みであった。

ハヤブサです。


はうぅ……申し訳ないです。遅れてしまって。

催促が来てしまったので、いろいろとそっちのけで軽く書きました。ちょっと雑かも知れませんけど……。そこはお目こぼし下さい。


感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ